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4‐9

 カーティスとルクスを乗せて馬車が動き出す。

 馬車の内部は広くはないながらも豪華な作りとなっており、騎士二人が御者席に座り、ルクスはカーティスの座る長椅子の向かい側に腰かける。

 その座り心地と柔らかさに驚いたのも束の間、小窓を覗けばいつの間にか景色が後ろへと流れだしている。


「なんだ、下民。落ち着きのない奴だ」

「いえ、音がしないし、振動も」


 ルクスが乗ったことのある馬車の乗り心地は、それはもう酷いものだった。もっとも、しっかりとクッションのある椅子のついた馬車に乗ったこと自体が初めての経験ではあるが。

 それにしても、全く振動も音も感じないと言うことは、普通にしていてはあり得ないことだろう。


「当たり前だ。アルテウルの誇る魔法技術によって、これは王族が乗るように特別に設計してある。最高の乗り心地が約束されているんだ」

「……そうなんですね。でも、音が聞こえないと少し不安です」

「不安?」

「戦いでは音も重要ですから。相手の接近に気付けないかも。特に獣人やエルフ達はとても耳がいいので」


 ベオも確かかなり耳がよかったはずだ。大声で話されることを嫌うし、猫探しをしていた時は遠くの猫の鳴き声を聞きとって探し当ててもいた。


「馬鹿な、亜人が人間より優れていることがあるものか。奴等は淘汰される対象だぞ」

「……それは」


 一瞬、ルクスは口籠った。


「なんだ?」

「……いえ」


 あの日、ルクスは見た。

 樹海の奥で行われていた亜人と呼ばれる者達に対する非人道的な扱いの後を。

 そしてルクスが戦った魔獣もまた、そうやって人々から迫害された者達の恨みを集めた悲しき怪物だった。


「はっきりしない奴だな。……ひょっとしてお前」


 カーティスがルクスの目を覗き込んだ。

 慌てて視線を逸らそうとするが、既に遅い。カーティスの瞳が驚愕に見開く。


「人造兵か!」


 ルクスは黙って頷いた。


「これは珍しいものを見たな。つまりはお前はあれか。下民以下の、使い捨て人形と言うわけだな」

「それは違います」


 否定の言葉を口にしても、それがカーティスに届くことはない。


「何が違う? お前達の先達が何をしたか、知っているだろう? 奴等は我が国の魔導師達によって生み出されたのにも関わらず、魔王戦役の際に亜人共と一緒に人間を裏切ったのだぞ」

「それは……! 確かにそんな形を取ったことは間違いだったかも知れませんけど、でもそうするだけの理由があったのかも知れません」

「あるものか。そもそもお前達にまともな知能があるのか? ただ戦場で剣を振るい、朽ちていくだけが能だと思っていたが」


 カーティスから伝わってくる感情は、侮蔑以外にはない。

 ルクスが人造兵であるとわかった瞬間、彼はもうルクスのことを人間として扱うことをやめていた。


「土壇場で裏切ったりはしないだろうな? 必要なら、体内に時限式の爆弾でも入れておく必要があるだろう」

「そんなことはしません。僕は僕のギルドに誓って、この仕事の間は貴方を護ります」

「ふんっ。人造兵如きがか?」

「その人造兵が、今この場で一番の功績を持っていると、あの騎士の人達は言っていたみたいですが?」

「……ちっ。確かに貴様はウィルフリードの推薦でここに来たんだったな。頭の切れる在奴が、まさか役立たずを送ってくるとも思えん。……それにまぁ、今回の出陣もどうせ形だけか」

「形だけ?」

「ああ。そういう手筈になっている。他の連中には教えていないが、既にギルド・グシオンの先遣隊が目的地で亜人共と交戦中だ」

「じゃあ、僕達が行く意味は?」

「馬鹿な奴だな。僕が行って、そして残った連中を蹴散らす。これでこの反乱は僕の手によって収まったことになる。その意味がわかるか?」


 仮にベオやオーウェンならば、その時点で何かを察したのだろうが、ルクスはまだそこまでの考えには至っていない。


「威光だ。神の血を引く王家の僕が穢れた血を片付けた。その事実は再び下民共が僕達に触れ伏す理由となりえる。……確かにそう考えれば、お前を僕のところに寄越したのも理解できるか」

「どういう意味ですか?」

「人造兵すらも使ってみせる僕がいかに優れているかを世に知らしめることができると言うことだ。そうすれば、王宮の連中も僕のことを見直すだろう」


 見直す、とはどういう意味だろうか。

 それはカーティスにとっても失言だったようで、彼自身もバツが悪そうな表情をしていた。しかし、ルクスがそれに付いて質問をしなかったことで、すぐに安堵の息を吐く。

 カーティスの話を聞いたことで、ルクスとしてもこの戦いの意味が理解出来た。

 つまりこれは、予め仕組まれた戦いなのだろう。既に王国はグシオンに依頼を出し、王族が反乱を防いだという事実だけを残す。

 そのために連れてこられた飾りの軍隊が、ルクス達各地から集められたギルドと言うことだ。

 だから部隊の連携などは必要なく、むしろ寄せ集めの兵隊の方がそれだけカーティスの有能さの証となる。同時に、王家がギルドと強い繋がりを持っているとアピールできるという理由もあるわけだ。


「おい、人造兵」


 それは、カーティスにとってはなんて事のない問いだったのだろう。或いは、蔑みの対象となったルクスに対するからかいのようなものであった可能性も高い。


「人間でないお前は、誰の味方なんだ?」


 嘲りの笑みと共に掛けられたその言葉に、ルクスは即答することができない。

 そしてその質問は、ルクスの心に深く突き刺さる棘となる。

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