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目的地までの行軍は、王家のための特別な馬車を用いても三日の時間を要した。
その間ルクスは我が儘で周囲との軋轢を生む王族であるカーティスの世話係のような役目を務めさせられた。
幾ら王族のための設備を可能な限り用意してあると言っても、行軍中は不自由が付きまとう。カーティスはその度に我が儘を言って周囲の人間を困らせた。
ルクスはその一つ一つに丁寧に対応し、時には自分が盾となることで他のギルドの人達をカーティスの癇癪から護ることもあった。
「おい! もういい加減に僕は疲れたぞ! そろそろ休憩にしろ」
カーティスがそう言うと護衛の騎士は馬車を止め、夜営の準備を始める。
それに対して不満を零すのは、他のギルドから集められたメンバーだった。カーティスがそうやって行軍を遅らせることで、予定よりも時間がかかってしまっているからだ。
馬車を降りて準備をする騎士達に対して、一人の男が話しかける。軽装備をした、少し荒っぽい雰囲気の青年だった。
「おい、また休憩かよ? 目的地に着く前に俺達を爺にさせるつもりか?」
「カーティス様のご命令だ。お前達も早く準備をしろ」
それだけ答えて、騎士は淡々と準備をする。
「今から全力で向かえば、日が沈む前に目的地の近くの街に付く! そこで休んで翌日の昼間に連中を攻撃できるだろうが。このまま行ったら夜中に敵が罠を張ってる場所に突っ込むことになるぞ!」
「その場合は再度時間を遅らせればいいだけの話だ」
「あのなぁ! 俺だって故郷に可愛い部下達や家族を残してきてるんだ! 確かに金払いはいい仕事かも知れないが、そんなに長い間留守にするわけにはいかねえんだよ」
騎士はその言葉を無視して作業を続ける。
ルクスが出て行って話を収めようとしたところで、余計なことにカーティスも同様に王族用の馬車から彼等の前に姿を現した。
「何を吼えている、下民」
「王子様よぉ、あんたの我が儘でこれ以上のんびりしてるわけにはいかねえんだよ」
余りにも無礼な口の利き方に、騎士が剣を抜きそうになったが、カーティスはそれを手で制する。
「何故だ? 言ってみろ?」
「今回の亜人共反乱は、あんたが思ってるより大きな規模になっている。このまま中枢を抑えるのに時間を掛けてたら、俺の街が襲われるかも知れないんだよ。俺は手っ取り早く事を治める手伝いができると思ったから、ここにいるんだ。それがこう何度も何度も休憩されてたら、故郷で自分のギルドを指揮してた方がよかったって話だよ」
「仕方がないだろう。馬車での移動は疲れるんだ」
「こんないい馬車に乗っててか? 座ってるだけじゃねえか」
「僕が普段使っている椅子やベッドからしたら、下の下でしかないからね」
「いい加減に……!」
「僕に手を出したら、父上が黙っていないよ。お前も、お前のギルドもその家族にも、王家の名の下に英雄による罰が下されるだろうね」
「……!」
男は怒りの形相でカーティスを睨むが、それ以上何も言うことができなかった。
当然だ。英雄が差し向けられる、その言葉の意味が理解できないものは、恐らくこの国には存在しない。
ルクスはこの辺りが潮時だろうと判断して、二人の間に割って入る。
「カーティス様。この人の言うことにも一理あります。その、できるだけ早く解決して帰った方が、より王家の力の強さを周りに見せつけることができる、かと?」
「人造兵にしてはいいことを言うじゃないか。確かにお前の言葉にも一理ある。スピードも大事かも知れないな。よし、休憩はやめだ」
カーティスの言葉で、騎士達は文句の一つも言わずに途中までしていた準備を中断し、片付け始める。
その様子を見たカーティスは、満足そうに馬車の中へと戻っていった。
「助かったよ。本当に故郷が心配でな。数日で戻れるから来たってのに」
男は表情を崩し、ルクスに礼を言った。
「いえ、僕は思ったこと言っただけなので」
「やっぱり魔獣殺しは伊達じゃないな。実は魔王再誕の時に同じ戦場にいたんだぜ?」
「本当ですか?」
「ああ。つっても部隊は全く別だったから、顔を合わすこともなかったけどな。後になってギルドメンバーからあんたの話を聞いて、驚いたんだ。まだ子供なのに、英雄やウィルフリードに続く活躍をした奴がいるって。でもその所為であいつのお守りをさせられるってのは災難だな」
「いえ、全然大丈夫ですよ」
実際、カーティスは我が儘だが、我慢できないほどではない。ベオより少し上ぐらいだ。
何よりもルクスが人造兵であるということからこれまで受けてきた迫害に比べれば、カーティスの対応はまだ優しいものであるとすら言える。言葉だけで、実際に手を出してくることはないのだから。
「俺の名前はケント。俺達が縄張りにしてる街はパースルって言ってちょっと田舎の方なんだが、今回の件が片付いたら遊びにでも来てくれよ」
「はい、是非!」
軽く差し出された手を握る。
その辺りで騎士達が片付けを終えたので、ルクスの馬車の中へと戻っていく。
カーティスとの出会いはともかく、少なくとも今回の件で得られたものは、ルクスの中に確かにあった。




