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4‐7

 オーウェンがギルドに加入してから数日後の夜。ルクス達はささやかながら彼の歓迎も兼ねて、ギルドの全員で夕立亭にて食事をしていた。

 既にすっかり常連となったルクス達の姿は、すっかり夕立亭の夜の光景として溶け込んでいた。

 軽く乾杯をして、料理に舌鼓を打つ。エレナが運んできてくれる飲み物は、オーウェンのみ麦酒で他は果実を絞ったジュースだ。


「で、どうだい俺の働きぶりは。なかなかのもんだろ?」


 上機嫌にオーウェンが尋ねると、それとは対照的にベオは不機嫌そうに尻尾をぱたぱたと揺らしながら目の前の肉料理にフォークを突き立てた。


「ふんっ。嫌味な奴め。貴様が使い物になることぐらい、最初からわかっていた」


 どうやらベオも、無事にオーウェンのことを認めているらしい。ルクスは一安心する。


「私はぼんくらが増えるのを嫌がっただけだ。別に使い物になるのなら、異論はない」

「も、もしルクス君目当ての女の子が入ってきたら?」

「燃やす」


 彼女の掌に生じた小さな火花で、肉の焼き加減が一段階上がったような気がする。


「いやー、愛されてるなぁ、ルクス」


 揶揄うようにそんなことを言ってくるエリアスだが、次の瞬間には髪の毛の一部をベオによって焦がされる羽目になった。


「馬鹿なことを言うな。こいつはまだまだ未熟なのだ、色恋沙汰に現を抜かす暇があると思っているのか!」

「わかってるよ。それに僕なんかを相手にしてくれる女の子もいないだろうし」

「……ま、そうだろうな。余程の変わり者ぐらいだな」

「わたしは変わり者じゃありませんよ」


 そう言いながら、エレナが空になった食器を片付けていく。この場でその真意がわからなかったのはルクス一人のようで、首を傾げたところ、周囲から幾つかの溜息が零れた。


「ベオさんも大変っすね」

「黙れ」

「アディも」

「ベッドをぬるぬるまみれにしますよ」


 ルクスにわかったことは、女性陣からのエリアスの扱いがあんまりだと言うことだけだった。

 そんな和やかな空気を打ち壊すように、夕立亭の扉が強く開かれる。

 元々荒っぽい職人やギルドの兵士、時には傭兵も出入りする酒場なので、それ自体は特別珍しいことではない。

 それよりも店内の客達の視線を奪ったのは、その男が何やら挙動不審に、誰かを探しているような動きをしていたからだった。


「誰かお探しですか?」


 エレナが傍に近付いて、そう声を掛ける。

 彼女の笑顔を見てか、その男の纏う空気も多少は弛緩したように見えた。

 喧騒に紛れて聞き取れないほどの声で二、三言会話を交わしてから、今度はエレナがルクスの方へと歩いてくる。


「あの、ルクス君」


 それが何を意味しているかを理解して、一同は食事を手を止めた。


「あの人、ルクス君に用事だって。ギルド・グシオンからの使者の人みたいなんだけど」

「……こっちに来てくれるようにお願いします」


 エレナが使者にそう伝えると、彼はルクス達の席までやってくる。


「また面倒に巻き込まれるんじゃないだろうな」


 心底嫌そうに、エリアスが呟いた。確かに前回は騎士団、前々回はギルド・フェンリスからの手紙が発端で事態が起こっていたので、彼の気持ちもわからないではない。

 そして当然、フェンリスと二分する巨大ギルドであるグシオンからの使者が世間話をしにくるはずもない。


「魔獣殺し、マスター・ルクス様」


 予想外に使者の態度は恭しく、ルクス達は面食らう。


「貴方に大きな依頼があり、それを伝えるために今日は参上しました」

「大きな依頼?」

「はい。これを」


 使者は懐から一枚の紙を取り出すと、ルクスに手渡す。

 ルクスがそれを眺め、背後からギルドの面々がそれを覗き見る。


「ベオさん、読めるんすか?」

「読めん」


 そう言いながらも、ルクスの間後ろにベオはぴったりとくっついていた。


「こりゃ驚いた」


 一番最初に全容を理解したのは、オーウェンだった。続いてエリアスが驚きの声を上げる。


「お、王族の護衛!? 王族って、アルテウルの……神の血族の!?」

「うるさい」


 ベオの蹴りがエリアスを吹き飛ばす。


「……何だ、その神の血族というのは?」

「アルテウルの王族のことさ。王家は神話の時代に神からこの大地を託され、地上に降りた。そして幾度となく降りかかる試練を乗り越え、この地に国を築いたんだ」


 オーウェンの説明に、ベオは神妙な顔をして頷いた。


「……神の血を持っていると言うことか?」

「ま、そう言うことになるよな」


 ベオは何やら腑に落ちないような表情をしていたが、それ以上特に何かを語ることはなかった。


「お話しを続けても?」

「お願いします」

「書面にも書かれていますが、ここ最近は亜人達が徒党を組んで人里を襲う事態が多発しています。騎士団はその原因が、一つの大きな亜人の連合組織にあることを突き止めました」


 確かに使者の言う通りここ数日でルクス達がこなす依頼にも、亜人の野盗によるものが増えていた。


「それを討伐するために、王家の五男であるカーティス様がご出陣なされる運びとなったのです。そしてその護衛に」

「……僕を?」

「はい。王家の守護には相応の人材をと大公閣下は命じられたのですが、何分何処も人手不足でして」

「そういう時こそ英雄の出番じゃないのか?」


 いつの間にか席に戻っていたエリアスの疑問に、使者は首を横に振る。


「英雄達にもそれぞれに任がありますので。それに魔王再誕で負った傷を癒している最中の方も多いのです。そしてそれは、各ギルドも同様です」

「魔王再誕の時も思ったけど、この国って慢性的に人手不足じゃねえか?」

「かも知れませんね。それで、今回我等がギルドマスターからの推薦で、ルクス様が選ばれたと言うわけです」

「ギルドマスター? あの氷の奴か」


 ベオが思い出したかのようにそう言った。

 ウィルフリード。グシオンのギルドマスターである彼とは魔王再誕の際に一緒に戦った。その時見せた圧倒的な氷の魔法は、まさに巨大ギルドを束ねるに相応しいだけの実力をルクス達に見せつけてくれた。


「へぇ、すげえじゃん! あの戦いでルクスの戦いをちゃんと見てくれてたんだな!」


 エリアスはまるで自分のことのように喜んでくれていた。


「みんなはどう思う?」


 幾らギルドマスターとはいえ、ルクスの一存で決められることではない。特に遠征に関しては、全員の意見を聞く必要がある。

 しかしそんなルクスの質問に答えたのは、使者だった。


「残念ですがルクス様。今回の任務に参加できるのは、ルクス様一人となっています」

「……何故だ?」


 ベオが鋭い視線を使者に向ける。


「王家が関わる事態ですので、ギルドによる共謀を防ぐためにも王国上層部での相談の末に、各地から選ばれた精鋭を配するという形をとっているのです」

「なるほどね。ギルド同士が集まってよからぬことを企んだり……もしくは反発するようなことがないようにってことか」

「はい。それにもっと単純な話、軍の規模は王国側が決めているため、それ以上の人数になり敵側に動きが読まれることを防ぐという理由もあります」

「……ふむ」


 意外なことに、一番反発しそうなベオが腕を組んで、椅子に深く腰掛けて黙っていた。


「……でも、これってさ」


 その口火を切るのは、やはりエリアスだった。

 彼もまた、ルクスと同じ望みを抱く者として、その可能性を考えてしまっていた。


「王族に力を認められれば、英雄になれるかも知れないよな」


 英雄は王族により選ばれる。神の仔である王家から加護を受け、強大な力を持つレリックと呼ばれる神器を受け取ることで英雄は生まれる。


「……ルクス、君」


 これまで黙って話を聞いていたアディが、ルクスの名を呼ぶ。

 彼女はルクスの過去を知っている。だからこそ、それ以上何も言うことができない。

 紛い物の英雄が、もし本当にそこに至れるというのならば、この機会を逃せばもうないかも知れない。


「……行きます」


 ルクスは使者の目を真っ直ぐに見て、そう答えた。

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