《勇者適正》は引かれ合う
今日も森で狩りをすることになった。昼を過ぎて、二人と合流。今日も天気は快晴。
「気を、使わないでね!」
できれば忘れて欲しい。そう伝えると、イッサさんとソージ君は、
「「お、おぅ」」
と曖昧に応えた。
朝起きると、村中のみんなの前で泣き叫んだ恥ずかしさで、褐色の顔が熱かった。
おはようございますと挨拶をすると、ヒジカと両親の表情が、僕の顔を見て涙ぐんだものに。
朝食も美味しかったが、昨日のように泣き叫ぶことにはならなかった。
それでも心配そうにこちらをちらちらと窺うヒジカの両親の視線を受けて、また顔が熱くなる。
「お? また泣くノか?」
そう言うヒジカに、泣かないよと少し怒ってみせると、両親も安心したようだった。本当は、まだ泣きそうだったのだけれど。
せめてからかってくれたヒジカを、ありがたいと思った。こんな兄さんがいたら、本当に幸せだろう。
朝食のあと、ヒジカと両親の《薬師》の仕事を手伝った。
言われた通りに、薬草をすり潰したり、天日干しにしていく。快晴の中、ヒジカと並んで両親のためにやる作業は全く苦にならず、作業しながらヒジカと話すのも楽しかった。
「……ちょっと、もしかしたらと思ってたンだガ」
「何?」
手を口元に当てて考えるような仕草をしていたが、結局ヒジカはやっパリいいと言って、何も訊かずに作業に戻った。昨日の狩りを見て、僕も勇者の旅に誘ってくれないかと期待したけれど、そういう雰囲気でもなかった。
何だろうと不思議に思ったけれど、魔物と疑われているわけではないだろう。それは怖い。出来るなら、亜人の仲間としてヒジカに付いていきたいのだ。
僕自身が勇者になることより、勇者ヒジカを支える一人になりたがっている自分に、少し驚いた。これが勇者の魅力だとしたら恐ろしいけど、たぶんヒジカだからだろう。
家を出てイッサさんとソージ君に合流するまでは、門までの短い移動だったけど辛かった。
村の人からの温かい目を感じる。涙ぐむ人たちもいた。みんながいい人すぎるのが逆に辛い。
フェレットのおばさんからは、これから幸せにおなりと背中をバシバシ叩かれた。
だから、この二人にまで気を使われるのは嫌だった。それで気を遣うなと言ったのだが……。
「な、なぁ! 菓子でも食うか!? 村の女連中がみんな美味いって言ってんだ!」
イッサさんは、お菓子を勧めて喜ばせようとしてくる。
「タマソン村にはー、俺以外にも同年代の子がいてですね。みんな君と仲良くしたいみたいですよ」
ソージ君は、楽しい生活が待っているのだと慣れない様子で語ってくる。
何だお前、おしゃまでちょっと冷たい感じじゃなかったのかと言いたくなる。所詮はタマソン村の人間で、人が好過ぎるのか。
ヒジカが来ていれば、気を使われないようにしてくれただろうと思う。残念ながら、明日の出発準備で忙しいようで、今日は来ていない。三人での狩りになる。
お菓子は美味しかった。
そういうわけで今日は、三人でまた《魔の大森林》に向かう道中だ。また草原を歩いている。
二人の優しさは嬉しいのだけれど、頭の中に昨夜の僕のみっともない姿が残っているのだろうと思うと、今なお恥ずかしい。
一晩経っても、あの時の感情が何だったのかはわからない。夢の中で寂しい景色を見た気もするけど、忘れてしまった。
そんなことを考えていても、二人からの温かい気遣いは終わらないので、こちらから話題を振った。
「二人は、ヒジカと一緒に戦う旅に出るんでしょ?」
そう言うと、二人は黙ってしまった。
仕方ない。少しズルい話題だったと自覚はしているけれど、ここをいつまでも避けてはいられないだろう。ヒジカは明日、旅立つのだ。
僕が行けなかったとしても、明日ヒジカはタマソン村を出る。その時二人は、一緒に行かなきゃいけない。
「……そのつもり、ではあるんだがな。ヒジカの盾になるつもりで、鍛えているんだ」
「やっぱり……、イッサさんもですか。俺もヒジカさんのたー、その、亜人のためなら危険くらい、どうでもいいって思ってるんですけど」
二人は言いよどむ。お互い相談もしていなかったようだ。
まぁ予想通りなので驚きはしないが、ここは幼さを利用してとぼけよう。
「まだ決めてないの? 一緒に行くものと思ってたけど」
「俺だって行きたい! ただなぁ、俺で役に立てる、と思われてるのかが、な」
「俺も、誘われていないんです。これは、俺の実力が不足しているからなのではと……」
いつでも命を投げ出す覚悟は出来ている。
それでも、目標は大きすぎる。それに田舎の世界しか知らない自分が役に立てるのかが、不安なのだ。
村でも能力の高い二人だけに、友に実力不足を言い渡されるのは、恐いのだろう。
えーい、面倒くさい。
「……でもヒジカ、誘いたいけど危険な旅に誘うのはどうかって悩んでたよ?」
もう面倒なので、勝手に言ってしまった。
大人気ないと言いたければ言うがよい。
だって僕生後一ケ月くらいだし。見た目十歳くらいだし。かわいい美少年だし。
きっと許されるだろう。かわいいは正義だし。
「本当かッ!?」
「本当ですか!?」
思ったよりも、反応は大きかった。
「お、おぅ」
特に僕の二倍近くあるゴリラの圧がすごい。
狐は狐で、僕の両肩を掴んで揺すってくる。久し振りに脳震盪になりそうだ。
なんだなんだ、かわいいヤツらめ。
「そうだよ、だから、二人はそんな心配する必要無くって」
あぁアカン。本当に目が回る。二人がやるべきことは。
「ヒジカもそんな心配する必要は無いんだって、言ってあげることなんじゃない?」
言うと、尻から持ち上げられた。狐と一緒に宙に浮く。
ゴリラが僕と狐を持ち上げて、上空に放り投げたらしい。テンション上がりすぎだ。
目が回っている僕は、段々くらくらしてきた。一緒に投げられた狐は、泣きながら笑う器用な真似を見せていた。
まぁいいか、と思って僕も笑った。




