三人の狩り
無言で顔を赤くしている二人と、森へ向かって歩いていった。
テンション上がりすぎたことと、涙を見せたことを恥じているみたいだ。
思い知ったか、という意地悪な気持ちもあるが、無言は恥ずかしさだけじゃない。
横目で見る二人の表情は、これからに期待する目になっている。瞳が希望に満ちていて、表情は時折強い笑みが浮かぶ。
『やってやる』
なんて言葉が、気を抜くと意図せずに口から出てしまいそうだ。
これからヒジカと一緒に、強くなって、魔物を倒していき亜人を救う勇者一行としての旅に出る。
そんな想像が、頭の中を駆け巡っているはずだ。昂っている気持ちは、見ていてわかる。
眼は遠くを見ていて、歩く姿にも必要以上に力が入っている。
……僕も一緒に行きたい、なんて言い辛いな。
幼馴染の三人に、割って入る真似はしにくい。割って入って野暮なヤツと思われるのも怖い。
まぁ、認められるように狩りで頑張らなきゃかな。
というわけで、狩りを開始したのだけれど。
「……むぅ。今日は難しいな」
結果は四連続失敗。一人減ったからというより、減った一人がヒジカだったことに問題がある。
僕が昨日のヒジカの役。大回りしてのソージ君との挟み撃ちを狙っていた。
「くっ。追いつけませんでした」
昨日の方が、ソージ君は1.2倍くらい速かった。
「俺の方からも、逃げられてるな」
イッサさんの圧も弱い。獲物が怖がっていない分、素早い狐から遠く、イッサさんの近いところを逃げている。
さすがに野性は僕が何かをなんとなく察しているのか、決して僕の方には逃げてこない。僕の方にくれば、なんとかやりようもあるのだけど。
ヒジカの勇者パーティになることの昂揚で、二人が舞い上がっているというわけではない。その気の緩みは一回目の失敗で修正した。
……おそらくこれこそが《勇者》の職業補正というやつだろう。味方の能力を、飛躍的に向上させる。
これが正式になっていない《勇者適正》を持っているだけで現れている効果なのだから、末恐ろしい。
ソージ君の素早さ1.2倍はえげつない差だし、イッサさんにおいては昨日使えていた圧のスキルさえ使えなくなっている。
「作戦を変えた方がいいだろうね」
僕が言うと、二人は頷いた。自分の能力が落ちていることは、深く自覚しているだろう。
正直、僕一人で《隠密LV6》で近づいて《邪眼》からの《突貫LV5》《破砕牙LV4》をやれば終わるのだけれど。
魔物ではなく亜人として、狩らなきゃいけない。《邪眼》も《破砕牙LV4》をこのレベルで使える亜人もいないし。
「役を変えようよ」
「……どういうことです?」
「僕にヒジカの役割は無理だ。挟み撃ちのカッコだけをマネするだけなら出来るけど、出来ないことの方が多い」
そもそも、能力を上げられるヒジカがいるのといないのとでは、前提が違う。低い能力で同じことをやっても、成功率が落ちるのは当たり前だ。
「じゃあどうする」
イッサさんが、真っ直ぐに目を見て聞く。
「イッサさんに、半分ヒジカの役をやってもらう。僕は僕として跳ぶよ」
ソージ君が少し考えるようにして、首に当てた手の指を、トントンと数回叩く。
「……なるほど。俺の負担が大きそうですが、それしかなさそうです」
察しのいいソージ君に苦笑いする。そもそも、僕とソージ君の能力を最大限に活かす方法なので、中距離を駆けるのが得意なソジ君が走らなきゃいけないのも当然だ。
「わからねぇ。どういうことだ」
ゴリラの方は察しが悪い。確認のためにも、地面に指で描きながら説明した。
「つまりは、イッサさんはいつも通り圧を出しながら走って獲物へ向かってもらうんだ。今までは一番最初に動いてたけど、今日は一番最初に動くのはソージ君になるよ」
獲物に向かって、ソージ君が走る線を描く。走る経路は、獲物がイッサさんの方に逃げやすい道だ。
「獲物は俺に追われて逃げ出しますけど、途中でイッサさんの圧に気づきます。そこで方向転換をした瞬間に」
ソージ君が僕を見る。
「僕が獲物を転ばせる。ソージ君は転んだ獲物の足を噛んで、動きにくくする」
「その後は、転ばせた蛇と狐でフルボッコです。イッサさんも間に合えば、加勢してください」
つまり、ヒジカの挟み撃ちをする役割を、イッサさんにやってもらう。
そして、ヒジカの止めを刺す役割は、僕とソージ君でやる。
能力を高める役割は無理。ないものはないもん。
僕も《勇者適正》は持っているのだけれど、持っているだけでは駄目みたいだ。
「わかった! じゃあやるとすっか!」




