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蛇に転生しました。勇者か魔王になろうと思います。  作者: 松明ノ音
【少年編】邪眼の大蛇は少年になった。
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トージス家の食卓




「いっやぁ、大収穫だったな!」


 三人はほくほく顔だった。


 結局、近くに見えた鹿と馬二頭も難なく捕らえることが出来た。


 イッサさんの威圧で動きを止めた獲物の上に、僕が《突貫LV4》と《空中戦LV5》で跳び乗り横に転ばせる。


 左から追いつくソージ君が足を噛んで動きを止め、右から来たヒジカが首と胴を分断する。


 その要領ですべて上手くいき、簡単に狩ることが出来た。


 馬二頭は、僕が一頭目を転ばせてすぐもう一頭に跳び乗った。


 太腿で《破砕牙LV4》をやるつもりでちょっと締めてやると、大人しくなり《騎乗》なんてスキルを手に入れることができた。


 従順な使い魔になってもらえないかとも思ったが、その気配はなかった。恐怖で従わせているようなものだし、僕にはそういう適性がないのだろう。


 僕が降りればすぐに逃げ出しそうなので、乗りつつ獲物を僕の腰の後ろに載せて運搬させている。


「いつもは三回に一回成功すればいい方なのに、今回は全部成功でしたね」


「一人の加入ガ、ずいぶんと大きかったナ」


 そう言って、みんなが騎上の僕を見る。とりあえずはにかんだように笑っておこう。


「僕も、役に立てて嬉しいよ。僕たち、いいチームになれそうだね」


 それから、何だかお互いを褒め合うような流れになってしまった。


 嬉しいが、照れ臭い。けれども楽しい時間だった。


 聞けば、ソージ君の速度上昇もイッサさんの異様な圧も、最近身に付いたものらしい。


 年齢的な成長だろうと思っているが、それにしても急に身に付いたと。


 ……その始まりはきっと、ヒジカが勇者になった時だ。


 年下の、幼馴染の弟分が勇者として魔物と戦いに行く。それを守るのだと、イッサさんは決意したのだろう。


 そして、慕う年上の幼馴染のために、なんとか役に立とうと思って才能を開花させたソージ君。


 ――何だ。二人とも勇者ヒジカに付いていこうと決めているんじゃないか。


 そう思って、小さく笑った。


「お? 何笑ってンだ?」


 言いながら、ヒジカが馬を揺らしてくる。馬に乗ってようやく、僕はヒジカより高いくらいだ。


「わ! やめてよー!」


 慣れない騎乗中に揺さぶられて、演技でなく困る。それでも楽しくて笑った。仲の良い兄さんがいたら、こんな感じなのかもしれない。


 そんなことを考えて、恥ずかしくなって夕焼けの空へと目線を逸らして誤魔化した。


 初めて相棒と見た夕焼けに劣らず、四人で歩く草原の夕焼けも美しかった。




 夕飯は豪勢だった。


 イッサさんの家とソージ君の家、ヒジカの家に三等分しても、獲物は余りある量。


 ヒジカのお母さんの料理は美味しかった。


 生まれて初めて使うナイフやフォークに、少し悪戦苦闘する。


 ヒジカが僕の速さを褒めた。僕はヒジカの強さを褒めた。


「女の子みたいにかわいい顔なのに、すごいんだな」


 ヒジカのお父さんに言われ、恥ずかしくなった。


 イッサさんやソージ君の活躍を話した。


 好きな友達のことを話すと、口数が多くなり熱が入ってしまった。


 気付いてから気恥ずかしくなりつつも、熱が入ることが嬉しかった。この姿になって、精神も子どもっぽくなっている気がするが、まだ統合が取れていない感じ。


 料理は美味しく、食卓は笑顔で溢れていた。


 白い髪(蛇)は長いので、お母さんからゴムを借りて後ろで結んで食べた。初めて食べる調理された料理ということもあり、本当に美味しい。


 ふと、赤い瞳の視界が滲んだ。


「……あれ?」


 突然涙がこぼれた。フォークを持ったまま、右手にぽたぽたと涙が止めどない。


「何で?」


 疑問に思っても、理由は見当もつかない。


 ヒジカがどうしたンだと心配してくれる。


 ヒジカとその両親がおろおろとし出すのを見ると、もう駄目だった。


「うぅ、う、うぇぇ」


 幼女の相棒のように、精神が十歳の身体に引きずられているのかもしれない。統合が取れていないと思ったら、急に子どもの精神で安定してしまったようだと観察したのを最後に、観察できる理性はどこかに飛んでいった。


 ああ、駄目だ。勝手に目から涙が出て来て、勝手にノドが声を上げる。


「うええ、うぇ、ええ、うぇえ! ええええぇぇええええええええん」


 僕の感情を僕がわからない。思考が全て膨大な感情に飲み込まれる。


「うぇ、ぐ、え、えぇぇぇえええええええ! えぇぇぇえん」


 嬉しいのか悲しいのかさえわからない。


「えぇええええええええ! えぇええええええええん! えぇ、ええぇ、ええ、え、ええええええん!」


 絶叫だった。近所のフェレット亜人のおばさんが何事かと乗り込んで来た。


「わぁあああああ、わ、え、わぁぁああああん! わえ、ええぇぇええええん」


 正常な思考が出来れば、幼児のように泣き叫ぶ僕自身を恥ずかしく思ったかもしれない。


「ぁぁああああああ!! ぁあぐ、あぁぁあぁああああああん、あぁぁあああああ!」


 でも、押し寄せる感情が大きすぎる。思考なんてものは容易に流される。



 薄れゆく意識の中、見知らぬ映像を見る。初めて見る景色なのに、十数年も見続けた景色のような錯覚を持つ。


 暗い部屋の中。一人座るテーブル。誰も笑わない、そもそも自分しかいない。あるのは食器と箸が触れる音だけ。


 手と口を動かす度に、減っていくだけの食品。毎回の食事で、その食品以外には変化がない時間。


 なくなると、シンクで一人分の洗い物をすます。


 そんな寂しい景色だった。




 あとから聞いた話。


 村の全員が僕の泣き叫ぶ声を、何事かと思いヒジカの家に集まったらしい。


 僕はといえば、座ったまま上を向いて声を上げて泣き叫び続けていたそうだ。


 手を差し伸べる人の手を子どものように振り払って大声で泣き喚き続け、数時間経つと泣き疲れたようで、ふいに静かになって眠ったらしい。


 死ぬほど恥ずかしかったが、すごく辛いことがあって記憶喪失になったのだろうと、村のみんなが確信が深まった。


 ……そういうことにしておいた。




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