【閑話ー蜘蛛の少女(2)】
相変わらず北へ向かう道中。
スカーを育てよう思った。
ウチらに追いついた時には、スカーの強さはギリギリやった。さらに進んだ今、正直この層の周りの魔物と比べて見劣りしとる。よい臣には、報いなければならぬ。
というのは建前で、ぶっちゃけると暇つぶしや。ウチからしたら、この層の魔物も相手にならへん。
森は深くなるにつれ、木々は一本一本が太く高くなっとるが、数は少なくなっとる。その代わりのように、草むらは深い。
巨体の魔物は見つけやすく、見つけられやすい。ちょうど今、中型恐竜の《スピノス》がおるように。
「グルルル……」
《小型恐竜》の1.5倍くらいの身体は、素早さをそのままに、顎がえらく強靭や。素早い爪で出血させて弱らせ、顎の一撃で噛み砕くのが基本戦術じゃろう。
その爪と顎の狙いを、こっちに定めとる。
ウチの肉は柔らかそうであろう? 自分でもそう思う。
「一人で狩りぃや。できるな?」
スカーは、いつも通り無言でコクリと頭を下げた。そもそもこの蜘蛛が、ウチの命令を聞かんことはない。
唸り声を止めたと思えば、軽快にこちらへ向かってきた。重い頭をむしろ利用して、前進の勢いを増している。一歩、一歩進むごとに加速しとる。
スカーはウチの前に立ちはだかって静止している――、ように見えたが八本の脚を細かく動かしとった。
――ほぅ、こんなことできたんか。
《スピノス》は先に、スカーを噛み千切ることに決めたようや。頭の重心はウチの前方、スカーを目指しておる。
《突進》の勢いを活かすべきだと思ったのだろう、速度も緩めず爪で牽制もせず、小さな両腕をスカーへ掴みかかるように伸ばした。侮りがあったことは、明らかじゃ。
スカーを掴んで即噛み砕こうとしておったんやろう。地面に頭から突っ込んだ。
「それ、残像やで」
ご丁寧にスカーは、自分がいた場所に《粘着》度を高めた巣を張っとった。小賢しいが、ウチの危険を減らすためやろう。
動く手足や胴、動かせない頭部以外を《スピノス》はジタバタさせている。
「キシャァァアア! キシャァァアア!」
最早、鳴き声は悲鳴じゃ。聞き苦しいと思った時には、横からスカーが《毒牙》を入れた。
ウチが聞き苦しいと思っておったのを察したのか、すぐにスピノスの頭上にぴょこんと乗りおった。《毒牙》を眼から伸ばして頭の中をかき混ぜる。
一つ、大きな断末魔を上げてスピノスは崩れ落ちた。
ふむ。やるではないか。ステータスで敵わない分を、頭とスキルで補っとる。昔のウチと相棒みたいや。
アルケニー(少)は《残像LV1》を獲得した!
「ん?」
スキル獲得の声が聞こえた。さっきスカーがやっとったスキルじゃろうか。
試しにやってみた。六本の脚を上下させ、加速させる。速さが十分に乗ったと思えた時、六本の脚で同方向に跳ぶ。ウチがいた方向を見ると、ウチの残像がおった。
ウチかわえぇ。この魅力が、なぜ相棒はわからへんのか。
着地した瞬間、再び別方向に跳んでみると、また像が残った。その調子で、三つまでは残像をつくれた。
《残像LV1》が《残像LV3》に上がった!
スカーが両手でカチカチと拍手を鳴らす。
それを、右手を振って制した。
「気付いとるか? 囲まれとるの」
スカーはやっと《察知》したように、小さな身を震わせた。全方位に、三十匹はおるやろう。
まぁこれはあんまりやな。助けたろ。
《大蜘蛛巣》
ウチを中心に、見える範囲の森を《蜘蛛巣》で二つに区切った。
「ウチの心配はいらん。自力で倒しぃ」
スカーは、ただ頷く。少し動きが固いのは、覚悟を決めるに値する試練やからやろう。
早くも襲って来た一匹を、スカーがやったように目から手を突っ込み頭をかき混ぜながら、勢いの方向を変えて持ち上げた。
アルケニー(少)は《合気LV1》を獲得した!
一回りサイズの大きい、リーダーらしき個体はスカーの方におる。それをどう料理するんか、見物や。
白い腕をつたって、脳と血が混じったスープが流れる。啜ると思わず笑顔になるほど美味い。啜りながらスカーを横目に眺め、そんなことを考えた。




