《荒野狼》
数日、僕は王都に放った白蛇の情報を整理していた。ありがたいことに、紙は高級品というほどではなかった。十枚で10Nだから、前世の知識でもそう納得できないものでもない。
二人はギルド横の宿屋で眠るが、僕はヒナの部屋に帰っている。ヒナの部屋の壁は、書き込まれた紙で埋まっている。
その間、三人にはクエストに挑んでもらっていた。
イッサとソージのランクは、Eランクに上がった。
ハジメのおかげだ。三人のパーティだと、成果は三等分に分けられるため、ハジメは口だけを出した。
《ポーション》や、とりあえずといったアイテムを整え、三人でクエストを続けてもらった。さすがにB級冒険者へ一人で上がってきたハジメは、FやEのクエストにも詳しかった。
魔物の多くいる場所まで二人を案内し、エサや罠などの逃げられない方法も教えてくれたそうだ。その前まではイッサが《虚弱化》し、囮となっていたと聞いて呆れていた。
「馬鹿か、お前は」
そう言うハジメの言葉にイッサが怒りだしたが、ハジメに僕とソージが加勢したところから、なんとなく馴染んだ。
「もうちょっと、自分を大事にしな、ね?」
ソージにとっては、唯一の同郷。タマソン村にとっても、村でたった二人だけの生き残りだ。粗末に扱っていい命じゃないのだ。
戦闘面で大きな向上があった。特にソージだ。
ただの村人だったソージには、技が無い。
ソージの戦闘を見て、ハジメは技をいくつか教えてくれた。
僕も見たところ、
《突き》
《二段突き》
は、特にソージに合ったようだ。
《荒野虎》を狩っていた時。
ハジメはまず、自分の《突き》を見せた。そこらに落ちていた小石を虎に投げつけ、挑発。
自分に向かって《突進》してくる虎の目に正面から日本刀で突きを入れた。
優れた筋肉から突き出されたそれは、真正面からの勢いさえ体で受け止めていた。
「かなり力づくでやるなら、こうなる。戦闘が続くようなら、体の負担や疲労になる。勢いを受け止めず横から突くべきだな」
ソージは、黙って肯いた。ハジメと同じように小石を投げつけ、自分に向かわせる。
突進してきた《荒野虎》を、闘牛士のように寸前でかわし、二度突いて素早く引いた。
ハジメは、ほぅ、と息を漏らした。虎は、何メートルか突進した後にどさりと横に倒れた。
「どうです?」
「いいな。二度突いた角度は、何故そうした?」
「一度目で心臓を突こうと思ったんですが、心臓にかすった程度でした。だから、違う角度からまた心臓を狙いました」
肋骨の隙間も、感覚でわかるのだと言うソージに、ハジメは満足げに肯いた。
僕はちょっと驚いていた。突進する敵の時間を止めたような動きだった。《思考加速》を高LVで持ってなければ、僕もあそこまでギリギリで避けれる自信はない。
イッサがソージは《天才(武)》を持っているのだと、誇らしげに話す。
ハジメが納得しつつ、俺もだと答えると何故かイッサががっかりしていた。まぁいいんだけど。
ハジメは二人に対して、
「95%以上、安全だと思わない限り勝負はするな」
と重々しく言った。先ほどのソージの寸前で避けることも、できると確信を持たない限りは、やるべきではないと。
命は一つしかない。原則、逃げても再戦はいつでも出来る。
「例外は、自分より大切な者の命がかかっている時だけだ」
そう言って、締めくくった。
素振りや回避、防御の練習をするよう、指示した。イッサの大剣の扱いはわからないが、同じ剣を使うソージについては、基本の振り方や斬り方を教えてくれるらしい。
まずは獣化を使わず、人型の戦闘方法だけで強くなる方針に決めた。獣化については、師匠がいないのだ。返す返すも、ありがたい男に出会った。




