ギルド長『シェリザ・ガルモ』
「……まったく。あなたはもう少ししっかりしている人かと思っていたけれど」
ギルドの階段を登りながら、ヒナに怒られている。イッサとソージには、先に飯を食っておくように言った。
「ごめんねー、色々あって」
まぁ、色々あった。気まずくはなりたくなかったので、ポーションが買えなかった文句は言わない。
ギルド長は、他の仕事を先に済ませて待っていてくれるらしい。申し訳ないと思いながら、ギシギシと軋む階段で最上階の三階へ上がった。
「どんな人なの?」
ヒナに訊く。尊敬しているらしく、ややトーンが上がった声音で説明し出した。
元Aランクの冒険者。それだけに冒険者のことをよくわかっており、判断も迅速で的確。ギルド内の高ランクから低ランクの冒険者まで、尊敬を集めている。
ヒナのギルド職員としての考え方は、ギルド長から学んだものだという。
「亜人への差別意識も、持っていないでしょうね。強い冒険者が増えることを、何よりも喜ぶ人よ」
「なら、安心かな」
そうこうする間に、部屋に着いたらしい。ヒナが木製扉をノックする。
「ヒナ・シルバです。ヒジカ・トージスをお連れしました」
「入れ」
端的な、低音の声が扉の向こうから響く。厳格そうな声だが、ヒナの表情は変わらないのでいつも通りなのだろう。
「失礼しまーす!」
ヒナが開いた扉から、僕は明るい声で入った。ギルド長室は、前世の知識にある校長室を彷彿とさせた。それより広く、武骨な印象を受ける。壁には証明書のようなものがいくつも架けられ、本棚はみっしりと埋まっているが、整頓されている。かつて使っていた武器なのか、年季が入った鎧と大剣が置いてあった。
奥に、眼鏡をかけた筋肉質の男が事務机に向かっていた。赤い短髪の太い男だ。こちらを見ずに、カリカリと書類に向かっている。
年は、四十代に入った頃だろうか。顔にはいくつも古傷のようなものが残っている。
昨日の朝に両腕を失くして引退したザコ冒険者よりも一際太く、高密度な筋肉だ。その上からわずかに脂肪が乗っている。現役ではないという話だが、闘いがあればすぐに動けそうだ。魔物の目で見れば『美味しそう』という感想になってしまう。
「……おいおい、何つー目で人を見てんだ」
しまった。ハジメとの喧嘩で空腹だったのだ。
食べ物を見る目で見てしまっていた。ギルド長は余裕なのか、まぁ座れよと窓際のテーブル前のソファへ促した。自身もペンを置き、事務机からテーブルへと移動する。身のこなしに隙が無い。強い。
「遅れてごめんなさい。ヒジカ・トージスです」
座りながら自己紹介する。ギルド長は、ガルモ・シェリザと名乗って向かいのソファに座った。身長は2メートル前後だろう。高く太く厚く、デカい。
「構わん。事情は調べさせて、把握している。……苦労するな」
少し驚く。尾行の気配はハジメの一つだけだった。ヒナは横に立ったまま「?」という風に首をかしげる。しっかり者眼鏡巨乳のこの表情、超かわいい。
そのヒナに、二人にしてくれとギルド長ガルモは声をかける。
「え……。はい、失礼します」
ヒナは逡巡した様子だったが、一礼して退出した。
パタンという扉の後に、ガルモはようやく口を開く。
「……気を悪くするな。ツケてたわけじゃねぇんだ。遅れていたようだから部下に調べさせた。ようやく追いついた時は、お前がハジメ・サイトと殴り合う直前だったらしい」
なるほど。それで買い物の様子を調べたのだろう。
「……遅れた僕が悪いので、何も言えませんね」
目を伏せて、赤い瞳を閉じる。
「ヒナを恨まないでくれ。一軒目の『ガネーシャ』をはじめとして、店の選択は俺でもそうしたぐらい的確だ。今日は変な奴らがいたみたいだけどな」
バイトリーダーではなく、店主がいれば違ったのかもしれない。どうでもいいことだが。
「恨みませんよ。感謝こそすれ」
ガルモは、一瞬だけ優しい表情で頷いた。歴戦の冒険者だからだろうか。滲み出る魅力がある。聞きたいことがある、と前置いてまた厳しい表情になった。
「……一軒目の後から、馬鹿三人が騒ぎ立てながらお前たちの後をついていっていたようだが、三軒目に入る前にはいなかったらしいな?」
ガルモギルド長は、下から睨み上げるような目で、問う。
あいつらをどうした? と。




