第5話 カゾクの代償
浅野拓也は激怒していたが、それよりも喪失感を感じていた。
自分の「カゾク」を、二人の子供を亡くしてしまった悲しみが拓也を飲み込む。
早くに両親を亡くし、「愛情」というものを理解できなかった自分が、唯一愛情を抱いた存在が二人の子供だった。
「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ──」
産声を聞いた瞬間、この子を愛してあげたいと思った。両親が死んでから忘れていた感情が心の中に芽生え、それからの日々は自分の妄想なんじゃないかと疑うほどに楽しくて、幸せな日々だった。
──アイツが来るまでは
あの日、陸は美空と空をまるで人形みたいに扱っていた。拓也は再び、陸に対して嫌悪感を抱く。
「あんな奴にこの広い世界は似合わん。俺がもっとお前に適した場所を用意してやろう…」
場合によっては、生きるということは死より残酷なものになることを拓也はよく知っている。
幼い頃に父と母を亡くし、愛情を感じられなくなってしまった拓也は美空と空に出会うまで、強いストレスと不眠によって悪夢に悩まされ続けていた。
グリンパティックシステム
人間の脳が寝ている間に記憶の整理や、老廃物の排出を行う仕組みが機能しなくなると、トラウマがフラッシュバックすることがある。
「陸、お前は自分の妄想で自分を永遠に苦しめるんだ。」
鳥の声がどこまでも遠くに響いている。
そんな空を見ている拓也と明美の間には、いつもより静かな空気が漂っていた。
一点を除けば
「……ハハハハ!!!」
遠くから、はっきりと笑い声が聞こえた。
「えっ」
「地下室から笑い声が聞こえるだと……」
今まで地下室から音が聞こえてくることはなかった。もちろん、自作の地下室は完全な防音ではないが、それでもただの子供の声が貫通するほどではない。
「ハハハハハハハハハ!!」
いや、はっきりと笑い声が聞こえる。
「これって──」
拓也の顔を見た時、明美は言葉を止めた。
今頃アイツは悪夢を見る死体同然になっているはずなのに、「笑い声」がはっきり聞こえる。
拓也の頭にあの日の美空と空の姿がよぎる
考える暇などなかった
気が付いた時には地下室の鍵を持ち出して、地下へと続く階段をかけ降りていた。
そして、拓也はあの日と同じように地下室の扉を開けると、そこにいたのは──
今度こそ、陸一人だった
それなに……
「ねぇ!ミク!ソラ!あんまり笑わせるなよ!!ハハハハハハハハ!!!」
陸が右と左の壁を交互に見ながら、笑っている。悪夢……というより妄想を見ているのか?
拓也は声をかけようとすると、あることに気付いた。陸が左手に何かを持っている。
それがフォークであることに気付いた時には遅かった。
陸の笑い声がぴったり止まり、まるで最初からそうすると決めていたように拓也を見て、
──飛びかかった
◆◆◆
空は青く、広大な青だけが広がっている。
浅野明美は強い日差しの下で、たくさんの野菜や果物が育った畑を見て後悔していた。
もっと早く、こうしていれば二人で幸せな生活ができたんだ。何も難しく考える必要はなかった。
何年も行動せずに考え続けていただけの自分が憎い。──憎くて憎くてたまらない。
明美は数年前の自分の愛情の小ささを後悔していた。
──家族には他人の命より重たい愛情を




