表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
届かない技術  作者: wwaabb
2/7

第二話 任せてください

翌朝、売買デキルは八時ちょうどに出勤してきた。


 匠はすでに四時間働いていた。


「おはようございます! 精巧さん、今日からよろしくお願いします!」


 デキルは迷いなく匠に近づいてきた。手を差し出している。握手を求めている。この油まみれの工場で、ジャケット姿で、笑顔で。


 匠は手を見た。自分の手を見た。機械油で黒くなっている。それを確認してからデキルの手を見た。


「汚れるぞ」


「全然大丈夫です!」


 デキルは構わず匠の手を握った。力強く、二回振った。匠は何も言わなかった。



 午前中、デキルは工場をうろうろしていた。


 機械を眺め、壁に貼られた図面を眺め、棚に並んだサンプル品を眺めた。匠はそれを横目で見ながら作業を続けた。触るなよ、と思った。案の定デキルは棚のサンプルに手を伸ばした。


「これがゼロアタッチ工法ですか?」


「触るな」


 デキルはすぐに手を引いた。


「すみません。……どんな技術なんですか?」

 匠は舌打ちをこらえた。説明する気はなかった。しかし呑気に「仲良くしてね」と朝に釘を刺されていた。あの人の言葉は少ないが、なぜか無視できない。


「異素材を歪みゼロで接合する。それだけだ」


「それだけ、ってすごくないですか? 今までできなかったんですよね?」


「当たり前だ」


「どこに売れますか?」


 匠は手を止めた。初めてデキルの顔をまともに見た。


「……自動車、航空、医療。どこにでも売れる。だから誰かが気づけば引き合いが来る」


「誰かが気づけば、ですか」


 デキルは繰り返した。咎めるでもなく、馬鹿にするでもなく、ただ繰り返した。それが匠には妙に引っかかった。


 昼休み、デキルは呑気と並んでコンビニ飯を食っていた。匠は一人、機械の前でパンをかじった。いつものことだ。


 デキルの声が聞こえてきた。


「社長、取引先のリストってありますか?」


「んー、昔のならあるよ。ほとんど付き合いなくなっちゃったけど」


「もらえますか。あと近隣の製造業で困ってそうなところ、心当たりあります?」


「んー、どうだろ」


「ありがとうございます、当たってみます。任せてください!」


 匠はパンを咀嚼しながら聞いていた。


 リストをもらって何をする気だ。飛び込みでも行くつもりか。この技術の何がわかる。説明もまともにできないくせに。


 技術さえあれば、いつか必ず届く。

 営業など、いらない。

 匠はそう思った。そう思おうとした。


 なのになぜか、デキルの「任せてください」という声が、午後になっても頭から消えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ