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すれ違い


「あれ、これは何だろう」


 勇者を探してウロウロしていると、何やら絨毯に何かを引きずった痕のようなものが見つかった。赤黒い液体で残されたその痕跡を俺は見逃さなかった。


「これは、勇者が魔王様を引きずった痕だな。間違いない」


 ここの王はなんて卑劣なことをしてくれんるんだ。殺すだけじゃ飽き足らず、勇者に引きずって回らせるなんて。これは見せしめか、畜生。


 王、許すまじ。おそらく魔王様は不意をつかれたのだろう。こんな国の王など私の手でも簡単に御してやれる。


 この痕跡を追っていけば、きっと志半ばの魔王様が見つかるだろう。魔王様のご尊顔を拝み、安らかな眠りをお祈りして、なんとしても王様を見つけ出す。


 その痕跡はくっきり残っており、まるで隠そうとしていないところに悪を感じる。俺が悪を悪く言うとなんか変な感じになるけど、とにかく悪だ。


 そうしてずっとその手がかりを追って歩いていくと、途中で白いドレスを身に纏った美しい女性が現れた。その女性は俺に会釈をして、いそいそと足早に横を通り過ぎていく。俺は兵士の姿なのでまるで怪しまれることはない。


 そうだ、なんならこの女性に王様の居場所を聞いてしまおう。多分この人はお姫様だ、王様の娘か何かならついさっきまで一緒にいたりしているかもしれない。でももしそうだとしても、この女性には手を出さない。何故なら悪いのは王様であってお姫様ではないからだ。


 そもそも、我々魔王軍がこの国に侵略する利点はいまいちよくわからない。魔王様が突然、独りでに行ってしまわれたのだ。だから魔王様が死んでしまった今でも、私は勝手なことをすることは許されない。ただ魔王様の仇討ちだけはさせてもらう。そうしないと気がすまないのだ。


「あの、お姫様!!」


「え、はい。なんでしょうか?」


 ああ、凛とした声。魔王様の好きそうな声だ、なんて考えている場合ではない。お姫様はなんだか急いでいる様子。さっさと要件だけ聞いてしまおう。


「その、王様がどこにいるか知りませんか?」


「え!?」


 凛とした声はどこへやら、素っ頓狂な声が廊下に響いた。もしかしたら王様とは関係がない感じのお姫様なのだろうか。それともそもそもお姫様じゃないとか。


「…………えーと」


「あ、もし知らないのであれば全然構いませんので!!」


「えとえと、すみません。お力になれずに」


「あ、では勇者がどこにいるかはご存知ないですか?」


「え!?」


 またも素っ頓狂な声。顔立ちが美しいからそんな声も可愛げがあっていい、なんてことはどうでもよくて。

 

 勇者も知らないのか。俺はてっきり王は魔王様の亡骸を見せしめとして、勇者に引きずらせているのかと思ったがそれも違うのだろうか。見せしめに歩くのであれば大声を出したりして注目を集めるはずだし、それならお姫様も知っているはずだ。


「……勇者様も、ちょっと分からないですね」


「そうですか、ご迷惑をおかけしました。急いでいる様子のところ、申し訳ありませんでした」


「いえいえ、こちらこそお力になれず……あの、きっと……魔王、見つけましょうね!!」


 グッと、胸の前で拳を握り締めて、そのあと走り去ってしまったお姫様。


 そうか、やっぱり彼女は何も知らないんだな。それならまだ良かったのかもしれない。できればあんな綺麗な女性を悲しませたくはない。あのお姫様が王の娘だとしたら、王が死ねば酷く悲しむだろう。


 でもおそらく問題ない。ここまで事情を知らないのであれば、身近な関係ではないのだろう。


 よし、俺もはやくこの痕跡を追って魔王様を見つけて、王をこの手で成敗してやろう!!



                ■ □ ■


 

「はぁー、ビックリしちゃった!!」


 こんなところで人に出会うなんて思ってもみなかった。たしかあの人は兵士を率いる隊長さんだ。いつも皆に慕われている人の良い方だったと思う。


 あまりに突然出くわしたもんだから一瞬魔王かと思って頭が真っ白になった。そんな状態でお父様のことを聞かれたから、とにかく必死に隠さなきゃって思って知らないふりをしてしまった。


 その後で、落ち着いたあとに勇者の居場所も聞かれた。ホントは今追っている最中だということを伝えようとした。アイツが魔王で、お父様を殺したんだって。


 だけど、そこで私の意地の悪さが出てきてしまった。


 ――私の手で仇を討ちたい。


 だからやっぱりそこでも嘘をついてしまった。


 この絨毯には勇者に扮した魔王がお父様を引きずった血の跡があるが、絨毯が赤いので基本的にはよく見えない。集中して見たり、勇者様や魔王、また魔界の魔物ように規格外に目が良くないとじゃないとまず目につかないだろう。


 だからあの隊長さんは大広間には行き着かないだろう。念のため扉には鍵もしてきた。


 よし、私は私で出来ることをしよう。このまま勇者姿の魔王を追って人気のないところで襲撃してしまおう。そのためには何か武器が欲しい、どこかで探す時間も欲しいな。


「……あ」


 その時私は気がついてしまった。あまりに大事なことに、そして、もう手遅れな事実に。


「魔王、見失っちゃった」


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