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ただの後衛職だと見捨てられた俺、『ステータス改竄』で覚醒する〜俺を溺愛する最強の氷の魔女と、辺境で温泉スローライフを始めます〜  作者: KIZUNA


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帝都の豪商



極上の魔力温泉が湧き出てから数日後。


辺境領に、帝都の紋章を掲げた豪奢な馬車が数台、土煙を上げてやってきた。


降り立ったのは、恰幅の良い中年男と、完全武装した数名の護衛たちだった。


男の名はゴルド。帝都でも五本の指に入る巨大商会『ゴルド商会』の会頭である。 彼は馬車から降りるなり、目の前に広がる常春の光景と、たわわに実る見慣れない巨大野菜を見て、豚のように目を丸くした。


「な、なんだここは……!? 帝都の魔術師どもの報告では、ここは草一本生えない極寒の死地のはず……っ」


「会頭、気を抜かないでくだせぇ。何か得体の知れない魔法の罠かもしれませんぜ」


傍らに立つ傷顔の護衛――Aランク冒険者である剣士が、周囲を油断なく睨みつけながら腰の剣に手をかけた。


ゴルドはゴクリと唾を飲み込み、卑しい笑みを浮かべる。 (……罠だろうが関係ない。本当に奇跡の温泉とやらが湧いたのなら、世間知らずの領主から二束三文で独占権を騙し取ってやる)


・・・


「――というわけで、辺境の領主様。我々ゴルド商会が、この寂れた村の温泉を『金貨10枚』で買い取って差し上げましょう」


領主の館、応接室。 ソファーに深く腰掛けたゴルドは、葉巻をふかしながら傲慢な態度で言い放った。


俺の隣に座っているリリアが、ピクリと眉を吊り上げる。


「金貨10枚……? ゴルド商会ともあろう者が、随分と舐めた査定をするのね」


「おや、これは氷の戦乙女と名高いリリア殿下。ですがここは皇室の庇護から外れた私有地。商人からすれば、物流の死んでいる辺境の地などその程度の価値しかありませんよ」


ゴルドの背後で、Aランク護衛の剣士がチャキ……と剣の鍔を鳴らし、意図的に威圧感(殺気)を放ってきた。 言葉での交渉に武力による脅しを交える、悪徳商人の常套手段だ。


「おい……っ」

リリアが怒りで立ち上がろうとしたのを、俺は手で制した。


「リリア、落ち着いて。ここは俺が話す」


俺はテーブルの上に、いつもの分厚い本を開いた。


【世界編纂】は対象のステータスを書き換えるだけでなく、ただ『閲覧』することも可能だ。これはインク(魔力)を一切消費しない。


俺はゴルドと護衛の項目を開き、そのステータスを眺めた。


【対象:商人ゴルド】

・所持金:白金貨100枚(馬車の隠し金庫に保管)

・本音:『温泉の独占権を奪い、帝都の貴族に高値で売りさばいてボロ儲けしてやる。逆らうなら護衛に痛めつけさせるか』


【対象:護衛の剣士】

・精神状態:『強い殺意、威圧』


なるほど、見事なまでの悪徳商人だ。 俺は羽ペンを持ち、まずは鬱陶しい護衛のステータスにインクを乗せた。


「ゴルド会長。俺たちは温泉の権利を売るつもりはない。対等な流通契約を結びたいんだが……その前に、少し護衛の殺気が強すぎるな」


俺は本の中で、護衛の精神状態を『強い殺意』から『極上の和み』へと書き換えた。消費インクはほんのわずかだ。


「はっ! 殺気だと? 舐めた口を利くんじゃねぇぞ、ただの書記官風情が――」


剣を抜こうとした護衛が、突如、ふにゃりと顔をだらしなく緩ませた。


「――がぁ……いやぁ、それにしても今日はいい天気ですねぇ。なんだかお花畑をスキップしたい気分になってきましたよぉ」


「は……? おい、何を言っているお前!」


チャキッと剣を鞘に戻し、窓から外を眺めてニコニコし始めた護衛を見て、ゴルドがポカンと口を開ける。


「さて、交渉の続きだ」 俺は本を指で叩きながら、ゴルドを真っ直ぐに見据えた。


「資金がないから金貨10枚? おかしなことを言う。馬車の二重底に隠してある『白金貨100枚』は、石っころの代わりか何かか?」


「なっ……!? な、なぜそれを……っ!」 ゴルドの顔色が一瞬にして土気色に変わった。


「それに、あんたが企んでいる『独占権を奪って帝都の貴族に高値で売りさばく』という計画だが、そんな中間搾取を許すつもりはない。うちと取引がしたいなら、適正価格で利益の7割をこちらに回せ。流通と宣伝はすべてそっち持ちだ」


俺が彼の本音を完全に読み透かし、有無を言わさぬ条件を提示すると、ゴルドはガタガタと震え出した。 どんな凄腕の交渉術を使っても、心を直接読まれて(閲覧されて)は勝負になるはずがない。


「ふ、ふざけるな! そんな条件で誰が契約など……! そもそも、疲労超回復の温泉などという噂自体が眉唾だろうが!」


「なら、実際に入ってみるといい」


俺が親指で窓の外――湯煙を上げる露天風呂を指し示すと、ゴルドは「暴いてやる!」と息巻いて部屋を飛び出していった。


・・・


数十分後。


「あぁぁぁ……なんという……なんという奇跡のお湯だぁぁぁ……っ」


応接室に戻ってきたゴルドは、先ほどの尊大な態度はどこへやら。 全身の肌はツヤツヤと輝き、長年彼を苦しめていた重度の腰痛と肩こりが完全に消え去り、まるで10歳は若返ったかのように活気に満ち溢れていた。


彼は俺とリリアの前に、勢いよく土下座をした。


「アイン様! リリア様! 先ほどの非礼、どうかお許しください! 利益の7割どころか、8割でも構いません! どうか、どうかこの温泉の独占流通権を我々に!!」


床に額を擦り付けるゴルドを見て、リリアが呆れたようにため息をついた。


「どうするの、アイン?」


「そうだな……流通のプロが味方につくのは悪くない。心を入れ替えて働くなら、契約してやる」


「ありがたき幸せぇぇっ!!」


こうして、俺の【世界編纂】による情報把握と、規格外の温泉の効能により、辺境領は帝都の巨大商会という強固な『流通経路』と『莫大な資金源』をあっさりと手に入れた。


無能と蔑まれた書記官の領地が、いよいよ国としての力を持ち始めた瞬間だった。


一方その頃。 薬草集めの依頼に失敗し、泥だらけでギルドの裏路地を這いつくばっていた勇者ガイルの手元に、一枚の『ゴルド商会の求人チラシ』が風に乗って飛んできたことなど、俺は知る由もなかった。




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