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ただの後衛職だと見捨てられた俺、『ステータス改竄』で覚醒する〜俺を溺愛する最強の氷の魔女と、辺境で温泉スローライフを始めます〜  作者: KIZUNA


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愛と嫉妬の建国宣言



光の届かない暗闇の奥深く。

瘴気が立ち込める玉座の間で、暗闇に同化するように座す『本物』が、低くしゃがれた笑い声を漏らした。


「……ほう。我が力の数割を分け与え、魔王の姿を模倣させた『影』が、かくも呆気なく消滅させられるとはな」


空間の亀裂から逃げ帰る途中で崩れ去った偽物の記憶が、玉座の主の脳裏へと還元されていく。


十二神器『聖槍』の一撃。あれをまともに受ければ、いかに分体とはいえひとたまりもない。


「アルカディアの老騎士が直々に出張ってくるとは想定外だったが……大国を動かすほどの価値が、あの辺境の街にはあるということか」


玉座の主――真なる魔王の一柱は、薄暗い空間にひとつの映像を映し出した。


そこに映っているのは、魔族の影と対峙していた一人の青年、アインの姿である。


「対象の法則を無視し、強制的に事象を改竄する異能……。実に興味深い。あの男の力は、我ら魔族の悲願たる『世界の書き換え』に至る究極の鍵となるやもしれん」


魔王は漆黒の翼を広げ、不気味な光を宿した瞳を細めた。


「今はまだ泳がせておこう。だがいずれ、あの力は我らが手中に収める。人間どもが小賢しい国遊びに興じている間に、真の絶望を仕込んでやろうではないか」


***


魔界で不穏な企みが渦巻いていることなど露知らず。


辺境の街では、事態が急速に動き出していた。


「――では、後の細かな取り決めは我が国の文官を遣わせよう。良き同盟国となれることを期待しているよ、アイン『大公』殿」


魔王による襲撃という未曾有の事態にも全く動じることなく、賢王オズワルドは優雅に微笑み、修繕されたばかりの窓から外を眺めた。


彼の傍らには、先ほど魔王の影を一撃で退けた【天災クラス】の老騎士、アルベルトが静かに控えている。


アルカディアという巨大な盾を得たことで、俺たちの領地は他国から容易に手を出せない不可侵の領域となった。


そして同盟の証として、俺はアルカディアの特例措置により『大公』の爵位を授かることとなった。


これで、名実共に俺は一国の主であり、由緒正しき貴族の仲間入りを果たしたわけだ。


「魔族の暗躍……世界は再び、きな臭い時代へと向かっているのかもしれん。卿らのような規格外の戦力が辺境に国を興したのは、あるいは女神の導きか」


オズワルドは意味深な言葉を残し、護衛のアルベルトと共に馬車へ乗り込んでいった。


土煙を上げて遠ざかる豪奢な馬車を見送りながら、俺は小さく息を吐き出す。


「魔族の頂点、それに神話の武具『十二神器』か。ただの辺境開拓のつもりだったが、とんでもないスケールの話に巻き込まれつつあるな」


「何を弱気なことを言っているのですわ。いざとなれば、私たちとリリア、そしてアインの力で消し飛ばせばいいだけのこと」


隣に立つエレインが、扇で口元を隠しながら妖艶に笑う。


確かに、この街の戦力はすでに世界有数の水準に達している。


だが、国として長く存続させるには、個人の暴力だけでなく、社会としての確固たる基盤が必要だ。


「アイン!」


振り返ると、抱えきれないほどの羊皮紙と羽ペンを持ったリリアが、鼻息を荒くして突撃してきた。


彼女のサファイアの瞳には、かつてないほどの凄まじい執念が燃え盛っている。


「オズワルド陛下のお墨付きも出たことだし、早速『我が国』の法律を制定するわよ! 徹夜で草案を練ってきたの!」


「て、徹夜って……昨日の今日だぞ? お前、一睡もしてないのか?」


「睡眠より優先すべき国家の危機(浮気)があるのよ! さあ、執務室へ行くわよ!」


俺は半ば引きずられるように執務室へと連行された。


机の上にドンッと置かれた分厚い羊皮紙の束。


一番上に記された『第一条』を見て、俺は思わず吹き出しそうになった。


『第一条:大公アインと正妃リリアの婚姻は神聖不可侵であり、如何なる理由があろうとも離縁を認めない。これに反してアインが不貞を働いた場合、国家反逆罪として氷点下五十度の牢獄にて極刑に処す』


「……リリアさんや。この第一条、国を治める法律というより、ただの俺への脅迫状になってないか?」


「なによ、不満なの!? それとも、不貞を働く予定があるってこと!?」


「いや、全くないけども。ただ、もう少しこう、税率とか、治安維持とか……」


俺が苦笑しながらページをめくると、そこにはさらに恐ろしい条文が並んでいた。


『第七条:大公の寝室から半径五十メートル以内に、未婚の女性(特に年上で馴れ馴れしい冒険者上がりの女)が夜間に侵入した場合、問答無用で氷結魔法による迎撃を許可する』


「……名指しこそ避けてるけど、完全にエレナを狙い撃ちにしてるよな、これ」


「あら、ずいぶんと物騒な法律を作っているのね?」


不意に、開け放たれた執務室のドアの枠に寄りかかるようにして、噂の張本人であるエレナが姿を現した。


彼女は豊かな胸元を強調するような仕草で腕を組み、面白そうに羊皮紙を覗き込んでくる。


「法律で縛らなきゃ繋ぎ止められないなんて、随分と自信がないのね。私なら、そんな紙切れに頼らなくても、アインの心も体も一晩で虜にしてあげられるのに」


「っ……! 泥棒猫が、どの口で……!」


リリアの足元から、パキパキと霜が広がり始める。


エレナは大人の余裕たっぷりにクスリと笑い、俺に向かって妖艶なウインクを投げた。


「アイン。法律なんて窮屈なものが嫌になったら、いつでも私の部屋にいらっしゃい。優しく慰めてあげるから」


「こ、この女ぁぁっ! 今すぐここで極刑にしてやるわ!」


「ストップ! リリア、落ち着け! まだその法律は施行されてないから!」


激昂して氷の槍を生成しようとする妻を、俺は必死に背後から抱きしめて制止した。


エレナはヒラヒラと手を振りながら、楽しそうに廊下の奥へと消えていく。全く、あの人は昔から人をからかって遊ぶのが好きすぎる。


腕の中でフンスフンスと荒い息を吐いていたリリアだが、俺に抱きしめられている温もりに気づいたのか、次第にその力が抜けていった。


「……アインのばか。私ばっかり、必死になって空回りして……」


しゅんと耳を伏せる子犬のように俯くリリア。

俺は彼女の肩を優しく抱き直し、そっと耳元で囁いた。


「空回りなんてしてないさ。リリアが俺を愛してくれている証拠だろ? ただ、俺への縛りだけじゃなくて、この街に住む人たちが安心して暮らせる法案も一緒に考えよう。……俺たちの国なんだから」


「俺たちの国……」


リリアがハッとして顔を上げる。


「そういえば、国の名前……まだ決めてなかったわね。アルカディアの属国になるわけじゃないのだから、独自の国号が必要よ」


「ああ。それなんだが、俺の中ではもう決めているんだ」


俺は羽ペンを手に取ると、新しい羊皮紙にサラサラと流麗な文字を書き込んだ。


そこに記された文字を見て、リリアの顔が一瞬で林檎のように真っ赤に染まる。


「リ、リリアス……公国……?」


「この領地は、俺とリリアが共に生きるための場所だ。だから、君の名前をもらった。ダメかな?」


俺が微笑みかけると、リリアの瞳からポロポロと大粒の涙が溢れ出した。


彼女は手元の物騒な法案の束をバサリと床に落とし、勢いよく俺の胸に飛び込んでくる。


「うぅ……ずるい、アインはずるいわ……。こんなの、嬉しくないわけないじゃない……っ!」


ギュウウウッと、英雄クラスの筋力で抱きしめられ、俺の肋骨が悲鳴を上げる。


だが、その痛みすらも今は愛おしい。

魔王の不穏な影が迫る中。


辺境の温泉街から始まった俺たちの拠点は、一国の主となった元書記官と、愛の重すぎる氷の魔女が治める新国家『リリアス公国』として、大陸の歴史にその名を刻むこととなったのである。

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