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ただの後衛職だと見捨てられた俺、『ステータス改竄』で覚醒する〜俺を溺愛する最強の氷の魔女と、辺境で温泉スローライフを始めます〜  作者: KIZUNA


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賢王の提案



数日後。辺境の街に、一見して質素ながらも、随所に最高級の素材が使われた馬車が到着した。


護衛はたったの数名。

しかし、その馬車から降り立った初老の男性を見た瞬間、ヴァルガスとエレインが微かに息を呑んだ。


穏やかな笑みを浮かべ、仕立ての良い外套を羽織ったその男こそが、大陸最大の覇権国家アルカディアを束ねる『賢王』オズワルドその人だった。


「急な訪問を許してほしい、辺境の領主殿。いや、アイン卿と呼ぶべきかな」


新設されたばかりの応接室。オズワルドは出された茶を一口啜ると、単刀直入に本題を切り出した。


「我がアルカディアは、この領地を一つの『独立国家』として正式に承認し、同盟国として極めて友好的な関係を築きたいと考えている」


「……随分と破格の提案ですね。大国であるアルカディアからすれば、辺境の小さな街を国として認めるメリットは少ないはずですが」


俺が慎重に問い返すと、賢王は愉快そうに目を細めた。


「謙遜はいらないよ。他国の軍勢を一瞬で瓦解させる防衛力に加え、【天災クラス】の二人すら引き入れる求心力。これを放置して敵に回すほど、私は愚かではないつもりだ」


オズワルドの視線が、俺の隣で控えているリリアへと向けられる。


「それに、卿の愛すべき伴侶は、かつて大陸中から称賛を浴びた【英雄クラス】たる『氷の魔女』殿だ。対して卿は、失礼ながら元は一介の冒険者と聞く。社交界においては、少々釣り合いが取れないと陰口を叩く輩もいるだろう」


「それは……まあ、否定できませんね」


「そこでだ。我が国との同盟の証として、アイン卿にはアルカディアより『特例の爵位』を授与したい。名実共に貴族となれば、誰一人として君たち夫婦の格差をあげつらう事はできなくなる」


俺に貴族の地位を。


それは、リリアの夫として相応しい立場を公式に保証するという、あまりにも気の利いた提案だった。アルカディアは本気で俺たちを自陣営(味方)に引き留める気だ。


「それに、ここを正式に国家として立ち上げれば、独自の『法整備』が可能になる。これには大きな利点があってね」


オズワルドはそこで言葉を区切り、冗談めかした口調でリリアの方を向いた。


「例えばの話だが……『君主たるアイン卿とその正妃リリアは生涯添い遂げるものとし、万が一アイン卿が浮気をした場合、国家反逆罪として極刑に処す』といった法律を作ることも可能になるわけだ」


「……ッ!!」


その瞬間、リリアの肩がビクッと跳ねた。


彼女のサファイアのような瞳に、かつてないほどの強烈な光が宿る。


「ほ、法律……。国家が定めた、絶対に逃れられない生涯の誓い……そして、浮気に対する合法的な処罰……っ!」


「おいリリア、目が血走ってるぞ。息をしてくれ」


「アイン。私たち、すぐに国を造りましょう。徹夜で法案を練るわ。まずは他の女があなたに半径二メートル以上近づけない法律からよ」


先日のエレナの一件で強い危機感を抱いていたリリアにとって、「法整備」という甘美な響きは、劇薬以上の効果をもたらしてしまったらしい。


賢王の高度な交渉術(からめ手)に俺が冷や汗を流していると――突如として、事態は急変した。


バリィィィンッ!!


応接室の窓ガラスが、外からの凄まじい風圧で粉々に吹き飛んだ。


太陽が雲に覆い隠され、昼間であるにも関わらず、街全体がどす黒い闇に包まれていく。


「何事だ……!?」


俺が立ち上がった瞬間、空から濃密な瘴気が降り注ぎ、応接室の床を腐食させながら一つの影が実体化した。


頭部からねじれた二本の角を生やし、漆黒の翼を背負った禍々しい存在。魔王か。


「ククク……。人間どもが小賢しく徒党を組み始めたと聞いて来てみれば。なんだ、ただのままごとではないか」


その存在から放たれるプレッシャーは、先日の同盟軍の一万など比較にならない。


「ッ……! アイン、下がって!」


リリアが即座に冷気を練り上げ、ヴァルガスとエレインも臨戦態勢に入る。


俺もステータス画面を開こうとしたが、リリアから「スキル使用禁止」の厳命を受けているため、迂闊に動けない。


「無駄だ。我の『絶望の炎』で、貴様らのちっぽけな希望ごと灰にしてくれる」


右手を掲げると、空気を焼き尽くすほどの黒炎が圧縮され、今にも俺たちへ放たれようとした。直撃すれば、この街の半分は消し飛ぶ。


だが、その時だ。


オズワルドの背後に控えていた、白髪混じりの地味な老騎士が、静かに一歩前に出た。


「陛下のご歓談を邪魔するとは、無作法な」


老騎士の手に握られていたのは、使い込まれた一本の槍。


しかし、彼がその柄に魔力を込めた瞬間、槍の穂先から神々しいまでの黄金の光が溢れ出した。


――『十二神器(アーティファクト)』。


神話の時代に作られ、この世界に十二個しか存在しないとされる、人智を超えた兵器の一つ。


「彼こそが、我が国の誇る最強の盾にして矛。大陸に三名しか存在しない【天災クラス】の最後のひと柱……『聖槍』のアルベルトだよ」


オズワルドが静かに微笑む。


同時に、アルベルトの姿が掻き消えた。


「『天穿(てんせん)』」


老騎士の静かな呟きと共に、黄金の閃光が魔王の黒炎を真っ二つに引き裂き、そのまま魔王の胸ぐらを貫いて遥か上空へとカチ上げたのだ。


「グアアアアアッ!? ば、馬鹿な、人間の分際で十二神器を完全に適合しているだと……!?」


空高く打ち上げられた魔王は、己の傷口から浄化の光が侵食してくるのを見て、屈辱に顔を歪めた。


この場には、十二神器を持った【天災】が一人、さらに別の【天災】が二人、そして【英雄】クラスが一人。いかに魔王とはいえ、まともにやり合えば分が悪いと悟ったのだろう。


「……忌まわしき人間どもめ。今日のところは退いてやるが、次はないと思え……!」


魔王は瘴気を撒き散らしながら、空間の亀裂へと逃げ込むように姿を消した。


再び街に太陽の光が差し込む。


アルベルトは何事もなかったかのように槍を収め、静かにオズワルドの後ろへと戻った。


圧倒的な武力。それがアルカディアという大国の底力だった。


「さて、少し騒がしくなってしまったが……」


オズワルドは散乱したガラスの破片を意にも介さず、冷めた紅茶のカップを手に取った。


「同盟と、法整備の件。前向きに検討してもらえるかな?」


「……ええ。謹んでお受けします。特に『法案』については、後ほど綿密に打ち合わせを」


俺の返答よりも早く、両手をガッチリと握りしめたリリアが食い気味に承諾する。


魔王の襲来という脅威が迫る中。


俺の貞操と領地の未来は、アルカディアという巨大な後ろ盾(と、妻の重すぎる愛)によって、新たな局面へと動き出すのだった。

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