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ただの後衛職だと見捨てられた俺、『ステータス改竄』で覚醒する〜俺を溺愛する最強の氷の魔女と、辺境で温泉スローライフを始めます〜  作者: KIZUNA


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獣人連邦への新婚旅行(?)

「……おい。俺が少し周囲を警戒している間に、なんだそのピンク色の空間は」


小川への偵察から戻ってきたクオンが、ジト目で俺たちを見下ろしていた。


無理もない。

今の俺は倒木に腰掛けた状態なのだが、リリアが俺の膝の上にすっぽりと収まり、首に両腕を回してコアラのように完全に密着しているのだ。


「おかえりなさい、クオン。悪いけれど、これからアインに話しかける時は、半径三メートル以上離れてからにしてくれる? 私の『愛する旦那様』に、変な虫がついたら困るもの」


リリアは俺の胸に頬をすりすりしながら、クオンに向けてこれまでにないほどドヤ顔で言い放った。


「だ、旦那様……!? お前ら、数十分前まで世界を凍らせる勢いで痴話喧嘩してたよな!?」


「喧嘩じゃないわ。アインからの、世界で一番甘くてロマンチックな愛の告白タイムだったのよ。ねーっ、アイン?」


「……まあ、そういうことだ。重いから少し離れてくれ、リリア」


「だーめっ。一生離さないって言ったのはアインだもん。言葉には責任を持ってもらわないと!」


そう言って、リリアはさらに俺の首元にギュッと抱き着いてくる。 プロポーズを経て彼女の心の隙間は完全に満たされたようだが、その反動で俺に対する『愛情の重さ』がメーターを振り切ってしまっていた。


「ほらアイン、お水汲んできたわよ。冷たくて美味しいから飲んで。はい、あーん」


「コップくらい自分で持てるぞ」


「ダメ。アインはちょっとでも気を抜くと一人で死にかけるんだから、これからは食事も水分補給も睡眠も、全部私が24時間体制で管理・お世話します。アインはただ、私に甘やかされていればいいの」


真紅の瞳をキラキラと輝かせ、本気でそう言い切るリリア。 過保護な激重メガデレへと見事なクラスチェンジを果たしてしまったらしい。


「アイン! あそこに小さな石が落ちてるわ! あなたが躓いて転んだら大変だから、私が粉砕してくるわね!」


「待て待て! 1センチの小石に極大氷魔術を撃ち込もうとするな!」


過剰なまでの愛と過保護に振り回されながらも、俺たちの旅は続く。


クオンは「あーあ、俺まで頭がおかしくなりそうだ」とぼやきながらも、どこか安心したように先導してくれていた。


・・・


大峡谷を抜け、さらに数日。 俺たちはついに、目的の地である『獣人連邦』の境界へと足を踏み入れた。


「……すごいな。あれが飛空船か」


巨大な渓谷の斜面にへばりつくように作られた多層構造の街並み。 そして、その頭上の空を悠然と泳ぐ、何隻もの巨大な木造船。


帆には風を受け、船底には淡い緑色の光を放つ『浮遊鉱石』がびっしりと埋め込まれ、重力に逆らって空中に浮いている。魔法ではなく、純粋な自然の力と技術の結晶だ。


「あれが我が国の誇る空の物流網だ。あの飛空船の技術と、お前の領地の温泉や食糧をトレードできれば、両国にとって最高の和睦になる」 クオンが自慢げに胸を張る。


だが、俺たちが連邦の入り口となる大きな関所に向かって歩き出した、その時。


「――いたぞ! 裏切り者のクオンだ!」


関所の影から、武装した獣人の一団が雪崩のように湧き出し、俺たちを半円状に包囲した。 数にしておよそ三十人。全員が殺気を隠そうともせず、手にした槍や剣の切っ先を俺たちに向けている。


「……チッ。やはり国境の守備隊は急進派に取り込まれていたか」 クオンが舌打ちをし、腰の短剣に手をかけた。


「クオン! お前、標的である辺境の領主を暗殺するどころか、のこのこと国に連れて帰ってくるとは何事だ!」


部隊長らしき大柄な狼の獣人が、牙を剥き出しにして吠える。


「我ら急進派が連邦を牛耳るためには、あの豊かな辺境の土地が必要なのだ! そこで大人しく、その男の首を――」


部隊長が言葉を言い終わるよりも早く。 俺の前に、白銀の髪をなびかせたリリアがスッと立ち塞がった。


「……ねえ。あなたたち、今なんと言ったの?」


リリアの声は、静かだった。 だが、その一言で周囲の空気が急速に凍りつき、獣人たちが一斉に息を呑んで後ずさった。


「アインの首を、どうするって……?」


「ひ、ヒィッ……!?」


リリアの足元から、尋常ではない冷気が放射状に広がり、獣人たちの足元を瞬く間に氷漬けにしていく。 彼女は今、世界で一番幸せな女だ。


その幸せの象徴である「最愛の夫」に刃を向けられたことで、帝国最強の戦乙女としての逆鱗に完全に触れていた。


「せっかくの夫婦の甘い新婚旅行(和睦交渉)を邪魔するなんて、万死に値するわ。……あなたたち、氷の彫刻になって永遠に反省しなさい」


「ま、待てリリア! 相手は交渉相手の国だぞ、殺すのはマズイ!」


俺は慌ててリリアの肩を掴み、同時に空中に指を走らせた。


彼女の放った極大の氷結魔法が獣人たちを飲み込む寸前で、俺は【世界編纂・直接入力】を実行する。


【対象:リリアの氷結魔法】

・属性:『絶対零度』を取消し、『ふわふわの綿あめ』に変更。


ドパァァァァンッ!!


「ぎゃあああああっ……って、あまい?」

「なんだこれ、氷じゃなくて……巨大な綿あめだ!?」


恐怖に目をつむった獣人たちを包み込んだのは、致死の氷ではなく、大量のピンク色をした甘い綿あめだった。 殺気に満ちていた獣人たちが、武器を落としてモフモフの綿あめに埋もれ、困惑したように甘い匂いを嗅いでいる。


「もう。アインは優しすぎるんだから。こんな野蛮な犬たち、私が一人残らず処分してあげたのに」


リリアが不満げに頬を膨らませる。


「あのな、俺が愛を誓った女が、血まみれになるところなんて見たくないんだよ」


「っ……!も〜、アインったらすぐにそういうカッコいいこと言うんだから! 好き! 大好き!!」


俺のなにげない一言で機嫌が180度反転したリリアは、再び俺の首に思い切り抱き着いてきた。


綿あめに埋もれる獣人たちを完全に放置しての、堂々たるイチャイチャ空間の形成である。


「……おい、お前ら。俺たちの存在を無視するな」


綿あめの中から顔を出した狼の部隊長が、唖然とした顔で突っ込みを入れた。


強烈すぎる愛の重さを持つ最強の戦乙女と、世界そのものを書き換える規格外の書記官。


獣人連邦での波乱の幕開けは、なんとも締まらない、甘い匂いに包まれたものになっていた。


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