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食卓上、機械摂理夢遊論。  作者: 未曲
一章 『転生少女と廃棄聖女』
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40 『未観測の人体熱量』



 どうやら《スキル》というのは、脳髄に収まっているらしい。


 また汚れてしまった服を作り直して、宿の部屋に戻ってフィアのベッドに飛び込んでから直ぐに、考え事を始めた。

 脳の一部だけを食べても、いつもの選択肢がイメージとして浮かび上がる事は無く、最後まで食べ切った後にやっと表示された事実からするに――美味しい所だけ摘み食いするな、という事なのだろう。


 そもそもの話として、人の脳は意外と美味しいから残すとかは考えられないのだけど。

 それにほら、捕食の目的としてはまずスキル獲得の方が大きいし。


 その他の肉体……脳以外の部位は正直要らないけど、キマイラの物はどこかで売れるだろうし、人間の死体については『格納空間』から適宜消化すれば私の最大活動時間が伸びるんじゃないかなあ、と。

 エネルギー的な問題は解決出来ると思う。

 確か、成人男性まるまる一人分で140000kcalだった筈。

 それが五十人分。


 で、私の一日あたりの摂取kcalが2000〜3000程度だと仮定すれば――私に食事は、当分必要無い。

 まあ、精神的安定(リラックス)を得る為に食べるけどね。


 私と違いフィアは食べる必要があるし、他にも色々とお金が掛かるから路銀を稼がなきゃいけない。キマイラの素材は数百万で売れるらしいけど、だからと言ってそれが残り続ける訳でもないし。

 塵が積もって山となるのなら、塵を取り出していけば山はいつか崩れてしまう。宛ら砂山のパラドックスだね。


 Cランクで上の方の魔物が数百万だから乱獲すれば稼げはするんだけど、生憎と机上論を行う度胸は無い。ついでに無鉄砲さも。いやまあ、後者はちょっとだけあるけども。

 正直、あの色々とぐちゃぐちゃに混ざった獣が手加減していて、且つ指令役というかメインフレームである蛇を直にぶっ殺したから、頭の回っていないアレを殺せただけ。


 多分体内にいたあの蛇が、身体の主導権を殆ど握っていたんだろうなあと思う。そう考えれば『手加減』じゃなくて『熱暴走』に近いのかな。

 獅子と山羊の体内で、他の何者でもない自分が産んだ卵を潰されてブチギレてだろうから、色々とオーバーフローしてたんでしょう。復讐に駆られると大抵マトモな判断出来なくなるしね。


 ちょっと色々と納得いかない所はあるけれど、鬣の有無に関係なく獅子は卵を産まないし、山羊も卵生ではないから、まかそういう事なのだと納得しておく。

 殺せてしまったのだから仕方ない。

 そこまで考えた辺りで《思考加速》を切り、ベッドの上で座り込んでいるフィアの胸元に顔を埋めた。


「……リーナさん?」

「何?」


 泥塗れになって木の上で一緒に待ち伏せていた時、泥とか草とかそういうのが割り込む余地の無い時に、彼女の匂いを嗅ぎたいと思った。その好奇心を覚えていたから、今こうしてる。

 それにほら、私は他人と触れ合った機会が極端に少ないから。

 何をしても文句の言えない奴隷を使って、事前に好奇心を満たしておこうかなと。だって赤の他人の匂い嗅いだりみだりに触れたりするのって、法に触れそうだし、なんか嫌だしね。


 その点フィアは私の物だから、特段不快感は無い。

 だから首の辺りに顔を擦り付けて、その匂いを嗅ぐ。


「……」


 右往左往というか色んな所に行ったり来たりしていた彼女の手は、抱き締め返すとかそういう事もなく、私の両肩に置かれている。

 多少膨らみのある胸に片耳を当ててみれば、特に高鳴ってはいない落ち着いた鼓動。

 多少の動揺ぐらいあってもいいと思うんだけど。

 そこはあれか、奴隷根性というやつか。


 複雑めいた息を吐き、そして吸う。


「んー……」


 なんか、あれだ。ホットミルクの匂いがする。それも、はちみつ入れたやつ。甘ったるくて、落ち着いて、穏やかで……そんな匂いの中に、少しばかり血の匂いが混ざっているのだから――、


 目立たぬ訳が無い。

 まあ、こうやって至近距離で嗅がなきゃ、誰かがそれに気付く事は無いかな。


「よし」


 と言って、一旦身体を離してから、どこか心あらずな彼女が着ている服の裾に手を掛ける。

 で、自らの手袋を外してからそのまま内側に素手を潜り込ませて、素肌と密着させた。

 然るべき拒絶だとか拒否だとかは、特に無い。

 眼窩の内で目を回す。


「ねえ、嫌がんないの?」

「嫌がってほしいんですか?」

「や、触りづらいから極力動かないでほしい」


 人にされたくない事はしない方がいいらしいから、それに則るのなら私は彼女から手を離すべきなんだけど――フィアは私との関係に於いては〝人間〟ではなく〝奴隷〟だから。

 配慮する必要は無い。


 グレーのブラウス。

 その内側に侵入させた手を鮭が川を遡るようにする。確かなスカートに包まれている腰の上、或いは臍の少し上辺りから、腹を軽く撫でつつ肋骨の中でも一番下部の物に触れた。


「んー、熱いね」


 私の平熱は、人よりも大分低い。一応雪国出身ではあるんだけど。

 それに比べれば、彼女の体温は相当高いと思う。

 具体的に言えば、私の体温は大体三十五度後半ぐらい。体感で言えば彼女の体温は……三十七度の前半かな。

 別に、平熱というのは地域で決まる物でも無いのだけど。


 まあ、そんな感じ。


「雪国出身?」

「そうなり、ますかね?」


 鼻から抜けていくような気怠さで『ふーん』と返答しつつ、更に腕を這い登らせて、彼女が身に着けている下着に触れた。


「胸、大きいね」


 私はまあ、ほら、胸があるとは言えない体型だから、ちゃんと〝胸〟って感じのする胸は新鮮味がある。

 いや、こうやって恋人でも何でもない相手の胸を触る行為に新鮮さを感じられないのなら、私は人の純情とかを弄ぶタイプの悪女という事になるが。

 今みたいに人を殺してないだけ、そっちの方がマシな気もした。


 色々考えながら、柔らかい胸とそれを包む布よりも下、即ち脇腹を強く掴んでから、山と山の間……つまり稜線に当たる所に一つ、口付けを落とす。


「……っ」


 流石に恥ずかしいのか、私よりも白い肢体がびくりと震えた。


「駄目。動かないで」


 跳ねて、反れた身体の隙間。

 そこを目掛け腕を回してから、脊椎の凹凸を指先で辿って登らせ、下着の留め具に手を掛けて、外す。その際に支えの無くなった柔らかさが腕に触れるが、それを無視して服を着せたまま下着だけを取っ払う。

 左手に掴んだ薄青のそれを適当に、ベッドの上に投げた。

 向かい合う状況を崩さないまま、彼女の体勢だけを寝台の上に押し倒し、縫い止めてしまって、両手で脇腹を撫でていく。


「抵抗したいなら、してもいいからね」


 純白、という言葉が相応しいフィアの頬は血の気に彩られていて、深みを帯びた仄暗い青色は光る涙で飾り付けられている。

 とうに、彼女の両腕は私の肩から落ちていた。

 それらは白いシーツの上に投げ出されたままで、動かない。


 気にせずに、執拗な程に脇腹や、肋骨を撫でていく。


「ね、知ってる?」


 細い腰の上で馬乗りになって、首を傾げながら問い掛けた。


「イヴって、アダムの肋骨、その一本から作られたんだって」


 服越しで見えはしないけれど、人体の構造については今日の経験もあってなんとなく理解している。

 人の臓器を閉じ込める監獄のような肋骨、その一本一本を入念に思い浮かべ、骨と骨の間でのさばっている皮と肉とで誤魔化されている溝に、指を滑らせていく。


「私ね、人体に機能美を見出しているの。それはさっきも話したよね?」


 五指を収まりのいい所に置いては、また別の溝にあてがう。


「血も、肉も、臓器も、管も、確かに素晴らしいと思うけどね。でも、そうじゃないの。そこではないの」


 少しばかり汗ばんでいて、私よりも高い体温が更に上がっていく。

 唇という防波堤から漏れる息は、意識の端すら掠めはしない。


「……骨格。骨格なんだよ、フィア。私の中ではそれこそが、積み重なった『生命の象徴』なんだよ」


 きっと穢れの無いであろう肌に、爪を立てる。

 浅かった息もその時だけは止まり、その後には潜めた息が繰り返されていく。


「ピアノの鍵盤みたいに規則正しく並べられて、重要な臓器を守る為に高められた密度の様は、まるでエトワール凱旋門から放射状に伸びた十二本の通りにも似ている。そうは思わない?」


 こちらでも、堪えきれない息を吐く。

 熱の籠もったそれを。


「私は、人体が好きだ――いいや、正確には違う。美しい物が、規則正しい物が何よりも好きだ。整然と並び、法則に従って整列し、雁首を揃える。その光景が、何よりも好きだ。愛していると言ってもいい」


 更に強く、爪を立てて、皮も肉も越えた骨を抉ろうと指を曲げる。

 宛ら、アイスを掬う為のディッシャーか何かのように。


「だって、仕方ないとは思わない? 何せ――」


 ずぶ。


「――綺麗な物が壊れるのは、何時だって美しいのだから」


 そう締め括って、爪の隙間に入り込んだ皮膚と血液を舐め取った。



                ▼△▼△▼△▼



 睡眠不足が私の判断を過たせ、結果的にハイテンションなまま変な事をしてしまった。


「大丈夫、もう大丈夫だからね」


 別に泣いてはいないんだけど、ちょっと正気度というかメンタルが削れていそうだったから、フィアを抱き寄せて頭を撫でて慰めてる。

 私の思想はちょっと、教育的に宜しくない物だし。

 こう、皮膚とか肉とか、肋骨に近い所を爪で引っ掻いて、その度に震えて涙を流して、それでも抵抗しない彼女を虐めてたら段々と熱が冷めてきて……で、自分のした事に自覚が行き渡ったという感じ。


 でもフィアが嫌がらないのが悪いんじゃないかなって。私は意思とやらを尊重している。敵対している者ならともかく、私の奴隷であるフィアにもそのぐらいの権利はあると思ってる。

 だから、彼女が嫌がればしっかりとやめたと思う。

 だって同意も無しにしたら、この関係に罅を入れるでしょう?


 まあ元々、同意もクソも無いんだけどね。拒絶したいなら多分受け入れるけど、別にこういう行為をする際に許可とか同意を取る気は無いし。


「怒ってる?」

「おこっては、ないです」

「本当に?」

「……ん」


 色々と尋ねると、彼女は私の腕の中で小さく頷いた。


 どんなに酷い事をしても、適当に抱き締めて頭を撫でるだけでなんとか宥められるのだから、奴隷とは便利な物だね。そういう従順さは嫌いじゃないよ。


 まあ、好きでもないけど。


「リーナさんは、その……そういう事を、したいんですか?」

「んー……」


 いやまあ、確かにセックス直前みたいな事はしたけどさあ。期待してたのなら悪いけど、生憎私はそういった事に興味は無い。

 もしあれなら、どうにか一人で慰めてくれとしか言えないね。見ないフリだの寝たフリだのはしてあげるからさ。


 色々と考えつつ口を開く。


「君は私の奴隷だけど、別に性奴隷って訳じゃないよ。仮にそういう目的だったら――」

「だったら?」

「【契約】を結んだ翌日には、もうシーツを変えてたんじゃないかな」


 ぽんぽん、とベッドを叩いてそう言うと、何を想像したのかフィアの顔が赤くなる。

 さっきあれこれと身体をまさぐって、弄っていた時よりも。


「……」


 なんか負けた気がして悔しいけど、別にバネになる程の悔しさではない。敗北感を紛らわすように彼女を抱え直せば、ブラウス越しに胸の柔らかい感触を感じた。


「下着、付けないの?」

「リーナさんはどっちが良いですか?」

「……痴女になりたいの?」


 問いに問いを返すと、フィアは私の膝から降りて腕の中から抜けて、薄青の下着を回収する。ちゃんと付け方分かるのかなーと見守っていると、思ってたよりスムーズに着け終わっていた。


 そうして、また私の膝の上に乗って、腕の中に入ってくる。


「私、もう寝たいんだけど」


 上目遣いでこちらを見上げてくる視線の元を見詰め返せば、少し悲しそうに伏せられた碧眼は潤んでいた。余韻かなんなのか、息は体熱を多く孕んでいて、喉の引っ掛かりにて掠れている。

 私がさっきしたみたいに爪を立てられている訳ではないが、スーツベストの背後には軋む指圧を感じた。


「……一緒に寝ちゃ、駄目ですか?」


 青がこちらを見上げ、甘く喉を鳴らす。


「駄目。ほら、さっさとあっちのベッド行って」


 彼女の脇の下に掌を当てて、強引に抱え上げる。そのままべちょっと向こう側のベッドに放り投げてから、自分もベッドに身を投げて、毛布を被った。


「じゃ、寝るから。おやすみ」


 既に消えているベッドサイドの照明を見て、自分の服装をだぼだぼな物に変えながら、彼女に背を向けるように寝返りを打った。




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こんなんされたらフィアさんの性癖ぶっ壊れてしまうのでは!?
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