36 『獅子身中の鞭』
剥かれた牙。
尾の蛇、半身は山羊であり、また半身は獣王である怪物。
それに対する敵情視察という名の《行使鑑定》。
開かれる[ステータス]は――、
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[名前]:〔――――〕
[種族]:魔物
[年齢]:55
[状態]:負傷
[任意稼働技能]
《地魔法》《火魔法》《風魔法》《闇魔法》
《魔力制御》《魔力抵抗》《魔力操作》《魔力触》
《変色》《威圧》《硬化》《迷彩》《狂乱》《毒呑》《崖登り》《威嚇》《巣作り》《視野拡大》《視野狭窄》《泥上歩行》《突進》《発狂》《共存寄生》《突貫》《蜷局》《蛇行》《意地》《念動》《想像妊娠》《指揮》《地纏い》《闇纏い》《風断ち》
《石化眼》《威圧眼》
[常時稼働技能]
《中級爪術・II》《初級牙術・X》《中級尾術・I》
《短縮詠唱》《幻影属性適性》《地属性理解》《闇属性理解》
《触覚強化・VII》《嗅覚強化・II》《筋力強化・VI》《腕力強化・V》《脚力強化・VIII》《持久力強化・IV》《咬合力強化・III》《食道強化・II》《爪強化・X》《牙強化・IX》《鱗強化・VI》《尾強化・III》《消化力強化・I》《体力回復強化・VIII》《自然再生強化・IX》《骨密度強化・III》《筋密度強化・IV》
《気配感知》《危機感知》《敵意感知》《熱源感知》《鑑定感知》
《気配遮断》《魔力遮断》《視線遮断》《危機遮断》《敵意遮断》《生命遮断》《鑑定遮断》《振動遮断》
《身体操作》《身体制御》《身体把握》《剛力》《俊足》《防御》《器用》《暗視》《円らな瞳》《柔軟》《双頭両立》《混合維持》《複眼把握》《複眼成立》《空間把握》
《魔法耐性》《魔力耐性》《物理耐性》《苦痛耐性》《騒音耐性》《気絶耐性》《空腹耐性》《混乱耐性》《熱耐性》
《地使い》《闇使い》
[称号]
〈百獣の王〉〈生存者〉〈略奪者〉
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脳内で[ステータス]を開きっぱにしておく。
《鑑定感知》に引っ掛かったのか金瞳が細まるが、それは無視。
同時。
右手に握った手斧を投げつけ、それが何かを引き起こす可能性を棄却した上で、投擲した黒い武器の放物線を地面に影映しした軌道で左の側を駆け抜ける。
目を向ければ、手斧は前足ではたき落とされていた。
悲観的であれば落胆を覚える事は無く、その獣らしい左腕にて行った対処で生じた隙こそを好機と捉え、右腕の付け根を、
尾。
長ったらしいそれが、腕に巻き付こうとする。
直剣の生成プロセスを放棄し蛇である尻尾を掴み上げ、そのまま全力で疾走を続けて。
握る手の親指で蛇の片目を潰しながら、獅子の上半身を横に駆け抜け、山羊の下半身も目の端に置いていき、両手でしっかりと蛇の首を掴みながら地面を蹴った。
遊園地の空中ブランコ。やっている事は似ている。
「半円まで、だけど!」
蹄の付いたキマイラの後ろ左足辺りから飛び、びんと張り詰めた尾を用いて後ろ右足まで飛んで。
それすら越えて頭部右側の近くにぶち当たる直前に、〝口〟から取り出したナイフを皮膚に突き入れた。
刺さる、刺さりはするが。
太い首の辺りにぶち当たった私も痛いが、取り囲むように土槍が形を成していたから直ぐ様転げ落ちて着地した。
前足の可動域の少し外にいるからか、キマイラは獣爪でなく断続的な【魔法】を使っている。
それらを避けたり、フィアが遠隔で【水球】で幾つか相殺するのを感じながら、『戎器歩法』を使いながら首の側面目掛けて飛び込む。
「生成」
そこで初めて直剣を作って斬りかかるが、軽く立ち位置を変えて首を振ったキマイラの頭部、その側面に吹き飛ばされた。
一本分無駄遣い。
早々に折れそうな左腕の衝撃。それら含めて採算しながら地に足の着かぬ、吹き飛ぶ身体で前に手を伸ばし、獣の足元――延いては地中に剣を作り上げた。
それを見届ける事なく、または結実する事なく。円内の淵、即ち幹にぶち当たる。
止まった視界と詰まった息の中で、山羊の後ろ足が撓められ――、
「、」
瞬時に横に飛び、遅れて樹木がへし折れた。
それを行った頭部が直ぐにこちらを向く。
「――――」
無機質な程に冷徹な金瞳、風に揺れる立派な鬣。
擡げられ、牙だけが剥き出された魔物。
目視して、
「――生成」
高密度に設定した槌が地面と反発し、高らかに下顎骨を打ち上げた。
先程地中に剣を作った際、推測するに地魔法で対処された――それが起こる事もなく、閉じられたままの顎が更に閉じられ、頭頂部とは違い骨の守りの薄い場所を叩く。
「ッグ」
不快そうな唸りを無視して、右腿の鞘から取り出し変化させた物で、
――ばんっ。
一つ、発砲した。
反動で右腕が持ち上がったが、それでも完璧な狙いは獣皮に痛痒すらも与えない。
「駄目か」
瞬間、地から伸び上がった土柱が私の背中を打ち上げた。
「い゛」
槍でなく柱、柱でなく樹。
それが私を遥か彼方まで花火のように打ち上げて、道理通りに〝火の花〟を開花させようとするのだろう。
「は」
木よりも高い空中を『まな板の上』に見立てたのか、半径五メートルの〝圏内〟にて知覚するは土・火・風を用い形を成した様々な武器。
延いては凶器。
時計回りの順で射出される十二の得物に対し、十二の盾を作っての後出しジャンケン。
黒滔々とした造物目的は果たされ、直撃を防ぎ、生成プロセスが終わるまでに生じる硬直が衝撃さえも防いで、余波のみが横髪を揺らした。
そして放物線の頂点に達し、故に私は万有の力に引き合わされていく。
着地点の真下には、剣山のように生え揃った土製の槍衾。
「やば」
私と共に落ちる十二の黒盾を引き寄せようとするが、生成が終わるまでに生じる、重力に従うまでの一瞬の時差が仇となっていた。
手を伸ばすが、十数のcmがどこまでも遠い。
半径五メートルの知覚が地の槍の一本一本を穂先まで感じ取り、その致命性を強引に理解させる。
力の入りようの無い足で、どうにか着地するか考え――、
「【氷球】――!!」
鈴の音と冷ややかな三つの球体が、幾つか槍をへし折った。
生まれたばかりの安全地帯に身体を打ち付けられながらも、上半身の辺りで新しく地中に盾を生み出して、強制的に上半身を弾き飛ばして体勢を立て直す。
次いで、想定通りに運べばトドメでも刺そうとしたのか、接近していたキマイラが右の剛腕を振り上げていて――振り翳される。
「役目、果たして?」
呟き、横に手を伸ばし、その瞬間に落下してきた十二の盾。
その内の一つを掴み取り引き寄せ、獣の爪から身を守る。
その際に響く、黒板で爪を引っ掻いたような異音。
次いで。肉が撓み骨が軋み、神経が編まれる不穏。
直撃は避けたが、衝撃を盾越しに受けて脚と腕が折れそうだね。中盾の端から見合った目は嗜虐的に細まり、私を嘲笑っていた。
「――――」
選抜基準から外れ残っていた十一の盾を、背中に開いた〝口〟で回収しておく。今にも拉げてしまそうな盾に魔力を追加投資し、衝撃と質量に抗う足の裏に剣を生成して、爪の形状をこれ幸いにと利用した。
要するに。
逸らすように、向かって左斜めに飛び抜けた。
盾には犠牲になってもらう。
それら一連の行動を追う金瞳を見返し、着地を狩ろうとする《火魔法》からは〝口〟が吐き出した盾で対応する。
「……は、ー」
息を吐く暇も無く。
――ず。
と、音が鳴っては、世界から〝光〟が失われていく。
「……なるほどね」
【滴下】。
それは泥を作る為に私が彼女に使わせた【魔法】の一つであり、『球』の形状を取らない物。水を生み出すだけの【魔法】。
それを現状に当て嵌めれば、
「――《闇魔法》、かな」
呟いたと同時、〝圏内〟で〝手斧〟を感じ取る。
手の中に直剣をでっち上げたと同時に左にて振り上げ、快音を散らしながら手斧の刃、その底辺を打ち上げた。
一歩下がれば、眼前を過るは頸動脈を掠める短剣の突き。
そうした所で落ちてきた、先程打ち上げたばかりである手斧の柄を右で握り込み。頚椎を過った感覚のまま、手鏡を見るようにして顔の前まで平らな斧刃を持ってくる。
――ぎっぃぃ。
赤黒く熱い火花が黒い金属粉と共に飛び散り、闇夜に弾ける。
感触が手首に負担を掛けたと同時。
斧越しに銃弾が拉げ、めり込んだ。
「……意趣返し?」
今までやってきた事が返ってきている、因果応報というやつか。
そういう能力なのか、ただ単に趣味が悪いのかは分からない。
多分後者。
能力としては単純に〝闇〟の物体化だろうし。
一つ言えるのは、月灯りがあっても夜は暗い。それはこの森、延いては十五メートルの円内とて例外ではなく、唯一の光源さえ失ったここに於いては――視界は、無用の長物であるという事。
だから、半径五メートル。
出自不明で身元の知れないその感覚にこそ、身を委ねるべきだった。
「っ」
切れた《思考加速》が全ての感覚を等速に戻すのを感じ取りながら、手斧を捨てて直剣の刀身を縮め、減った総量を右手に移して。
即ち、両手で短剣を握った。
闇で形作られた半球。私を包み込むもの。
それは丁度、半径五メートルであり――、
全ての闇を、第六感で感じ取る。
傾倒した感覚が私の身体を導き、数瞬前の自分を殺した。
薙ぎ払われる刃、振り下ろされる槌、打ち込まれる弾、突き上げられた槍、回り飛んでくる手斧、風を切り飛来する矢。
深い闇にて形作られた武器が、ここでは存在しない私の影を斬り殺し、殴り殺し、撃ち殺し、刺し殺し、割り殺し、貫き殺していく。
「ぢ」
対応範囲外であり、許容範囲内故に無視した物。
頬が切れ、腕が殴られ、脇腹が抉れ、掌に刺さった。
「つ゛」
痛覚は遠い。いつものように。
だから無視。
避けるか、逸らすか。
或いは、一瞬に限って鍔を迫り合うか。
与えられた選択肢はその三つであり、後追いで作った〝篭手〟が根本的な選択数を増やす。
「――、――」
このまま相手の魔力を消費させるのはいいのだけれど、私も相当の体力を消費している。魔力にはまだ余裕がある、体力には余裕がない。このまま舞踏を続けたら、私は踊り狂って死ぬ。
故に。
「【風の神、」
呟きながら、槌を右の篭手で逸らす。
暗がりには映えた火花が散る。
「その御名に従い、」
呟きながら、揺れた前髪が銃弾で散りゆく。
微かばかりに額が血を流す。
「破魔の力を齎し給え――】」
踏み外した脚は、身体を凋落へと導いて倒れ込ませた。
左に握る短い刀身を、長く伸ばし上げて。
「――【風刃】」
抱き込むように、腕を動かした。
主とやらの〝管〟、直々に付けられた名前の一つ。
後付けされた御名は、代価を払う事で創世の一部を再現する。
見様見真似、それらしい語句を選んだだけだが――、
「【破けてしまえ】」
鞘のように風を纏った剣が、刀身よりも尚長い風刃が。
――闇である半球を、斬り裂いた。
小さな世界は亀裂から月光を取り込み、明るさという観点で球の内部は少しばかりマシになる。ついでに、打ち払おうとしていた闇色の剣が現実性を失って溶けていく。
「あー……」
瞬きを繰り返した。
一度目をぎゅっと閉じ、ゆるりと開けた。
漸く一息程度は吐けると思って期待したのに、卵の殻にも似た暗幕から抜け出した先には数えるのも面倒な土槍が、こちらに向けて雁首を揃え、穂先を向け揃っていた。
盾を作るべき、かな。
あれらから身を守る為には相当に硬度と密度を上げなければならないから、相応に魔力を使わなければならないのだけど。
左手を伸ばし、盾を構える体勢を取り――、
「――――」
――目が、合った。
混合獣よりも後方。
茂みに隠れて、今の今までこちらの様子を窺っていた彼女。
眼窩に収まる、仄暗いモノ。
深海よりも尚深く、暗く、淀んだ、救いようのない場所。深海魚すらも水圧に耐え切れなくて圧し潰れるような、深い深い海の底。最も身近な宇宙であり、最も底知れない宇宙と呼ぶに相応しい冥海。
恐怖と不安と後悔に満ちた、海水という虚ろに満たされた誇大な洞穴。
私と共鳴するそれが、意思を籠めて私の事を見詰めていた。
「――――」
彼女の特異性、それは理解の下にある。
だから、まあ。
私に従順な彼女が、どうにか出来ると示すのならば。
「お手並み拝見といきましょーか」
身を委ねるのも、一興か。
脳髄の設計図に行き渡ろうとしていた魔力を取り止めて、盾を構える為に上げていた手も下ろした。
息を吐いて、身体の力を抜き、軽薄な笑みを繕った。
そうして、無数の傷口を抑えた。
「【――――】」
遠くに聞いた、高く澄んだ声。
……――きぃん。
瞬間として、高く澄んだ硬質な音。
同時に、押し並べられた光壁。
「【――――、――】」
十センチ程度の辺で構成された、大量の六角形。少量混ざるは五角形。
それらに創り上げられるのは半球。
仄かな灰光を纏ったそれは、先程まで私を閉じ込めていた暗幕と相反した印象を抱かせるそれ。
どこか親しい気もして、だけれど触れれば致死に至る気もする。
視界内の情報を観察していると、そこで漸くある点を取り囲むように立ち並んでいた土の槍が射出され始め、私を刺し殺さんと空を切りながら距離を縮め出した。
縮めて、縮めて。
それで。
――目の前で、槍が溶けた。
一本だけでは飽き足らず、数本も、十本も、数十本も、百本も、全ては同じ末路を辿るのみ。腐敗の末に構成する要素は溶け落ちる。
風に吹かれて、砂にも似た粒が飛んでいき、それすらも希薄であると宣うように消えていった。
〝口〟から出る消化液と似ているが、私が溶かせるのは死滅、或いは攻撃性の削がれた対象のみ。石に枝に死体は溶かせるが、射出された銃弾や存命している生物といった対象は溶かせないし、呑み込めない。自分の手に発砲して確認したから分かる。
であれば当然、目の前の事象とは異なる。
異なるのだけれど――類似している。
そう、思った。
思った所で、役目を終えた光壁が自らさえもその破滅的な効力で蝕み、立った鳥が跡を濁さぬのと同様に消えて無くなり、余韻すらも残さないまま全てが終わる。
「なるほどね」
《思考加速》を再度切りつつ手を上に向け、文脈の皆無を前提として頭上に生成した剣を掴み取り、構えを取った。
訝しげな金瞳。それを見ながら、
「本気、出さないの?」
呟いて。『戎器歩法』を使い、距離を縮めていく。
迎撃するは尾である筈の蛇鞭。
蛇側で脳震盪とか起きそうな速度が、屈んだ私の上空を通り抜けた。蛇部分との抵触の可能性をまるで考慮していない追撃は、獅子である右の前足を用いた物。
盾を生成し、
爪。
「ぎ」
左肩から右腰、感じた衝撃はそれ。
拉げ、破け、壊れた黒盾からは白爪が覗いて、貫いていて。
「あ」
痛、みが。
脳髄に、熱鉄が流し込まれた。
「――――」
反射的であり瞬間的に極端な程に引き伸ばされたこの瞬間は熱のようでありより強まった不快を更に強めて骨を掠め肉を抉った獣爪には皮膚すらも崩壊の一途に巻き込まれている筈で――、
それ、だけだ。
《思考加速》の恩恵を受けている以上、独り言が『独り言』として発露するには時間が掛かる故に、脳内でそう呟いてから〝防具〟の補修を行う為に魔力を割いて、無理矢理体重を後ろに傾けた。
《思考加速》を切りつつ身体が後方に45°ほど傾いた所で。
「生成」
靴の延長線。地中に剣を生み出し、強引に自分を弾き飛ばす。
その際何回も空中でバク宙するのと魔力を大分消費した事を除けば特に問題は無い。
他に問題があるとすればキマイラの行動、その質が突如急に、文脈も無く変わった事。
あと胸の傷。服を補修する際には少しきつめにしたから、最低限の止血は出来ている筈。
本題のキマイラについてだけれど、あの攻撃を防ぐ際に生成した盾は今までの物ならば十分以上の硬度と密度を誇っていた。それが突破されたという事は突如私の推定とは異なったという事。
その唐突と言える変化には予兆が無かったからこそ私は致命を負い、前後の文脈が欠如していたからこそ――、
「――――」
いや、仮に文脈があるとすれば?
未だ、錐揉み回転する視界。
空回りする思考に生まれた引っ掛かり。
加速された思考思索思慮思弁。
「……あは」
確かめて、みようか。
《軽業術・破》の恩恵を感じながら、〝変化〟で靴の重さを上げてなんとか両足と左掌の三点でずさーっと余韻を残しながらも地に降りて、前を見据える。
そして、『戎器歩法』で直ぐに右後ろ斜めに飛び退き、キマイラの〝お手〟を避けた。
錐揉み回転しながらも飛んできて、現状としては円内の中でも端の方。
だから、右後ろ斜めに飛んだ私の靴裏が捉えるのは、木の幹。
――《立体機動》。
その恩恵を感じながら衝撃吸収・動作準備の為に曲げた膝を伸ばし――跳んだ。
前足は双方共に硬直隙故に使えなく、後ろ足は届きやしない。
唯一使える筈の牙は、推測が合っていれば使える筈も無い。
獅子の形をした顔面に乗り上げても仮定は変わらなく、湿った鼻から眉間を踏み躙り、スペースの少ない額に左足を掛けては、そこから更に首へと乗り上げて、ついには背中へと達する。
手足、或いは爪牙代わりの【魔法】が、土が、火が、風が、球弾刃矢槍――何れかの形を成して身体を掠めていく。
土にて裾が破れ、火にて腕が焦げ、風により頬が切れた。
必要最低限のみに対応して、それ以外は無視して、獅子である上半身から山羊である下半身を乗り越え、目的だった尾の部分に到達する。
身体から落ちつつ尻尾を辿り、強引に尾の先。蛇の頭部に当たる部分を掴んで――、
「当たり」
キマイラにとって不都合な物だったのか、掴んだ尻尾の先端ごと無理矢理山羊側から獅子側へと移動させられる。
鞭の先端は、音速を超えるらしい。
私という余計な重りがある以上それには届かないが、相応の速度で吹き飛んだ。軌道予想では幹に当たる予定だけれど、それよりも前に一本の鋭利な土槍に刺される方が早い。
視界ではなく〝圏内〟でその事実を把握しつつ、心とやらに穴が空く前に〝棒〟を垂直に生成して、数瞬の硬直過程にあるそれを革手袋のグリップを盲信しながら掴み、強引に軌道を変える。
そのまま地を〝面〟とした二次元的な180°を巡っても収まらぬ勢いを、生成プロセスをついに完遂した〝棒〟が硬直能力を失ったお陰で回る事なく真っ直ぐな軌道に変えられ、目指すは獅子の頭部。
両端が長いUの字のような軌道。
それを描いては飛んで、勢いが止む頃には既に地が足に付いていて。
百獣の王の表情は目の前で。
軌道を変える為に使って、今の今まで持っていた〝鈍器〟を〝拳銃〟に変え。
「――【爆、ぜろ】」
行うべき工程も、持つべき信仰も投げ捨て叫ぶ。
――そして、口の中に腕を突っ込む。
新品故に弾倉に収まった六発。
それが熾った火に誘爆し、銃体も何もかもを伴い、言葉通りに爆ぜていく。
銃は用途から外れた上でキマイラの口内を荒らし、私の右手を、その神経を侵し尽くし、脳内麻薬でさえ上書けない痛みを与えた。
爛れている。
肉が弾けて、骨が砕けて、掌が掌でなくなる。
「 、 」
許容範囲外した痛みは叫びにすら変わる事なく、身体だけが冷や汗を掻いたまま獣の口内の、その奥に引き籠もっている物を握り、引き摺り出す。
死力か全力か、なんなのか。
筋肉質なそれを掴み上げ、引き千切った。
「君、だろ」
口蓋垂、或いは舌の代わりとして居座っていた〝蛇〟を取り出す。口内に収まったままの眼と思われる物を親指で潰し、引き攣った頬のまま手の内を握り潰した。
その感覚は、どこか遠くにある。
がちり。
と、何故だか降りた獅子の顎が右腕を半ばまで千切るが、これ幸いにと引き千切った。
中枢が抜けたからか、倒れ込んだキマイラの頭部に乗り上げ、左手に作った剣で金瞳を刺し貫いて。
「……、は」
〝変化〟した剣先が獅子の脳を包み込む。
握り潰すように。
脳溝に沿って刃が入り込み、削り取り、対象の思考を壊す。
壊す、壊して。
それで。
「あ゛……」
息が荒い、体が寒い。
傷が痛い、脳が煩い。
それで、それで。
それ、で。
「――ぁ」
そこで、何かが切れた。
それだけ、だった。




