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食卓上、機械摂理夢遊論。  作者: 未曲
一章 『転生少女と廃棄聖女』
20/49

19 『幻想的世界観に於ける電子決済について』



 特定の人物を誘拐するにあたって、障害となるのは『数十kgの重量が暴れる』という事。


 加えて、その荷(・)物(・)は周囲に存在が露見してはいけなく、且つ対象は積極的に露見しようとする。

 恫喝、暴力、恐怖、拘束、制約、薬物。

 暴れづらく、存在を露見し辛くする道具は山程あるが、それでも難しいのが誘拐という行為。私はそう思っているし、そう解釈しているし、そう落とし込んでいるし、そう認識していた。


 しかし、この世界に於いては比較的容易であると推測出来る。

【拘隷の刺呪(こうれいのしじゅ)】。これさえあれば、契約さえ結ぶ事が出来れば、対象の意思、活動、生命、人生、それらを手中に収められるのだから、誘拐行為にて発生する筈の障害は起きないだろう。


 であれば、誘拐対象は誘拐の遂行者と現地で契約を結ぶ可能性が高く。

 そこから考えれば、奴隷である『ナレーフィア・サリメルカ』と契約を交わした『ご主人様』に当たる人物はとうに死んでいて、現在の彼女は今までに無い程度には自由であると推察する事も可能である。

 だからこそ、今までとは違って開けた世界が不安で怖くて仕方がなくて、本質としての性質は私と異なるだろうに、必死に私を繋ぎ止めて、どうにか一緒にいようとしているのだろうか。

 それか、全ては私の行き過ぎた妄想なのかもしれない。


 あと三週間と少し。

 そこまで一緒にいれば、多少は人となりも分かるだろうか。

 分かる前に、私は彼女を殺してしまうのか。


 どっちに転ぶのかは、未だ分からなかった。


「――なるほど」


 最近になって見慣れてきた蜂蜜色の髪が、何度も首肯する動きに従って揺れるのを見ながら、《思考加速》を打ち切った。


「確かそちらの方は、《神聖魔法》を使えるんでしたか」

「……え、ええ、まあ、はい」


 そんなに動揺する事は無いだろうにとも思ったけれど、確か《聖女》の効果で神聖魔法が授与されるとか書いてあった気がする。だから彼女は、逆算でバレるのではないかと危惧しているのかもしれない。

 それだけで分かってしまう程に、《神聖魔法》を保持している人は少ないのだろうか?

 彼女に直接は聞けない。確かにフィアはある程度私の無知を許容するだろうし、詮索も穿鑿もしないだろうという予想がある。あるが、初歩的な事を聞きすぎると流石に、この関係に支障をきたすかもしれない。


「たまにあるんですよ、高位の法師が魔石まで浄化してしまうこと」


 受付員がそう話すが、信仰心と実力が比例するとは思えない。

 いや、違うか。


 実力があって、信仰心もあるから法師としてやっていけているだけで、どちらかが欠けている場合はそもそも法師として存在しないから、信仰心と実力が比例しているように思えるだけか。

 生存バイアスに近い感じ?

 その推測が当たっているとした仮定した考えるのならば、神霊的存在に対する信仰心が皆無である私にも、《神聖魔法》を獲得できる可能性があるのかもしれない。

 信仰心が無く、実力だけはあるという存在というのもあり得るのかもしれない。


「まあ、いいでしょう。これはこれで魔術師に売れますし、そもそも試験として出した基準は達成していますし」


『ゴブリンを二人で力合わせて五匹討伐しろ』と言われたのに、十匹分の魔石を渡したらそりゃそんな反応にもなると思う。でも私は悪くない、悪いのは十匹も勢揃いで出てきたゴブリン達。


「……つまり?」

「合格となります」


 二人が会話する様子を視界に入れつつ、妙に集まっている視線を感じ取る。多分《視線感知》のお陰。あまり効果が実感出来ないのは、多分前世から視線には敏感だったからだと思う。

 何故注目を集めているのだろうか。

 あれか、女二人だからか。

 しかもフィアは、庇護欲を誘う見た目してるし。


 まあ、きゅるきゅるな青い目してるしね。気持ちは分からなくもない。

 共感は出来ないけど。


「本登録おめでとうございます。それでは、こちらが【カード】となります」


 そして彼女に、二枚分の名刺のような物が差し出される。で、フィア経由で私に一枚が渡される。この真っ黒な固い一枚があれか、彼女が一週間前ぐらいに説明していた【カード】とやらか。

 通行料の免除、宿屋の料金に加えて消耗品費とかを割り引きしてくれるらしい効力を持つらしい、何か。


 誰でもいいから、【カード】の概要について説明してほしいんだけど。

 ああいや、鑑定すれば……いやでも、それだけでは常識的な知識とかは分からないだろうし。

【拘隷の刺呪(こうれいのしじゅ)】がいい例。


 効果は説明文にある。だけれど、どう扱われているのかは書かれていないから。


「【カード】について、説明は必要ですか?」

「……リーナさん、どうします?」


 彼女が振り向いて、私に訊いてきた。自己判断で要求するのでも拒絶するのでもなく、ちゃんと私に確認を取ろうとしている。偉い、いい子だ。人目と関係が無ければ、抱き締めて頭を撫でてやりたい。

 まあ、人目と関係が今とは異なっていても、私がそうする事は永遠に無いのだけれど。


「勘違いがあると怖いし、してもらった方がいいと思うよ」


 少し大袈裟な比喩の揚げ足を取るのを止めて、銀髪の彼女に提案する。

 だって説明は欲しいし。


「では、お願いします」


 透き通った声でカウンターに述べるのを聞きながら、耳をしっかりとそばだてる。


「まず前提として【カード】とは、冒険者としての本人性をギルドが担保したある種の証明書です」


 んー……つまり、運転免許証みたいな物?『冒(・)険(・)者(・)と(・)し(・)て(・)の(・)本人性』とわざわざ言っている事から察するに、純粋な身分証明には届き得ないのだろうか。まぁ一ギルドがぽんぽん身分を与えたら大問題だし。


「お二人方は現在Gランクですが、それでも帝都や王都含めた大都市を通れるだけの効力が、【カード】にはあります」


 ……じゃあ偽名でもなんでも使って本登録を何度も通過したら、幾らでも【カード】を用いて『架空の身分』を作れるという事? 犯罪し放題じゃん。

 というか、一ギルドがぽんぽん身分を与えてるし。


「本人のスキル情報と依頼関連の履歴は【カード】とギルドに記録されますが、収められた個人情報は悪用防止の為にしか用いられず、ギルド本部にて厳重に管理しますので……あしからずご了承ください」


 思ったより情報化が進んでいるというか、データベースらしき物が存在するらしい。


「次に、この【カード】には幾つかの効果が存在します。一つは通行料の免除。その他にはギルド提携の店に限り宿泊料、消耗品費の割り引き、三つ目は先程説明した本人性の保証。他には現在のステータス確認。そして最後に――」


 なんだろうか、やはり武器の携行に関する物だろうか。


「――全般的な支払いが行えます」


 ――。


 ――――。

 ――――――――。

 ――――――――――――。


 ――はい?


 つまり、あれか? 電子的な情報のやり取りにて支払いを行う、電子決済がこれで出来ると? 確かにクレジットカードも『カード』ではあるから、【カード】と形状が類似しているとはいえ。


 いや、え……は?


「ご存知だとは思いますが――五角銅貨から大盤金貨まで、この大陸全体で流通している通貨はその全てが、魔力を編む事で造られています」


 また魔力か。

 私の《情動戎器》然り、物質の生成まで行える魔力は果たして一体なんなのか。これもまた、現状では分からない事の一つ。考えても意味は無いとは理解しているが、それでも疑問が浮かばずにはいられない。


「この【カード】は各通貨の【編目】を解く事により、通貨の魔力化とその保存を可能にしています。専用の魔導具や、また特別な操作を介せば通貨として戻す事も可能ですので、【カード】で支払いが行える……という訳です」


 もう何を言っているのか分からない。

 いやある程度は分かるが、この世界だけの文脈というか専門性が高くって、異世界人の私に分かる訳が無さすぎる。


「当ギルドでは貨幣の預りも行っていますので、是非ご利用ください。【カード】での本人確認が必要という前提はありますが、遠隔だろうとどこからでも、預金から魔力化した通貨を引き出せるので」


 過ぎた技術(オーバーテクノロジー)って、便利なんだなあ。


 なんというか、仕組みとか構造に対して思考を回すよりも、『便利だなあ』と事実だけを鵜呑みにした方がいい気がしてきた。この事を考えるのは精神的疲労が大きい。

 屠殺場でレーザーブレードを使って牛の首を切り落としていたら、びっくりするでしょう?

 それとおんなじ気分。空想と現実がこうも絡み合っていたら、受け止めるのに時間を要するのは必然と言うべき。


「……どうしました?」


 何故だか、少し爪先を立てて背伸びしてまで彼女が耳元で囁いてくる。

 添えられた手が横髪に微からしく触れるのが、少しくすぐったい。


「顔色が良くないですけど……具合、悪いんですか?」

「いや、別に」

「……本当に、大丈夫ですか?」


 横目を向ければ、囁く体勢を解いた彼女はすっごい心配そうな顔をしている。眉をへにょっと曲げているし、目だってこちらから離そうとはしないし。

 え、そんな顔色悪い? 感情は表情とかで出さないようにしてるんだけど。


「……説明を続けても、よろしいですか?」

「あ、はい」


 返答して直ぐに、それまで向けていた横目を前に戻して引き続き話を聞く。

 その体勢を取った。


「今しがたお二人に渡した【カード】は余白が大半ですので、今まで述べた効果は何一つありません」


 表を見て、裏を返してみても、確かに表裏どちらとも、ただただ真っ黒な硬質のカード。


「ですので、その【カード】を自身の魔力で染め上げてください。そうすれば、表の面に当たる箇所に現在のステータスが表示される筈です」


 染め上げるって、なんかえっちだね。

 そういう訳でもない?

 そうかも。


 本当に比喩的意味合い抜きで益体の無い思考を回しつつ、身に居座っている最早伴侶となった【体躯】の一部を【カード】に流していく。


「……ん」


 あ、なんか裏側が光った。


 適当にひっくり返してみれば――、



========================================


[氏名]:『リーナ』

[組合指定階級]:Gランク


[任意稼働技能]

《捕食》

《思考加速》

《改竄》《脱兎》《集中》《運搬》《追撃》《連携》《凝視》《意地》

《情動戎器》《行使鑑定》《第三の家畜》《天竺鼠の加護》


[常時稼働技能]

《暴食》《貪食》《消化習得》《欲望の口腔》

《初級剣術・III》《初級手斧術・I》《初級棍術・I》《初級鉈術・I》

《演算領域拡張・I》

《火属性適性》

《視覚強化・II》《触覚強化・I》《嗅覚強化・I》《平衡感覚強化・V》《反射神経強化・V》《握力強化・I》《筋力強化・I》《腕力強化・II》《脚力強化・IV》《爪強化・I》《魔力回復強化・IV》《体力回復強化・I》

《気配感知》《視線感知》《危機感知》《敵意感知》《悪意感知》

《気配遮断》

《柔軟》《観察》《空間把握》

《貴種の品位》《貴き蒼血》

《睡眠耐性》《騒音耐性》《気絶耐性》《空腹耐性》

《混乱耐性》《熱耐性》《冷耐性》

《言語完全知識》

《重心知識》《力学知識》

《投擲術・序》《片手術・序》《回避術・序》《受身術・序》《踏破術・序》《呼吸術・序》《睡眠術・序》《窃盗術・序》《軽業術・破》


========================================



「スキル欄に関しては【カード】を魔力で染め上げた段階で刻まれた物ですが、名前と現在のランクについては事前にこちら側で書き込んだ物ですので、何か取り違いがあればいつでもお伝え下さい」


 強くなったというか、初めての自己鑑定時からは少しスキルが増えたよね。


「ねえ銀髪ちゃん、君の【カード】見せてよ」

「……変な事しません?」

「しないよ。出来るかどうかも分からないし」

「なら、いいですけど……」


 一週間ぐらい一緒にいる筈なのに、初対面時よりも信用が減っている気がする。何故だろうとは思うけど、私の振る舞いの所為なんだろうなあと。

 うん、私だってこんな私を信用してないしね。


 これ以上考えたら病みそうだし……いいや、とりあえず差し出されてるやつ見よ。



========================================


[氏名]:『フィア』

[組合指定階級]:Gランク


[任意稼働技能]

《水魔法》《神聖魔法》

《脱兎》《水泳》《集中》《運搬》《嚥下》《木登り》《壁登り》《視野狭窄》《泥上歩行》《突進》《前転》

《冥眼》《聖眼》


[常時稼働技能]

《初級杖術・I》《初級体術・I》

《無属性適性》《神聖属性理解》

《聴覚強化・V》《敏捷強化・II》《巧緻性強化・I》《魔力回復強化・III》《体力回復強化・II》《自然再生強化・I》

《気配感知》《魔力感知》《視線感知》《危機感知》《敵意感知》

《悪意感知》《振動感知》

《生命遮断》

《身体制御》《身体把握》《反響定位》

《魔法耐性》《魔力耐性》《物理耐性》《苦痛耐性》《睡眠耐性》《騒音耐性》《気絶耐性》《空腹耐性》《混乱耐性》

《音感知識》《薬草知識》

《料理術・破》《家事術・破》《登攀術・序》《跳躍術・序》《匍匐術・序》《回避術・序》《受身術・序》《踏破術・序》《採取術・序》《呼吸術・序》《睡眠術・序》《軽業術・序》《歌唱術・序》《儀礼術・序》《演技術・序》


========================================



 ……んー? 私の【カード】にはしっかりと《暴食》とかが表示されているのに、彼女の物には《節制》関係と思われる物が無い。あと、《聖女》とかも。

 

「ちなみに、ステータス欄は裏面で設定を行う事により、各スキル毎に表示するか否かを変更できます」


 なるほどね。渡す前に先んじて表示を消したのか。


 とりあえず彼女の【カード】を返して、自分の方で色々と表示設定を行っておく。

 それから漸く、ゴブリン十匹分の討伐報酬を貰った。いや、厳密には五匹分か。元々の出された試験依頼の分は既に【カード】で払われているらしいから。

 三角形と四角形の銀貨を一枚ずつ手渡されて受け取ってから、それをフィアに手渡す。だってお金の管理とか面倒じゃん。もし彼女に飛ばれたら、その時はその時でなんとかする気だし。


「改めて、本登録おめでとうございます」


 突然、はにかむような笑みと共に、受付嬢からそう告げられる。


「お二人の栄達に、どうか神のご加護があらんことを。そして――」


 私が服装のお手本とした人物は、意図的に言葉を切った。


「――次回以降の受付は……この、レニー・プエラにお任せください」


 ……押しが強いな、この人。




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― 新着の感想 ―
人目がなかったらフィアさんをわしゃわしゃしたいくらいにはもう大好きってこと!?!?
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