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食卓上、機械摂理夢遊論。  作者: 未曲
一章 『転生少女と廃棄聖女』
19/49

18 『作為的カタパルト』



 単純作業は、人の意識を破壊する。


〝ここ〟に来てから約一週間、新たに得た知見、或いは警句がそれ。あとついでに得た物を挙げるとするなら《運搬》。これは私も彼女も持っている。

 入手経路は《思考加速》と全く同じ。

 つまり。


「……働きたくない」


 熟練度の閾値超過、というあれ。


 冒険者の仕事の中で、採取依頼が一番面倒で疲労の溜まる仕事だと思っていた。だから彼女に提案して、『雑用依頼受けてみない?』と提案したのが地獄の始まりだったのだろう。

 何時間も重い荷物を持って行っては来て行っては来て――。


 単純作業は、人の意識を破壊する。


 そう、強く感じた。


「働きたくなーい……」

「気持ちは分かりますけど……ほら、鑑定審査の結果次第ですけれど、今日はまた別の審査を受ける日なんですから」


 机に潰れて何度もぼやいていると、躊躇いがちな色で声が掛けられる。


「分かってる、分かってるけどさあ」


 机の天板で視界が使い物にならないまま、左手に持ったフォークで最後のベーコンをぶっ刺す。多分あれだ、《空間把握》とかのお陰だ。……それにしては、前世の頃と何か感覚が変わった気はしないけれど。

 とにかく。

 つい昨日、ノリと勢いと気合で採取・雑用依頼を丁度十回目を達成して、それをギルドに報告した際、ついでに鑑定を受けて――勿論、その結果はちゃんと《改竄》で誤魔化した。


 勿論改竄したのは、〈鑑定石〉とやらを用いての結果に対して。


 なんか目みたいな模様が刻まれた石ころ。それを数秒握り締めて魔力とやらを流し込んでから受付員に渡したら、なんか変な台座に置き出して、ホログラムみたいに文字が浮かび上がったりしてた。

 個人情報周りと称号とかは表示されていなかったけれど、それ以外は平然と浮かび上がろうとしていたから、正直すごい焦ったなぁ。


《行使鑑定》以外の鑑定法を調べようにも時間と体力が無くて、結局ぶっつけ本番で光り輝き浮かぶ文字に《改竄》を掛ける羽目になったから。

 その所為か、昨夜はまた悪夢見たし。精神が摩耗していているのが自分でもよく分かる。


「ほら、行きますよ」

「はーい……」


 重いと言うには重過ぎる身体を引き摺って、なんとか朝食の塩辛いベーコンを口にねじ込んだ。



                ▼△▼△▼△▼



「鑑定審査は合格でしたので、次は実地試験となりますが……」


 私が服装のお手本とした人物は、意図的に言葉を切った。


「――お二人は、どのような関係なのでしょうか?」


 赤の他人。

 それ以上でも、それ以下でもない。


「……えーと」


 彼女が困ったようにこちらを見る。

 私に助けを求めるのはやめてくれ、特に人間関係については。

 さあ是非とも思う存分に会話を進めてくれ。


「あの、その、どういった意図の質問で……?」

「お二人は本登録後、パーティーを組むのではないのですか?」


 いや? 私が定めた基準に達していなければ、さっさと喰い殺して天敵と成り得そうなスキルを全部奪うつもりです。

 とは言えないし、問いかけられているのはフィアだから、口はチャックしたままにしとく。


 そうしようと思ったのに、フィアはこちらを見上げてくる。


 だから。


「まあ、ちょっと複雑ですけど、他人……ですかね。本登録の後に、パーティーを組むかどうか決められないぐらいの、他人です」


 本心をそれらしく『社会的常識』というフィルターで加工した上で伝えると、受付員は蜂蜜色の頭髪を揺らして困惑の表情を浮かべる。


「どうかしましたか?」

「……いえ、他人とは思えない程に親密そうでしたので」


 ……。


 だってさあ。私、他人と関わった事(ケース)が少ないもん。友人とかならいざ知らず、他人とどういう距離感でいればいいのかなんて分かる訳ないじゃん。これ私が悪いの? ねえ。


「ああ、そこはほら。〝複雑な事情〟があるので」


 含意的な笑みを浮かべて内心を隠し、追及から逃れてフィアを引き寄せて私の盾にする。

 人間と話したくない。言葉を交わしたくない。

 こういう面倒な事は全部私以外に任せるべき。

 その思考を感じてでもいるのかフィアが困ったように私を見ているが、素知らぬフリをした。別に必要に駆られている訳ではないし、頑張れば頑張った分だけメンタルが削れていくから。


 そうやって精神的・物理的な距離を取って、《思考加速》の海に逃げた。



                ▼△▼△▼△▼



 森の中。多分私と彼女が初めて出会った場所の近くだと思う。あと、ハイド達三人をぶち殺した場所でもある。

 というかそっちの印象の方が強い。あの戦いで私は命の尊さを知ったよ。


 塵芥みたいな尊さをね。


「リーナさんはゴブリン、倒した事ありますか?」


 相も変わらず治安の宜しくない思考を回していると、あんまり聞かれたくない事というか、思い出したくない事を想起するような質問を掛けられる。

 それにしても、彼女は首元の主張が強い。


 時々地味なスカーフの下から覗いたりする【拘隷の刺呪(こうれいのしじゅ)】に加えて、Ψ(プサイ)みたいな形の飾りが付いたペンダント、と色々とごっちゃになっている。


「逆に聞くけど銀髪ちゃんは? あるの?」

「……無い、ですね。そもそも、外に出る事があまり無かったので」


 やっぱり、貴族の令嬢とかだったりするのかなあ。でも別に作法が身に付いてるとかそういう訳でもないし。見た目は貴族というか、高貴というか、清楚な生まれって感じがするけど。

《聖女》というスキルの印象に引っ張られているのか、それともΨ(プサイ)が十字架にでも映っているのか、彼女にはドレスよりも修道服が似合う気がする。

 

 いやね? これほどの美少女ならドレス着ても似合うと思うけど。うーん、今まで人攫いに襲われてないのが不思議だ。いやもうフィアは既に一回は攫われてるんだけども。


「で、経験あるんですか? 無いんですか?」

「んー?」


 何を、話してたんだっけ。


 ……あー、思い出してきた気がする。

 ゴブリンを殺したとかなんとかだっけ。


「あるよ。こう、大きな石を持ってゴブリンの頭に、えい、えい、ってやって」

「……冗談ですか?」

「いや、実話」

「そうですか」


 振り下ろすジャスチャーを混ぜたからか結構高解像度で伝わったらしく、戯言ではないかと疑われたが、大丈夫。私達には永遠(いっしゅうかん)の絆があるから真偽は伝わっている筈。

 うーん。やっぱり、彼女との付き合い方は考えた方がいいのかなあ。

 でも経験不足が原因とはいえ、傍から見ても『親密』に見える関係を今更修正するのは、正直二度手間で面倒だし……うん、現状維持で行こう。別に私としては彼女を生かしても、殺しても、どっちでもいいのだから。


 どちらにせよ、私に益は齎されるのだから。

 そう思いながら、試験での討伐対象についての考えを進めた。



                ▼△▼△▼△▼



 ――愉しい。


 なんか最近、情緒の不安定さに拍車が掛かっている気がするがどうでもいい。


 腕を振る。そうすれば、薄汚い緑の肌からは、どろりと濁った赤が飛ぶ。

 別の方から振り下ろされる棍棒は、正面から切り掛かった後の低い姿勢で避けて。そのまま倒れ込み地面に手を突いて、鈍器を握っているであろう後方の腕を、馬がするみたく片足の踵で蹴り上げた。


 そうした後に地をごろごろと転がって、棍棒を振り下ろす為に強く踏み込んでいた敵の足に脚を絡めて、と。主に腹筋を使って起き上がってから、後ろから抱き締める形でゴブリンの首に刃を添え当てる。


「次」


 ぐぶりとナイフが刺さったのを確認してから、腕の中に収まる身体を適当に除けて手の内に新たな短剣を生成した。


 今ので二体目?

 彼女には適当に五体を任せたから残りは三匹。前を向けばしっかりと隊列を作っている。相手の知能に期待するのなら、先頭が一番戦闘能力が高く、そことやりやっている内に両翼が来る、みたいな。

 或いは、単なる偶然の並び?


「どうでもいいや」


 さて。

《情動戎器》で生成した物は、その生成座標に物質が存在している場合に於いて。最終的には空気に満ちた空間へと、中途的には物質的密度の低い方向へと弾き出される。

 その性質を利用したのがハイドとの戦い、その決着であり――、


「ん゛、んっ」


 敵が向かってくる中で悠長に、喉を整え直す。この隙を見てかぎゃっぎゃっと騒ぎつつ、ゴブリン達は嬉々として距離を詰めてくる。大体10mぐらいの距離から、9、8、7、6――。


「――『生成』」


 5m。


 彼らが到達すると同時に、吐き出した発話。前回は剣を用い、そして今回は――今まさに。

 予兆もなく、先鋒を努める一匹の足元から、生成した物体が地面との反発力によって弾(・)き(・)出(・)さ(・)れ(・)る(・)。

 密度を調整された物体は、丁度打撃面を天空に捉えており。ぱちりと、瞬きを挟んだ後には。


「グ」


 まるで内側から弾けたように、先鋒の頭部が破裂した。

 粉々の頭蓋骨、雨のような脳漿を掻き分けながら、推進力を失いながらも上空へと突き進んでいく。

 凶器としての役目を果たしたのは、彼の真下を狙って地中に生成した〝槌〟。


 それが地面に落ち始めるよりも早く、発話し終えた私は――、


「生成」


 もう一度、発話した。

 先程と同じく、地中にて。


 けれども今回は、彼らの足元ではなく私の足元に――厳密には、足そのものに。回転トルクを生み出せるよう密度を調整された短剣が、仕込んだ靴底の鉄板と接続するように。

 思い通りに、地中にて回転力を産みながら弾き出されていく。

 弾き出され、吹き飛ばされ、その先端が私の靴底と接続し。


「――――」


 私自身を、前へと吹き飛ばした。


 その勢いを十分に活用しながら、自らの手の内に〝剣〟を生成し腕を振れば――。


                ▼△▼△▼△▼



 やり過ぎは、良くないんだなと思いました。


 だって見てよこの惨状。あんなにも綺麗だった森が、今やゴブリンの血でぐっちゃぐちゃ。まぁ多少皮膚が散らかっているから新緑というのは保たれてはいるけれども。


 何よりも、折角作った服が汚れてしまった。

 生成し直せばいいだけだから支障は無いんだけど。

 うん。少しあれだ。

《情動戎器》の反発力自体は活かせたけれど、活かしすぎたというか、《脚力強化・IV》を持ってしても制御出来なかったというか、制御しようとした所為でより反発力が顕著になった、というか。

 アイデアは自体は悪くないんだけど。


「ゴブリン相手にやる物ではない」


 そう結論付けてから、とりあえず五つの死体を『格納空間』にしまい込んで、彼女がいるであろう方向に歩き出す。


 まぁフィアの[ステータス]には私の持ってない《水魔法》とか《神聖魔法》とかあったから、【魔法】が一体どういう物なのか、確かめる良い機会ではある。無事かどうかはさておくとして。

 

 そう思いながら藪を掻き分けていくと、目立つ銀髪が視界に入った。

 

 歩み寄る前に周囲を観察すると、そこにあるのはまるで、頭を掻き毟ろうとした最中に事切れたような死体たち。

 疑問を抱きつつも服越しにちょんちょんと肩を突っつくと、彼女は少し大袈裟な程びくりと身体を震わせる。


「リーナさん、でしたか」

「うん」


 命を自分の手で奪ったとかそういう事に動揺しているとか、そういう訳ではないのなら良かった。じゃああれか、一息吐いてリラックスしてる時に私が来たから驚いたって感じか。

 いや、それはおかしい。

 だって私は精々《気配遮断》しか持っていない。だのに《魔力感知》《視線感知》《振動感知》だなんて気配以外の感知スキルを持っている彼女が気付けない筈が無い。だのにどうして驚くのか。


 ……まあ、本当に気が抜けていたのだろう。スキルのON・OFFについてはまだあまり分からないから、多分『そういう事もある』と結論付けるしかない。

 じゃあ、普通に気になる事を聞こうか。


「ねえねえ。どうやって殺したの?」


 銀で出来たネックレスの飾りに触れているのを見ながら、その場に座り込んで、『いつもならば私の方が少し高い』という身長差を真逆も真逆にして、殺害手段を好奇心のまま尋ねた。


 それが彼女のなんか悪い所に触れたのか、眉をぎゅっと歪めている。

 それでも美少女なんだから美少女ってすごいよね。美少女って感じがする。


「私、びっくりしたんですからね」

「そうなの?」

「ええ、そうです。何せゴブリンと鉢合わせて早々に『じゃあ半分(あと)はよろしく』とか言って、遠く行っちゃいましたし」


 だって、スキルの事も知らない私が石でぶん殴って倒せる程度の敵だし。それに、今のように対した苦も無く、私が与えた状況から脱せられたら、彼女は相応の対抗手段を持っているという事が分かるし。

 最悪死んでも、フィアの死体を食べればいいだけだし……。

 どっちに転んでもいい状況だったから、私は賽を投げただけ。

 運任せではあるけれど、そもそも『運任せ』にすると決めたのは他の誰でも無いの私の意思による決定なので、実質的には私の意志に準じた行動。

 なのでさっさと本題が聞きたい。


「聞かせてよ。どうやって殺したの?」

「……魔法で、えい、って」


 ……どうやって殺したの?


「『えい』の内訳を聞きたいんだけど」


 誤魔化されているのかとも思ったけれど、表情を見るにそうではないらしい。『えい』ってなんだ、『えい』って。


「感覚的にしか言えないですけど、それでもいいですか?」

「うん」

「じゃあ、説明しますけど……」


 切られた言葉を今か今かと待って、素直に彼女を見上げる。

 その際に、傷を隠す為に巻いたチョーカーが、多少首に食い込んだ。


「こう、ゴブリンの頭の中に向かって、念じたんです」

「うん」

「そしたら死んでました」


 なるほど全く分からない。

 じゃあ解剖しよう。


 ハイドを殺した際に、握りの部分が血で滑った事を思い出して一応付けている黒色の革手袋。それで地面を突いて立ち上がって、側頭部辺りの皮膚が無残な程に傷だらけになっているゴブリンの死体に近付く。

 右側のホルスターから短剣を抜いて、胡桃を割るように柄頭で頭部を叩いていく。砕けた感触がしたら次は指でぱきぱきと頭蓋骨を折っていって、目的である脳味噌を取り出す。


 感触に気味悪さを覚えながら脳を選り分けていって、ついに脳梁に手を掛けた辺りで――硬い感触がした。

 それを取り出してみれば、手に残るのは微かに白濁とした結晶。


 つまり――、


「魔石、ですね」

「そうだねえ」


 幾ら小さいとはいえ、頭の中にこんな正八面体なんて収めて健康的にどうなのだろうと思うけれど、思考停止してしまえば何も疑問を抱かなくて済む。

 まあ今この場で考えないだけ。後で考える。

 にしても、回収対象の見本として受付員に見せられた魔石とは違って、妙に透明度が高い気がする。いや、高いのは純度か?


 ぺっ、と『格納空間』の中で死体から選り分けたゴブリンの魔石を一つ吐き出し、比較してみる。


「……」


 私が殺した方は少し不透明なのに対し、彼女のは透けた光の色が変わるぐらいの透明度。フィアは魔法で頭の中に向かって念じたとは言ったが、《水魔法》でこうなるとは思えない。

 いや《水魔法》についての知識はあまり無いが。水関連でこうなるとはやはり思えない。

《神聖魔法》を用いたのであれば、魔石が浄化されたとかそういう事までは分かる。分かるが、爪に血肉が入る程に側頭部を掻きむしっていた理由、そして死亡した理由、そこまでは分からなかった。


 やはり前提知識が足りないので放置。

 ナビに聞いても前提知識の部分を答えてくれないのは、とっくに分かってる事だし。


「まあ、目的も達成したし……帰ろっか」


 私が殺して〝口〟に体内に収めている死体から、魔石以外の五つ全てを消化した。



                ▼△▼△▼△▼



『《初級手斧術・I》を取得しました』

『《敵意感知》を取得しました』

『《脱兎》を取得しました』


『《初級棍術・I》を取得しました』

『《集中》を取得しました』


『《凝視》を取得しました』


『《触覚強化・I》を取得しました』

『《嗅覚強化・I》を取得しました』


『《初級鉈術・I》を取得しました』

『《爪強化・I》を取得しました』

『《踏破術・序》を取得しました』

『《火属性適性》を取得しました』



                ▼△▼△▼△▼


「うーん」


 一度の消化で捕食対象から習得出来るスキルの数が五つであって、仮にその対象が五つ未満しかスキルを持っていない場合、やはり問答無用で選択の余地なく四つ以下のスキル達を習得させられるらしい。

 ついでに、私が既に持っているスキルはその『五つ』の中にはカウントされないっぽい……のかな?


 まあ、文句は無い。今回は内容も良かったし。

《火属性適性》とかね。明らかに当たりっぽそうだし。


 銀髪ちゃんが倒したもう五つの死体を食べたかったんだけど、人目があったというか、彼女が嬉々としてゴブリンを解体してそのまま抱き締めそうな勢いだったから、止めるのに気を割かれた。

 忍んでこっそりと一体は食べたのだけれど、何故だか消化もしたのに習得する事は無かったし、もしかしたら自分で倒さないと習得には至らないのかもしれない。

 それか――、


 他の条件が存在するか。


 まあ、別に今(・)は(・)どうでもいいけど。

 いずれ必ず、白日の下に晒すから。


 そう考えながら、ギルドの戸を開いた。




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