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第四話 シャルディンの高弟 /第三幕 剣と槍

 風が止んだ。


 城壁の上。


 タナトスの右手が、風輪双刀の柄へ掛かる。


 城下では、オーウェンがフェンリルの腹を軽く蹴った。


 一歩。


 ただ、それだけ前へ出る。


 当直十二騎も同時に進む。


 ヴォルフガングだけは、さらに半歩だけ前へ出た。


「退け」


 オーウェンが静かに言う。


「退きません」


「兄弟子と話す」


「刃を持つ者同士の会話です」


「だからだ」


 ヴォルフガングは答えない。


 ただ城壁だけを見つめる。


「公」


 ヴォルフガングが言う。


「兄弟子と槍を交えられるのであれば」


 一拍。


「……我ら当直十二騎は、さきに楯となり死す」

 

 静かな宣言だった。

 

 脅しではない。

 

 覚悟でもない。

 

 今日の日誌を読み上げるような声だった。


 タナトスは城壁から一歩前へ出た。


 風輪双刀へ手を掛ける。


 リーフェルの全身へ緊張が走る。


 アリアはまだ止めない。


 タナトスは城壁から飛び降りようとした。


「兄貴!」


 ミシェルが叫ぶ。


 しかし止まらない。


 その瞬間だった。


「やめてください」


 声は一つ。


 若い医師だった。


 セトが城壁へ駆け上がってくる。


「二人とも」


 息を切らしながら言う。


「これ以上患者を増やさないでください」


 思わずミシェルが吹き出す。


「そこかよ!」


「医者ですから!」


 張り詰めた空気が、ほんの少しだけ緩む。


 しかしタナトスは笑わない。


 オーウェンも笑わない。


 互いの目だけが離れない。


 その時だった。


 アリアが一歩前へ出た。


「サーハル公」


 城壁から声を落とす。


「兄弟子を確かめたいのでしたら、剣ではなく、席を設けませんか」


 オーウェンは黙る。


「私は、あなたの目的がライン殿下ではなく、その意思にあるように見えました」


 その一言で。


 オーウェンの瞳が、初めてわずかに揺れた。


「……続けてください」


「ならば互いに剣を抜く理由はありません」


「会談を」


「受けます」


 長い沈黙。


 やがてオーウェンは槍から手を離した。


「兄弟子」


「何だ」


「勝負は預ける」


「逃げたとは言わん」


「言われるほど軽くない」


「そうだな」


 タナトスも、風輪双刀から手を離す。


 両軍の誰もが、小さく息を吐いた。


 剣も槍も、抜かれなかった。


 だからこそ。


 この戦は、まだ終わっていないことを、誰もが理解していた。


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