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口裂け女が、恋しちゃダメですか?  作者: 閃光HANABI
プロローグ&第一章
6/15

5

「口裂け女、みたいだよね」

 あの日の言葉がよみがえる。

 どんな風に傷つくのかを観察するような目つきは、今でも私のなかに深く刻まれていた。

 からっぽの胃から込み上げる、酸っぱいもの。

 ダメ……! 抑えきれない。

 立ち上がろうとして――。

 片手をついたまま不愉快な音を立て、胃液をぶちまける。

 脈動するように波打つ胃袋とひりつく喉。あらがいようのない拒絶反応は時を選ばずにぶり返す。

 たちの悪い風邪のように。

 口の中に残る苦味を飲み下して、平静を装う。

 思うことは山ほどあるが、言っておかなければ成らないことはひとつだけだった。

「傷痕、誰にも言わない……で」

 見上げた先に差し出されたハンカチ。

「言わない」

 強張った表情。

 優しさとは裏腹にその顔には怯えの色が濃く出ている。

 何度も見てきた。

 道ですれ違った親子連れ。

 驚き、怯える小さな子。

 私は笑いかけることも出来ずに……。

「驚かせて、ごめん」

 揺らぐ瞳。怯えとも違う何かが見えた。

「絶対に言わないから、頼みがある」

 ひどく、(くら)い目。

 鏡の中の私のような。

「明日から、俺もここで昼をとっていいかな?」

 肯定も否定も出来ぬままに口をつぐんでいると、彼は気まずそうに視線を落とした。

「邪魔はしないから」

 ハンカチを残し、去っていく。

 私は、言葉の意味を理解出来ないでいた。

 彼の真意が読めない。

 弱みを握られている以上、拒否も出来ない。

 彼に対して不気味さが増す一方で、どうしても引っ掛かることがある。

 私はよく知っている。

 あの(くら)い目は。

 自分を、愛していない人の目だ。

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