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「口裂け女、みたいだよね」
あの日の言葉がよみがえる。
どんな風に傷つくのかを観察するような目つきは、今でも私のなかに深く刻まれていた。
からっぽの胃から込み上げる、酸っぱいもの。
ダメ……! 抑えきれない。
立ち上がろうとして――。
片手をついたまま不愉快な音を立て、胃液をぶちまける。
脈動するように波打つ胃袋とひりつく喉。あらがいようのない拒絶反応は時を選ばずにぶり返す。
たちの悪い風邪のように。
口の中に残る苦味を飲み下して、平静を装う。
思うことは山ほどあるが、言っておかなければ成らないことはひとつだけだった。
「傷痕、誰にも言わない……で」
見上げた先に差し出されたハンカチ。
「言わない」
強張った表情。
優しさとは裏腹にその顔には怯えの色が濃く出ている。
何度も見てきた。
道ですれ違った親子連れ。
驚き、怯える小さな子。
私は笑いかけることも出来ずに……。
「驚かせて、ごめん」
揺らぐ瞳。怯えとも違う何かが見えた。
「絶対に言わないから、頼みがある」
ひどく、昏い目。
鏡の中の私のような。
「明日から、俺もここで昼をとっていいかな?」
肯定も否定も出来ぬままに口をつぐんでいると、彼は気まずそうに視線を落とした。
「邪魔はしないから」
ハンカチを残し、去っていく。
私は、言葉の意味を理解出来ないでいた。
彼の真意が読めない。
弱みを握られている以上、拒否も出来ない。
彼に対して不気味さが増す一方で、どうしても引っ掛かることがある。
私はよく知っている。
あの昏い目は。
自分を、愛していない人の目だ。




