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七月も終わりに入って、気温はうなぎのぼりに高まってゆく。
見おろした雛坂は深い緑をつらぬく一本道。
止めどなく流れる汗を拭いつつ、くる日くる日も憂鬱に上り安堵しながら下る――。そんな日々だった。
腑抜けたまま迎えた終業式。
簡単な全校清掃を済ませ、早めの下校となった一学期の最終日。
夕方と呼ぶには太陽はまだ高い位置にあって、大気すらも溶かさんばかりにその熱を発散させている。
正門を抜けた時に、私を呼び止める声があった。小さいながらも聞き馴染んだ声。振り返らなくても分かる、というよりも私を呼び止める者など一人しか浮かばない。
彼は鞄を漁り、シワだらけになった紙包みを取り出す。白地に金の英文字でハッピーバースデーと並んだ包装紙。斜め掛けにストライプ模様のリボンが添えられていた。
「ずいぶん、遅くなったけど……」
焦ったようにシワを伸ばしながら。
「あれから、約束果たせてなかったから……。代わりにプレゼントを買ったんだ」
普通の女の子は、こんな時どうするんだろう。ニッコリ、笑いながら受け取るのだろうか。いや……、その前に本当に私が受け取っても?
よく分からないことで悩んでいるうちに、彼はプレゼントを私に押し付けて。
「じゃあ、バイトがあるから……。誕生日おめでとう!」
背を向けて、遠ざかる彼。
「あっ……」
マスクの下で短く発した声はか細く、彼を呼び止めるには至らない。
どうして私はこう要領が悪いのだろう。
もとより、人付き合いは苦手だった。会話をするときは、どうしたって身構えてしまう。
脳天を焦がすように燃える太陽の下。受け取った紙包みを胸に抱いて。彼の姿がとうに見えなくなってから「ありがとう」と、ようやくお礼の言葉を口に出来た。
帰宅後。窓を開け放つと、ほつれの目立つレースのカーテンが風を孕み、夏を部屋の中まで運んでくる。
手元には、誕生日プレゼント。
すでにくしゃくしゃだけど、注意を払いながら包装を解くと、入っていたのは規則正しく折り目のついた白いワンピース。
飾り気のないシンプルなもので、サイズも大丈夫そう。
ハンガーを取り出し、おさがりの横に掛けてみる。
お気に入りがひとつ増えた喜びを感じながら脳裏に浮かぶのは、彼とともに雛坂を駆け抜けたあの一日。
猛スピードで坂を下った、あの瞬間。
ともすれば、命に関わる大事故に繋がっていたかも知れない。命を軽んじている訳じゃない。まして、両親を事故で失った私にとって。
それでも鼻先をかすめていったあの風は両親にもっとも近く、爆ぜるように高鳴った心臓はもっとも遠ざかった瞬間だった。
束の間――、立ちこめていた霧が晴れた気がした。
胸のすくような。
はしたない真似だったと思うけれども、生まれ変わったみたいで。適わぬことと知りながら、あの時の私が言いたがる。
あんな毎日が続けばいいのに。
シワだらけの包装紙とストライプ柄のリボンを並べて。
忘れ得ぬ思い出とともに丁寧に仕舞い込み、沸き上がる感情に戸惑いながら引き出しを閉じた。




