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平穏な日々はあっという間に過ぎ去って、迎えたのは二学期。クラスメイトの焼けた肌と溌剌とした笑顔は、青春のど真ん中を生きているようで。
私だけが取り残されたような……。そんな寂しさを抱きながら、狭い教室で身の置き場もなく息を潜める。
いつもの非情階段で、プレゼントのお礼を伝え、彼の誕生日を確認した。十二月の十二日。実に覚えやすくて忘れることはないだろう。
「やってみたいんだ。誰かの誕生日を祝うってこと」
いつかの彼の言葉がずっと耳に残っている。
これ以上なく身に詰まされて。彼の期待に沿うような笑顔も、お礼の言葉も返せなかったと思う。報いることが出来なかった。せめて、精一杯の気持ちを込めて彼の誕生日を祝おう――。そう心に決めた。
九月の始め。
坂の麓の住宅街へ抜ける手前に一級河川の支流がある。支流とはいえ川幅は広く、立派な橋が雛坂と住宅地とを結んでいた。
実質、住宅地からは雛坂台高校へ向かうのみで人も車も交通量は少ない。
その橋のちょうど真ん中あたり。自転車を傍らに停めて、河を眺めている雛坂台高校の女子生徒の姿があった。
チラリとこちらを見たような気がしたが、直ぐに視線を河に戻す。その仕草が芝居がかっているようで、妙な胸騒ぎを覚える。
それは――、すれ違う瞬間だった。
「マスクしてるんだ」
振り返りもせずに、河の向こうを見つめたまま。驚いて立ち止まったまま背中を凝視する。
ぞわぞわとした嫌なものが、体を駆け抜けた。
「……隠せやしないのに」
吐き捨てるように女子生徒はそのまま自転車に乗って去って行く。
喉元に鋭利な刃物を突きつけられたような気がして、呼び止めることも出来ずに呆然と立ち尽くしていた。
嫌な汗が吹き出し、投げかけられた言葉が突き刺さる。
明確な意思をもって、私をあの場所で待ち伏せしていた。マスクに触れたことも傷痕を知っているような口振りだった。
顔は見れなかったけれど、声は聞き覚えがあるような気がする。耳元あたりで切り揃えられたショートカット。少なくともクラスメイトではない。
脳裏に浮かんだのは、赤い口紅……。
断定はできないけど、悪意が人の姿となって、形を現した気がした。
いつだって、私の足もとは薄氷。
怯えながら暮らす毎日は、それだけで心をすり減らして。
人も車もない橋の上で、不意にぶつけられた言葉を受け止めきれず。
はらはらと、溢れ出るものがあった。




