15
平穏な日々はあっという間に過ぎ去って。
迎えたのは二学期。
クラスメイトの焼けた肌と溌剌とした笑顔は、青春のど真ん中を生きているようで。
私だけが取り残されたような……。そんな寂しさを抱きながら、身の置き場のない狭い教室で、人形のように時が過ぎるのを待つ。
まだどこか、休み明けの気だるさを引きずっていた教室も、一週間も経てば普段通りに戻り、ひと月も経った頃には留まる残暑にみな、辟易しているようだった。
私はといえば、いつもの非常階段で彼と顔を合わせ、教室では息を潜める日々。
十二月十二日。
プレゼントのお礼を伝え、彼の誕生日を確認した。実に覚えやすくて忘れることはないだろう。
「やってみたいんだ。誰かの誕生日を祝うってこと」
いつかの彼の言葉がずっと耳に残っている。祝ってもらうのではなくて、祝いたい……。孤独を知る者にとって、これ以上なく身に詰まされて。
彼の期待に沿うような笑顔も、お礼の言葉も返せなかったと思う。せめて、精一杯の気持ちを込めて彼の誕生を祝おう――。
そう心に決めた。
ようやく残暑も落ち着き、朝晩は過ごしやすくなった十月のこと。
坂の麓。住宅街へ抜ける手前に一級河川の支流がある。支流とはいえ川幅は広く、立派な橋が雛坂と住宅地とを結んでいた。
実質、住宅地からは雛坂台高校へ向かうのみで人も車も交通量は少ない。
その橋のちょうど真ん中あたり。自転車を傍らに停めて、河を眺めている雛高の女子生徒の姿があった。
チラリとこちらを見たような気がしたが、直ぐに視線を河に戻す。その仕草が芝居がかっているようで、妙な胸騒ぎを覚える。
それは――、すれ違う瞬間だった。
「マスクしてるんだ」
振り返りもせずに、河の向こうを見つめたまま。驚いて立ち止まったまま背中を凝視する。
無言の背中。
ぞわぞわとした嫌なものが、背中から首筋へと駆け抜けた。
「……隠せやしないのに」
吐き捨てるように女子生徒はそのまま自転車に乗って去って行く。
喉元に鋭利な刃物を突きつけられたような気がして、呼び止めることも出来ずに呆然と立ち尽くしていた。
嫌な汗が吹き出し、投げかけられた言葉が突き刺さる。
明確な意思をもって、私をあの場所で待ち伏せしていた。マスクに触れたことも傷痕を知っているような口振りだった。
顔は見れなかったけれど、声は聞き覚えがあるような気がする。耳元あたりで切り揃えられたショートカット。少なくともクラスメイトではない。
次に脳裏に浮かんだのは、赤い口紅……。
断定はできないけど、悪意が人の姿となって、形を現した気がした。
いつだって、私の足もとは薄氷。
怯えながら暮らす毎日は、それだけで心をすり減らして。
人も車もない橋の上で。
不意にぶつけられた言葉を受け止めきれずに。
はらはらと、溢れ出るものがあった。




