表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
口裂け女が、恋しちゃダメですか?  作者: 閃光HANABI
プロローグ&第一章
12/15

11

「……言うなよ、誰にも」

 翌日、非常階段で彼の第一声。

 やはり、意地悪が過ぎたようだ。

「言わないから、安心して」

 言える訳がない。

 そもそも、秘密を漏らす友人など居ない。

「そうだ、お花。ありがとう」

「口止め料だから」

 菊の花二本が口止め料。だとしたら、随分と安く見積もられたものだと思う。

 軽くはない。彼も私も。抱えた秘密は、決して軽くはないはずだ。

 校則を破ったペナルティーも、私の恐怖も。高校生活を揺るがすもの。


「聞いてもいい?」

 彼が、それほどまでしてアルバイトをする理由。なにか、どうしても欲しいものがあるのか。

「アルバイト、禁止されてるの知ってるでしょう?」

 軽い興味だった。取り立てて、物欲も趣味もない私からすれば、リスクを負ってまで手に入れたいものなんて無い。

「なにか、欲しいものでも?」

「いや……、貯金」

 明快な回答。予想はしていたけど。

「早く家を出たいんだ」

 高校生の男子なんて、そんなものだろう。

 ただ、その声があまりにも切実な響きをともなっていて。

「高校卒業したら、直ぐに」

 どうして? とは言えなかった。立ち入るべきではない。まして、軽い興味からなんて。


「俺さ――」

 しかし、彼は止めなかった。

 どんな心境なのかは、分からない。

 分かるのは、誰にでもあるものだということ。解決なんてしない。アドバイスを求めても居ない。抱えきれないものを、誰かに聞いてもらいたい時が人にはある。

 私には、痛いほど分かる。彼にとってそれが今ならば私がその役目を担ってもいい。

 たかを括っていた。

 不幸自慢ではないけれど、彼の抱えているものがどれ程のものかと。

「両親にとって、いらない子みたいでさ」

 ぼそりと、胸の裡にわだかまった毒を吐き出すように。

「俺の親、離婚の話し合いしててさ。毎回エスカレートしてケンカになるんだよ」

 彼は少し笑う。

 見てられない、痛々しい笑いだった。

「俺をどちらが引き取るのかで、揉めて」


 ――愛されてるんだ、母親に。

 あの時の彼の言葉。

「目の前で、押し付けあって……。ああ、二人にとって、俺は邪魔なんだって」

 泣くことも、怒ることもなく。淡々と。

「羨ましいよ、渡良瀬さんが。毎日あんな立派な弁当作ってくれる母親で」

 両親の居ない私と、居るけども愛してくれない彼。どちらが不幸なのか。

 あの昏い目の正体は自分を愛していないのではなくて。もっと、根深い。彼は自分の存在を憎んでいるのかもしれない。


「私に、両親は居ない」

 先日、言いかけて躊躇った事実。自然と口にしていた。

「幼い頃にね。交通事故で二人とも……。今は、児童施設にお世話になってる」

「じゃあ、昨日の菊はもしかして」

「命日だったから」

 イヤだ。イヤだ。傷のなめ合いなんて。

 お互いに同情しあって、可哀想に振る舞って。そんなことで、何も変わりはしないのに。

「ちなみに、誕生日だったの。何かプレゼント頂戴。貯めこんでるんでしょ?」

 空気を変えたかっただけだ。本気じゃなかった。

「いいよ、高価なものじゃなければ」

「冗談よ。欲しいものなんて無い」

 少なくとも、お金で買えるものは。

「じゃあ、ご馳走でもするよ」

「本当に、冗談だから。将来のための大事なお金でしょう?」

 ちょっとした冗談のつもりが、思わぬ方向に話が進んで行く。

「少しくらいなら平気。嫌なら無理にとは言わない」

「嫌では――」無いけど。

「じゃあ、今度の日曜日の昼に」

「……うん」

 約束を。してしまった。

 気持ちは嬉しいけれど正直、面倒なことになってしまったと思う。

 ばたばたと彼は立ち上がり、慌てたように去って行く。

 閉じられた鉄扉。

 私の中で何かが変わろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ