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スーパーの中へ入ると、店内はごった返していた。
和菓子売り場へ向かい、最中と栗羊羹を二つずつ購入し、続いてテナントの生花店へと足を向ける。
閉店近い、午後六時を過ぎたバケツには萎びかけた一本の菊しか残っていなかった。仕方なく、元気のない一本の菊を手に取って――。
「いらっしゃいませ」
……本当に、彼には驚かされる。
白いワイシャツに、黒いエプロン姿。汗びっしょりの居角君が居た。
ばつが悪そうに、固まる彼。
その姿をみて、私はマスクの下で意地悪く微笑む。
なぜなら雛坂台高校は、アルバイト禁止なのだから。
「あの、急いでいるんですが?」
固まって動かない彼に、言ってやった。
ぎろりと、睨まれる。
怖い、怖い。
彼は菊を受けとると、店の奥へと消えて行く。やがて、店名のロゴが入った紙で包装された花を手にし戻って来た。
「二百八円になります」
お金を手渡す。
「……誰にも、言うなよ」
低い声。
「私はあなたと違いますから」
ここぞとばかりに嫌味たっぷりで。
もごもごと口を動かすも、なにも言えない彼に背を向ける。
「冗談よ。お仕事、頑張って」
顔を真っ赤にして憤る彼の顔を想像しながら、私はその場を後にした。
少し意地悪だったかも……。
けれど、一方的に弱みを握られているのは居心地が悪かった。
――これで、対等。
そう思えば、気分は悪くはない。
外に出ると雨足は激しさを増していた。
一粒、一粒重くなった雨を傘で感じながら、足を急がせる。
約束の時間は七時。無理を言って待ってもらっているのだから、遅れる訳には行かない。
大通り沿いから、脇道に入ると昔ながらの石垣が並ぶ細い道。
人ひとりが通れる小さな階段を抜けると、武家屋敷のような白壁が目の前に表れる。
山門を潜り屋敷の中へ。
玄関先で、傘の雨水を軽く払う。
インターホンを押すと、暫くして中から落ち着いた足音が近づいて来た。
ガラガラと音を立てて、開かれたガラスの引き戸。
「いらっしゃい」
柔和な顔つきの、おじいさんが迎えてくれる。
「さあさあ、入って」
あらかじめ用意してくれたのか、バスタオルを手渡してくれた。
「大きくなったねえ。高校生だっけ?」
「はい。今年から」
私には分からないが、久しぶりに会った親戚はこんな感じなのだろうか。
久しぶりといっても、一年ぶりだけど。
広間に通されると両親の位牌と、遺影。そして骨壺。
身寄りの無かった両親に入るお墓はなく、お寺に預けられている。
年に一度。こうして命日には訪ねるようにしていた。
昨年までは、施設の方に車で送ってもらっていたが、さして遠くもないので高校生になってからは、一人で来ることを決めた。
原則、施設に入れるのは高校生まで。
できるだけ、なんでも一人で出来るように。誰にも頼らず自分の力で生きていけるようになりたかった。
お供えものと、花を手渡してお経をあげてもらう。座布団はあるけど慣れてない正座で、私の足は悲鳴をあげていた。
独特の匂いのするお焼香をして法要を済ませる。
遺影の中の二人は若く、記憶にある両親とは別人のようだ。
うっすらとしたものなので、私の記憶の方が間違っているかもしれない。
ふと、菊の花に目が止まる。
生き生きとした黄色の菊が、二本……。
両親の冥福を祈ると同時に、クラスメイトの心遣いに感謝し、手を合わせた。




