第9話:意外な味方
第9話:意外な味方
スーパーから息を切らして戻ってきた僕は、刺身の盛り合わせと薬味のネギをテーブルに並べました。
「おっ、帰ってきたな! 刺身背負って帰る姿、なかなか似合ってるぞ、タカシ!」
リサがビールの缶を片手に、上機嫌で声を上げます。彼女たちはすっかり出来上がっているようで、部屋の空気はさらに賑やかさを増していました。
(※注:お酒は二十歳を過ぎてから。タカシは炭酸水で付き合っています)
僕はサラッとお刺身を皿に盛り、食卓をさらに豪華に彩ります。
「しかしさ、さっきのバイク。すっげーの乗ってるよね」
リサの言葉に、僕は心臓が跳ね上がるのを感じました。
「あ、あれは……その、地元の友達に無理やり借りてきたっていうか! 僕の趣味じゃないんだよ、本当は!」
(ごめん、ゼファー! 僕の命! あとでガソリンを満タンにしてやるから許してくれ……!)
「へぇ、免許持ってるんだ」
「あ、まあ一応ね。田舎だと足がないと困るからさ」
「地元じゃ彼女の一人くらいいなかったわけ? ほら、あんなイカついバイク乗ってさ」
リサがニヤニヤしながら詰め寄ってきます。
「いないって! 最初の自己紹介でも言ったけど、彼女いない歴=年齢のガチなやつだから!」
「あははは! あのダダ滑りしてた自己紹介、ガチだったのかよ!」
女子たちが大爆笑する中、僕は恥ずかしさで顔が熱くなりました。
しかし、ふと見ると。いつもなら一番鋭い毒を吐くはずのサオリさんが、今日はリサの勢いに呑まれているのか、複雑な表情でグラスを見つめていました。
「……なんとかなりそう?」
サオリがポツリと呟きました。
「え? あ、看護師の演習のことですか?」
「違うわよ、エミのことよ!」
リサが再び割って入ります。
「あのバイクに乗っけてやればいいじゃん! ま、あたしは無理だけどねー。あの族車みたいなのは、ちょっと引くわー」
女子たちがケラケラと笑う中、不意にサオリが声を上げました。
「えっ……そうかなぁ? 意外と……いいんじゃない? あのバイク」
「「え!?」」
僕もリサも、驚いてサオリを見ました。
「サオリちゃん、どうしたの!? いつもの毒舌はどうしたんだよ!」
「……別に。ただ、コイツのキャラには合ってるんじゃないかって言っただけよ」
確かに今日のサオリさんは、どこか具合でも悪いのかと思うほど雰囲気が違います。
お酒の勢いも手伝ってか、僕は少しだけ鼻を啜り、本音を漏らしてしまいました。
「……サオリさんはさ、僕の初恋を二秒でぶっ壊した張本人なんだから。初日にいきなりエミさん『彼氏持ち』宣告なんて、ひどすぎるよ」
「あはは! 初日に恋して即座に散ったアレか! ウケる!」
笑い転げる女子たち。一方で、サオリと僕は同時に「どよーん」とした空気を纏ってしまいました。
「なんだよ、あんたたち! 情緒不安定かよ?」
リサが僕らの肩を叩きます。
「そんなときは、パパパパン! カタルシス! 心理学で習ったでしょ? 溜まったものを吐き出して、精神状態をコントロールするの! 敢えてテンション下がる曲でも聞いて、自浄作用働かせなよ!」
「そーだそーだ! テンション下げさせてやろうか、この二人を!」
「よし、タカシの部屋の家宅捜査開始! エロ本でも見つけたら全力で弄ってやるから!」
「ちょ、やめろ! 出てこないって!」
「じゃあ、代わりにあたしたちが脱いでやろかー! なんでやねーん!」
悪ノリが加速する女子たちの喧騒を横目に、僕はチラリとサオリを盗み見ました。
彼女が浮かべていたのは、いつもの刺々しさとは違う、どこか物憂げで……それでいて、ほんの少しだけ僕を意識しているような、不思議な眼差しでした。




