第10話:疑惑の言葉と、リサの予言
第10話:疑惑の言葉と、リサの予言
怒濤の宅飲みから一夜明け、再び月曜日がやってきました。
僕の頭の中では、あの夜にサオリさんがこぼした「なんとかなりそう?」という言葉が、まるでお湯に溶けない粉末スープのようにダマになって残っていました。
(どういう意味なんだ? 彼氏から略奪できるってことか? それとも、そろそろ諦めがつきそうかってことか……?)
モヤモヤを抱えたまま席に着くと、背後からあのお馴染みの輝かしい声が響きました。
「おはよう、タカシくん!」
「ほあああ……エミさん、おはようございます!」
ああ、僕の太陽! 僕のエンジェル! 会えなかったこの週末、僕がどれほど君の笑顔を脳内再生しては溜息をついていたか、君は知る由もないでしょう。
「どうだった? 飲み会。私も行きたかったな〜、バイトさえなければね」
「えっ、あ、そうなの!?」
……行きたかった? バイトがなければ、彼氏とデートじゃなかったのか?
聞きたい。
でも聞けない。もし「デートの予定をキャンセルしてでも行きたかった」なんて無邪気で残酷な答えが返ってきたら、僕の心臓は耐えられません。
「サオリも行ったんだよね。楽しんでた?」
「え? うーん……まあ、普段は見られないサオリさんが見られた、かな」
僕がそう答えた瞬間、横からナイフのような視線が突き刺さりました。
「……何。余計なこと言ってんじゃないわよ」
そこには、いつもの「毒舌モード」に完全復帰したサオリさんが立っていました。
「エミ、ダメよ。こいつは絶対に女子を泣かせてきたタイプよ! 私にはわかるわ。あんなイカついバイクを隠し持ってて、純朴そうなフリをしてるけど中身はヤンキーなんだから!」
「えぇ〜? タカシくんはそんなんじゃないよぉ」
エミさんがクスクス笑いながら僕を庇ってくれます。
「エロ本だって隠し持ってたに違いないわ!」
「それは無い! 断じて無い!」
「あはは、サオリは極端なんだから〜。でも、また飲み会あるなら誘ってね、タカシくん!」
「やめといたほうがいいって! 」
「もう〜サオリは……あ、ちょっとトイレ行ってくる」
エミさんが席を離れ、僕とサオリさんの間に気まずい沈黙が流れました。
僕は意を決して、あの夜の疑問をぶつけました。
「なあ、サオリさん。あの時言った『なんとかなりそう?』って、どういう意味だよ。エミさんのこと、諦めろってことか?」
「んっ!? ……な、何よ! 『諦められそう?』って聞いてあげたのよ! ふんっ!」
サオリさんは顔を真っ赤にして、そっぽを向いてしまいました。その反応が余計に僕を混乱させます。
「よー、タカシ!」
そこへ、飲み会で一番暴れていたリサがやってきました。
「ありがとな! また頼むわ。……あ、そうそう」
リサがスッと僕の耳元に口を寄せ、とんでもないことを囁きました。
「サオリちゃんさ……多分、あんたのこと好きだと思うぞ」
「え? ……いやいや、ないない! 絶対にない!」
「そーかー? ま、うちらの勘なんだけどさ。だいたい外れるから気にすんな! じゃ、また後でな!」
嵐のように去っていくリサを見送りながら、僕は呆然と立ち尽くしました。
(……いや、それはない。いくら恋愛経験のない僕でもわかる。あいつは僕を『悪』だと思い込んで、エミさんから遠ざけようとしているだけだ。……多分)
自分の心臓の音が、いつもより少しだけ騒がしくなっていることに、僕はまだ気づかないふりをしていました。




