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『ナイチンゲールは、元ヤンの僕を救わない。』  作者: A古町


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第3話:きっかけ作りは、事故の予感

第3話:きっかけ作りは、事故の予感


「……よし、席替えをするわよ」


 鬼軍曹こと担任の女教師が、死刑宣告のように冷たく言い放ちました。


 教室内が「おぉー!」と「えぇー……」の混ざった喧騒に包まれる中、僕は一人、戦慄していました。


(待て、待て待て待て! せっかくエミさんの後ろという神ポジションを確保し、初恋の墓場から這い上がろうとしているこの僕に、席替えだと……!?)


 ようやく失恋のショックを乗り越え、「元ヤンの強気」と「純朴キャラの仮面」を使い分けて振り向かせようと躍起になっている今の僕にとって、エミさんと離れることは死を意味します。


「……野郎ども、集まれ」


 僕は低い声で、クラスの男子モブたちを教室の隅に招集しました。


「な、なんだい? タカシくん……?」


 メガネを光らせたモブAが、僕の眼光に怯えて一歩引きました。本能でしょうか。

 僕の「純朴キャラ」の隙間から漏れ出る、隠しきれない修羅のオーラを察知したようです。


「いいか、席替えのクジを操作する。お前らも好きな女子が隣に来るように細工しろ」


「えっ? そんなこと、どうやって……」


「考えんだよ、てめーらでよぉおおお!!」


 思わず元ヤンの地声が出そうになり、慌てて咳払いをしました。


「……ゲフン、ゲフン! 力を合わせれば、きっと望む席になれるはず、だろ?」


「は、はいぃ!!」


 司令は下されました。僕の要望は「窓側の1番後ろ」。そして、その前が「エミさん」。


 男子たちの涙ぐましい連携(という名の気合い)により、奇跡は起きました。


 クジを開封した結果――窓側1番後ろ、タカシ。その前、エミ。


(よっしゃあああ!! 神は僕を見捨てていなかった!!)


 ガッツポーズを決めかけた僕でしたが、その直後、冷や水がぶっかけられました。


 エミさんの隣に座ったのは、例の「告げ口美少女」ことサオリだったのです。

 彼女は、僕の視線をレーザー照射のような鋭さで撥ね返しました。


「エミ、あいつはやめときなさい。あれは絶対に『危険生物』よ」


 サオリがエミさんの耳元で、僕にも丸聞こえの音量で囁いています。


「えー、そうかなあ? タカシくん、優しそうだけど……」


「それがあなたの悪い癖。ああいうタイプは、優しそうな顔をしてホイホイついていったら最後、取り返しのつかないことになるんだから」


(全部聞こえておりますが……!? あと、取り返しがつかないって、僕はどこの犯罪者予備軍だ!)


 サオリのガードは鉄壁です。しかし、席が前後になった以上、こちらのターン。


 僕は、恋愛における古典的かつ最強の秘技を使うことにしました。


 名付けて、「秘技・消しゴム貸して」作戦。


 心臓をバクバクさせながら、僕は指先を伸ばしました。


 まずは合図。軽く肩を叩いて、彼女をこちらに向かせる……。


 トントン。


 その瞬間、僕は自分の「経験不足」を呪うことになりました。


 僕は女子に触れたことなどありません。ましてや、都会の女子の「下着の構造」なんて知る由もなかったのです。


 僕が指先で叩いた場所。そこには、薄いブラウス越しに、確かな弾力を持つ「ブラジャーの紐」が鎮座していました。


「……アッ」


 エミさんの口から、この世のものとは思えないほど艶っぽい、小さく短い声が漏れました。


(なっ……!!)


 その声の破壊力に、こちらの心臓が止まるかと思いました。恥ずかしさのあまり、僕の方が教室の床に沈み込んでしまいそうです。


「キッ!!」


 当然、隣のサオリが鬼の形相で僕を睨みつけました。


「あんた……今、何したの?」


 震える指先。真っ赤になるエミさんのうなじ。そして、サオリの殺人予告のような視線。

 僕の「きっかけ作り」は、文字通り「大事故」からのスタートとなってしまったのです。

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