第24話:夏の風、空洞の心
第24話:夏の風、空洞の心
まさかのエミさんからの告白。しかし、喜びよりも先に、重い石を飲んだような苦しみが胃の奥に広がりました。
エミさんを欺いて本性を隠している自分。彼女には彼氏がいるという現実。そして、その影には僕を「受け入れる」と言った親友・サオリがいる。
複雑に絡み合った糸を解く術を、恋愛経験のない僕たちは持っていませんでした。
「あ、あの……彼氏さんは、大丈夫なの? その……」
僕が絞り出すように聞くと、エミさんは俯きました。
「う、ん……彼氏。今は、その……倦怠期。でもそれは、タカシくんが現れたから。私の気持ちが、彼に向かなくなっちゃったから。……酷いよね。別れることもせず、彼氏がいるのに他の人を好きになるなんて」
回答に正解なんてありません。初恋とは、こんなにも息ができないほど苦しいものだったのでしょうか。
食べ終えた僕たちは、逃げるように店を出ました。何を告げればいいのか分からないまま、再び無言でバイクに跨ります。
ゼファーは夜の冷気を切り裂き、僕のマンションの前まで差し掛かりました。
「あ……ここ、僕の家。良かったら、少し……」
下心なんてありませんでした。1人の友達を家に招く、そんな感覚でした。
しかし、エミさんはハッとした表情を浮かべると、震える声で言いました。
「ごめんなさい……帰る」
(また、タカシは悲しい顔をさせてしまった。恐らく、僕がこれ以上エミさんの前に立つと、ずっと彼女を悲しませてしまう。それに、格好をつけるつもりはないが、会った事もない彼氏の事を思うと胸が張り裂ける。卑怯だ、僕は。タイマンで堂々とやればいいのに、隠れてコソコソ彼女を家に招き入れようと。逆に自分がやられたらどうだ!?悲しむじゃないか、それにこんな太陽みたいなエミさんを裏切り者扱いさせてしまうなんて.....)
(ごめん、エミさん。僕は……ここまでだ)
精一杯の笑顔を作って駅まで送ると、エミさんは一度も後ろを振り返らず、階段を駆け降りていきました。
夏は、すぐそこまでやってきていました。それなのに、僕の心には冷たい風が吹き抜けていくようでした。
ぽっかりと空いた心の空洞。耐え難い孤独に震える指で、僕はLIMEを開きました。
『サオリさん、良かったら僕と付き合って』
サオリさんからのレスポンスは、残酷なほどに早かった。
『今からあなたの家に行く!』
エミさんを諦め、自分の心を捨てた瞬間でした。
何もかもが、もうどうでもよくなってしまった。真っ暗な部屋で一人、僕はサオリさんの足音を待っていました。




