第23話:夜風の告白、重すぎる沈黙
第23話:夜風の告白、重すぎる沈黙
神戸の夜道。後ろにエミさんを乗せている以上、小さなミスも許されません。
タカシは自然と、走り慣れた学校への道を選び、西へとゼファーを走らせました。
エミさんの細い腕が、ぎゅっと僕の腰に回されます。背中に伝わる確かな弾力と、彼女の心臓の鼓動。
(くっ! 伝わる……これこそが究極の非言語コミュニケーション! 言葉なんてなくても、エミさんの不安も期待も、全部背中から流れ込んでくる気がする……!)
気づけば、いつもの学校の最寄り駅付近まで来ていました。
「タカシくん、あそこの店に入らない!?」
エミさんの背中越しのアドバイスに従い、僕たちはロードサイドのファミレスに滑り込みました。
入店した瞬間、待合席の客たちが一斉にこちらを振り返ります。「え、モデル?」「芸能人じゃない?」という囁き声。
ライダースジャケットを羽織った僕と、パンツスタイルで髪を少し乱したエミさんは、自分たちでも驚くほど「絵」になっていたのかもしれません。
案内されたのは、夜景が少しだけ見える奥の窓際。
エミさんはパスタを、僕はステーキを注文しました。料理が運ばれてくるまでの、独特な沈黙。僕は意を決して切り出しました。
「……バイク、どうだった?」
「うん。色々思い出しちゃうかなって怖かったけど……思ったより、大丈夫だった。タカシくんが運転してくれてたからかな。すごく、安心して乗れたよ」
エミさんが見せてくれたのは、曇りのない満面の笑み。その「安心」という言葉に、僕は救われるような思いでした。
「良かった。……あの!」
「あ、えっと……!」
不意に声が重なり、お互いに「どうぞ」「あ、先に……」と譲り合う。そんな初々しいやり取りのあと、エミさんが少しだけ真剣な目をして言いました。
「……サオリとは、付き合うの?」
心臓が跳ね上がりました。
「……本当に、何もないんだ。昨日は、相談に乗ってもらってただけで……」
「そっか……」
エミさんは、安堵したような、でもどこか寂しそうな顔をしました。
「サオリからLIMEが来たの。タカシくんとキスしたって。すごく、すごく好きなんだって……」
「…………」
ドキン、と嫌な動悸がしました。サオリさんの情熱は、既に「宣戦布告」としてエミさんに届いていたのです。
「私は、どうしたらいいんだろう……」
消え入りそうなエミさんの声に、僕はもう仮面を被り続けることはできませんでした。
「……僕は、エミさんが好きです。彼氏がいることも分かってるし、無理に別れろなんて言うつもりもない。でも、僕は君を、一方的にでも好きでい続けたいんだ」
「わ……私も。私もね、タカシくんが好き。でも、こんな気持ち初めてで……どうしていいか、分からないの」
そこへ、湯気を立てるパスタとステーキが運ばれてきました。
お互いに「好き」だと伝えてしまったのに、その先にある「彼氏」という現実と、「親友サオリ」という存在。
僕たちは運ばれてきた料理を前に、ただ不器用にフォークを動かすことしかできませんでした。




