第22話:約束のタンデム、動き出す心
第22話:約束のタンデム、動き出す心
学校までの坂道を、僕たちは無言で登っていました。
エミさんの相談をするはずだった夜、どうして僕はサオリさんとキスなんてしてしまったんだろう。後悔と困惑が、足取りを重くさせます。
教室に入っても、空気は変わりません。僕の前の席に座るエミさん。いつもなら何気ないお喋りで始まる朝なのに、今は見えない溝がどんどん深まっていくのが分かります。
(太陽には、笑っていてほしい。……僕では、その光を曇らせてしまうだけなのか?)
そんな「異変」を敏感に察知したのは、リサさんたちでした。ここ数日のエミさんの暗い表情、そしてあんなに密着していたサオリさんが距離を置き、リサたちと行動している不自然さ。
そんな中、「人間関係論」の授業が始まります。
(先生! この崩壊した関係を修復する手立てはないんですか!?)
僕の心の叫びは届きません。ですが、先生の「非言語で伝わらなければ、言葉を尽くすしかない」という講義内容が、僕の背中を強く押しました。
昼休み。サオリさんたちが席を立った一瞬の隙を突き、僕はエミさんの肩を叩きました。
「……あっ」
またしても指先に触れるブラ紐の感覚。ですが、今はそんなことで怯んでいる場合ではありません。
「エミさん……話があるんだ。今日、よかったら、一緒にご飯でも……」
「……行きます」
「えっ?」
エミさんは僕の方を見ないまま、即答しました。
「行こう、ご飯」
その言葉には、何かを決意したような響きがありました。
待ち合わせは、エミさんの最寄駅。ですが、彼女は一つだけ「条件」を付けてきました。
「……バイク、乗ってきて」
「えっ……!? あ、うん、分かった……」
夕方。サオリさんと離れ、一人で帰路につくエミさんの後ろ姿。僕のせいだ、という罪悪感が胸を締め付けます。
僕は言われた通り、ゼファーを駆って駅へと向かいました。
改札に現れたエミさんは、必死に作ったような、どこか儚い笑顔を見せてくれました。
今日はいつものふわっとしたスカートではなく、タイトなパンツ姿。バイクに乗るための準備をしてきてくれたことに、胸が熱くなります。
初めての二人きりの時間。舞い上がりそうになる自分を抑え、話を切り出そうとしたその時、彼女が言いました。
「……バイク、乗せて」
顔を赤らめ、恥ずかしそうに、でも真っ直ぐに僕を見つめるエミさん。
地元のノリを色濃く残すこの「族車」に、神戸の街を歩くおしゃれな彼女が乗る。そのアンバランスさが、僕にはひどく愛おしく思えました。
サオリさんにファーストキスを奪われはしたけれど、これは僕にとって、初めて女子を後ろに乗せる「ファースト・タンデム」。
「あ、あの……お兄さんのことは、サオリさんから聞いて……」
「……うん。ちょっと怖いけど。……でも、乗りたいの」
エミさんに彼氏がいるという事実さえ、その時の僕の頭からは消えていました。
夜の帳が下り始めた神戸の街。僕は慎重にゼファーを出し、彼女の震える手が僕の腰に回るのを、ただ静かに待っていました。




