第21話:鉢合わせと、爆弾発言
第21話:鉢合わせと、爆弾発言
シャワーを浴び終えたサオリさんは、大きなバッグから取り出したパジャマに着替え、僕が用意した布団に潜り込みました。
「すごい過去を聞いちゃったわ……。ドキドキして眠れないじゃない」
「明日も学校なんだから、早く寝なよ。……エミさんとの待ち合わせはいいの?」
「……うん。明日は別々で行こうって、もう言ってあるから」
「そっか。じゃあ、おやすみ」
暗闇の中で天井を見上げながら、僕は誓いました。過去は過去だ。どんなに泥にまみれていても、今の、看護師を目指す僕を見てほしい。それはサオリさんに対しても、そしてエミさんに対しても。
翌朝、目が覚めると部屋には爽やかなドレッシングの香りが漂っていました。
「あ……ごめん、おはよう」
「ああ、おはよう。サラダ、作っておいたよ」
キッチンに立つ僕を見て、サオリさんは少し照れくさそうに髪を整え、着替え始めました。
「私の寝相、大丈夫だった?」
「……まあ、弓道の構えみたいな格好してたけど、静かだったよ」
軽い冗談で空気を和ませながら朝食を終え、僕たちは連れ立って家を出ました。
最寄駅から一駅。東行きの電車に乗り、学校の最寄り駅で降りた、その時でした。
「……あ、サオリ?」
改札の前で、呆然と立ち尽くすエミさんの姿がありました。
「どうして……二人、一緒なの?」
「あ、お、おはようございます、エミさん!」
僕は心臓が止まるかと思いました。昨夜の告白、キスの感触、そしてサオリさんが僕の家にいたという事実。すべてが頭の中で混ざり合い、言葉が出てきません。
「タカシくん、これは……どういうこと?」
「え、あ、う……」
僕が言葉を濁していると、隣でサオリさんが凛とした声で言い放ちました。
「タカシの家に行ってたの。泊まりで」
駅のホームに、刺すような沈黙が流れました。エミさんの顔から、みるみるうちに血の気が引いていくのがわかります。
「そ、そうなんだ……。それなら、一言言ってくれればよかったのに……」
「あ、あの! エミさん! 違うんです、特に何もしてないっていうか、その、進路の相談に乗ってもらってて……!」
必死に弁明する僕の言葉を、サオリさんが遮りました。
「『特に何もない』? タカシ、本気で言ってるの?」
サオリさんが僕の腕をぐっと引き寄せ、エミさんの目の前で僕を睨みつけました。
(私は……あれがファーストキスだったんだから。責任、取ってもらうわよ。もちろん、あなたにとっても……そうでしょ?)
耳元でサオリさんが囁きました。エミさんには聞こえてはいない、今はそう祈るしかありません。
エミさんの大きな瞳が潤み始めました。
駅の雑踏の中で、僕とサオリ、そしてエミさんの関係は、もはや「純朴なクラスメイト」ではいられない地点まで加速してしまったのです。




