第19話:剥がされた仮面、語られる戦緯の過去
第19話:剥がされた仮面、語られる戦緯の過去
一度口を開くと、それは堰を切ったように溢れ出しました。
「受験に失敗……いや、初めから受験なんてするつもりもなかった。入学したのは地元の底辺高校。そこは、ろくでなしや『ビー・バップ』の世界そのものだったよ。強さだけがすべての場所……」
「ちょ、ちょっと待って……」
サオリさんが震える声で僕を止めました。
「何? やっぱりやめておく?」
「……い、いいえ。頑張る。続きを話して」
彼女は膝の上で拳を握り締め、覚悟を決めたような表情をしました。
「とにかく、女子もいたけど男子は気合いの入り方が違った。クラスには中学からの腐れ縁、シンとケイがいた。入学早々、他の中学出身の連中と大喧嘩になったよ。向こうは二十人、こっちは三人」
「……二十人に三人で勝てるわけないじゃない」
「いや、三人で十分だった。何人か中学時代に〆(し)めてた別の中学の奴らが加勢にきて、結局、相手は全員病院送りだ。それでも停学にすらならなかった。その高校じゃ、毎年恒例の行事みたいなもんだったからね」
「う……」
サオリさんが息を呑む音が聞こえました。神戸の進学校で弓道に打ち込んできた彼女にとって、それは異世界の物語に聞こえるのでしょう。
「その頃、他校の仲間と暴走族を立ち上げた。バイクを買うためにカモを見つけてはカツアゲしたり、イカサマ麻雀で金をむしり取ったり……とにかく、あの頃の僕は最低だったよ。……で、目立ちすぎた僕らは、当然上の世代から目をつけられることになった。この前、エミさんのバイト先で一緒に飯を食った一個上の先輩……ヒサシさん。あの人のグループと徹底的にやり合ったんだ」
「あ……それ、エミから聞いたわ。いつも食べに来てたヒサシ先輩と一緒だったって。ヒサシ先輩も大概猫被りなんだ……」
「ああ。まさか、あのヒサシ先輩がこの学校にいるなんて夢にも思わなかったけどね。当時は、顔を合わせれば即、殴り合い。体格のいい先輩たちを相手にするのは、正直骨が折れたよ。……まあ、僕らも他校に仲間がいたし、そう簡単にやられはしなかったけど。特に『顔面』だけは、絶対に殴らせないように死守してたんだ」
「なんで? 意地?」
「そりゃ……せっかくの『男前』が台無しになるじゃないか」
「…………。あなた、自分が男前だって自覚してたわけね」
「当たり前でしょ」
サオリさんは呆れたようにため息をつきました。
「本当に……とんでもない猫を被ってたわね、あんた!」
「今さら引く? だからやめとくって言っただろ」
僕が少し突き放すように言うと、サオリさんは真っ赤な顔をして僕を睨みつけました。
「……言ったでしょ、頑張るって! まだあるんでしょ? 全部吐き出しなさいよ!」
震えながらも僕の過去を受け止めようとするサオリ。
嘘で塗り固めた「純朴なタカシ」が消え、部屋の中には、かつて「狂犬」と呼ばれた一人の男の体温だけが漂っていました。




