第17話:直感
第17話:直感
結局、僕のようなガサツな田舎者には、煌びやかな神戸の女子の繊細な気持ちなんて分かりっこないのかもしれません。
夜八時。約束通り駅の改札で待っていると、サオリさんがやってきました。二人分のつまみとビール……にしては、妙に大きなバッグを抱えています。
「ちょっと! そういうところよ。持ちなさいよ、荷物!」
「あ、ごめん」
ひょいとバッグを預かる僕を、彼女は「全く……」と溜息をつきながらジト目で睨みつけました。
駅から数分。僕のワンルームへ着くと、サオリさんは慣れた手つきで部屋を見渡しました。
「相変わらず、無駄に綺麗な部屋ね」
タカシはサオリが来るまでに手製のグラタンを作っていたので、それをテーブルに並べる。
「あんた、本当にいい奥さんになるわね。……あ」
「え?」
不意に出た「褒め言葉」に、サオリさんは慌ててそっぽを向きました。
プシュッ、と缶を開け、乾杯。
「あのね、私は高校時代、弓道部だったのよ。武道で鍛えたおかげで、悪の匂いには敏感なの。……だから、タカシ。あんたのことは『悪』だと思ってるから」
上機嫌に語り始めたサオリさんは、ビールを煽りながら、僕の「元ヤン臭」を的確に指摘してきました。
僕はチビチビと飲みながら「そうか、そうか」と聞き役に徹しました。
夜が更けた頃、サオリさんの声のトーンが落ちました。
「……ねえ。やっぱり、エミのことが好きなの? ……多分ね、あんたはエミとは付き合えないわよ」
「……何故?」
ようやく僕が食いつくと、彼女は寂しそうに笑いました。
「やっぱり、エミの話の時しか顔を上げないのね」
サオリさんが打ち明けた真相は、僕の予想を遥かに超えるものでした。
「エミはね、お兄さんをバイク事故で亡くしているの。大型バイクに乗ってて……。だから、バイクそのものが怖いのよ。……あんた、昨日も今日も、バカみたいなバイクで現れたでしょ? 大切な人がバイクに乗ってる姿を見るのが、彼女には耐えられないのよ」
「……そんな、ことが」
知らなかった。良かれと思って乗っていたゼファーが、彼女にとっては「死」を連想させる暴力的な装置でしかなかったなんて。
彼氏がいるという壁。そしてバイクという壁。マズローの「愛の欲求」を追い求める僕の前に、高すぎる絶壁が立ちはだかりました。
「本当に、バカね……あんたは」
サオリさんが、ふらりと僕の顔を覗き込んできました。
至近距離で交わる視線。アルコールの熱のせいか、彼女の瞳が潤んでいるように見えました。
次の瞬間、柔らかな温もりが、僕の唇を塞ぎました。
心臓が、血圧測定の時よりも激しく跳ねました。
エミさんの親友で、僕を嫌っていたはずのサオリさん。その唇から伝わってきたのは、毒舌の裏に隠されていた、痛いくらいにまっすぐな体温でした。




