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『ナイチンゲールは、元ヤンの僕を救わない。』  作者: A古町


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第16話:訪問者

第16話:訪問者

 エミさんの表情は、曇天を通り越して嵐の前の静けさのようでした。

(何か不手際があったか? それとも昨夜のLIMEが彼氏との修羅場を引き起こした!?)


 的外れな被害妄想で頭がいっぱいになり、僕は意を決して声をかけました。


「あ、あの……エミさん?」


「……ごめん」


 一言だけ残して俯くエミさん。流石にサオリさんも「エミ、どうしたの?」と顔色を変え、彼女を教室の外へと連れ出していきました。


 残された僕は、滝のような冷や汗を流しながら「フラれた……(告ってもいないけど)」という絶望に打ちひしがれていました。


 授業開始と共に二人が戻ってきましたが、空気は重いまま。


 教壇では白衣の美女講師が、淡々と「泌尿器科」の講義を進めています。


「……そこ、タカシさん。ボーッとしない。答えなさい」


「えっ!? な、何ですか?」


「尿道の長さは?」


「……20センチ? いや、25センチですかね?」


「…………。まあ、ご立派なことで。ですが、女性は3〜4センチです」


 教室中が爆笑の渦に包まれました。いつもなら真っ先に笑って、僕をフォローしてくれるはずのエミさん。ですが、今日の彼女の表情はピクリとも動きません。


(一体、何が起きているんだ……!)


 放課後、僕は藁をも掴む思いでサオリさんを学内の喫茶室に誘い、コーヒーを献上しました。


「何よ、コーヒー一杯で。安いわね」


 安定の毒舌ですが、今日の僕は引き下がれません。

「エミさんのことだけど……僕、何かしたかな?」


「あなたねぇ。エミ、エミって。彼氏がいるんだから、ちょっかい出すのはやめなさい。近いのよ、距離が。童貞だからわからないでしょうけど、女子との適切な距離を保ちなさい!」


 サオリさんは一気に捲くし立てると、ふいにコーヒーを一口飲み、少しだけ視線を泳がせました。


「……ま、まあ。あんまりにもあんたが可哀想すぎるから。……飲みくらい、付き合ってあげてもいいわよ。……今日、あんたの家、行くわ。エミから事情を聞いて、報告してあげるから」


「え……? あ、うん。お願いします」


 放心状態の僕は、流されるままに彼女とLIMEを交換し、夜の約束を交わしてしまいました。


 エミさんの異変の真相は。そして、わざわざ家まで「報告」に来るというサオリさんの真意は。


 嵐のような予感を孕んだまま、放課後の太陽が沈んでいきました。

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