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『ナイチンゲールは、元ヤンの僕を救わない。』  作者: A古町


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第15話:既読の来ない夜と、冷めた朝

第15話:既読の来ない夜と、冷めた朝

 ヒサシ先輩のケツ(後部座席)で風を切る帰り道。僕の顔面は、かつてないほどに緩んでいました。


 まさか、太陽のエンジェルからLIMEのIDを渡されるなんて。

 去り際のヒサシ先輩の「マジかよ……」という悔しそうな顔と言ったら! あの顔を肴に白飯が三杯は食えそうです。


 帰宅後、震える手で登録を済ませました。


(いや、でも今はまだバイト中か。終わった直後じゃ疲れてるよな。……あぁ、もうこんな時間!? 今から送ったら迷惑か!?)


 地元では「即レス・即行動」がモットーだった僕が、スマホ一台を前にして、まるで爆弾処理でもするかのように悩み抜きました。


「……よし。シンプルに。……今日はご馳走様。……送信ッ!」


 えいやで放った一通。僕は超えてはならない一線を超えてしまったような、高揚感と恐怖に包まれました。


 ――二時間後。


「うーむ……既読にならない」


 画面は沈黙を保ったまま。時計の針が二時を回り、三時を過ぎ……。


(はっ! まさか……彼氏さんと一緒にいたら、男からの連絡なんて見れないよな。というか、見ないよな……)


 想像が膨らむほどに、胸の奥にドロリとした重い何かが溜まっていきます。気づけば、窓の外には白々とした朝日が差し込んでいました。


「やべっ! うたた寝した! 遅刻する!!」


 一睡もできないまま、僕は慌てて飛び起きました。電車じゃ間に合わない。


「ガオンガオン!」


 久々に愛車・ゼファー750を全開で回します。この時間ならエミさんは既に登校しているはず。校門の手前で降りて、帰りにバイクを取りに戻れば「純朴キャラ」は維持できるはずだ!


「行くぞー!!」


 最後の直線坂道を、重厚な排気音を響かせて駆け上がります。


 その時、目線の端に、必死に坂を走る「可愛い後ろ姿」が映りました。


(えっ、エミさん!? マズイ、突っ切るしかない!!)


 僕はフルフェイスのシールドを下げ、顔を隠して猛スピードで彼女を追い越しました。


 エミさんが、去りゆく爆音の主を目で追います。昨日、店から見たあのタカシの姿――。


 ギリギリで教室へ滑り込み、呼吸を整えたところに、エミさんが遅れて入ってきました。


「あ……タカシくん……」


「エミさん、おはよう! ギリギリだったね!」


「……うん。昨日は、ありがとうね。LIME、返せなくてごめん」


(ん? いつものキラキラしたオーラがない……。どこか、元気がないぞ?)


「い、いや! チャイナ服、すごく似合ってたよ!」


 精一杯の褒め言葉を並べましたが、エミさんは「あ、ありがとう……」と力なく笑うだけで、どこか上の空でした。 


「どうしたの、エミ? ようやくこいつの『悪人ぶり』がわかってきた?」


 すかさずサオリさんがニヤリと笑いながら割って入ります。いつもの「タカシ叩き」のチャンス到来といったところでしょう。


 ところが、エミさんの返答は意外なものでした。


「……え、うーん……。どうなんだろうね……」


 いつもなら「タカシくんはそんな人じゃないよ」と笑ってフォローしてくれるはずのエミさんが、曖昧に言葉を濁したのです。


(……え? なんだ? 何か僕、取り返しのつかないことをしちゃったのか!?)


 サオリさんのジト目と、エミさんの曇った表情。

 昨夜の喜びはどこへやら。教室に流れる不穏な空気に、僕は再び絶望の淵に立たされるのでした。

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