第14話:チャイナ服の連絡先と、暴かれた本性
第14話:チャイナ服の連絡先と、暴かれた本性
店内に響いたのは、いつもの鈴を転がすような声でした。
そこには、艶やかな黒髪をアップにまとめ、鮮やかな赤のチャイナ服に身を包んだエミさんが立っていました。スリットから覗く健康的な脚のラインに、僕の思考回路は一瞬でショートします。
「あれ、タカシくん! 遊びに来てくれたんだ!」
「え、何? タカシの知り合いか?」
ヒサシ先輩が意外そうに眉を上げました。
「はい、看護学校で同じクラスなんです!」
「えっ、君も看護学校? 実は俺も聖マリアンナなんだよ。じゃあ、俺の方が一個上かな」
「そうなんですかー! すごーい! 確かに、いつも来てくださいますよね」
(僕を出汁に、エミさんと親しげに話しやがって……!)
心中穏やかではありませんでしたが、エミさんは「ゆっくりしてね!」と極上のスマイルを残して、忙しそうに厨房へ戻っていきました。
「おいタカシ……あんなアイドルと同じクラスなんて、お前、毎日が戦争だな」
「……彼氏、いるらしいですから。僕の恋は秒速で終わりました」
「あ、そ、そうなんだ。……終わったな、俺の恋も」
(……こ、この人も狙ってたのかよ!?)
運ばれてきた回鍋肉セットを無言で平らげる男二人。
地元のノリでガッツリ食べ終えると、駅前の中華屋は帰宅途中のサラリーマンや学生で溢れ始めました。
「客が増えてきたな。食ったら出るか」
ヒサシ先輩が手早く会計を済ませ、店を出ようとしたその時です。
「タカシくん、待って!」
忙しい合間を縫って、エミさんが駆け寄ってきました。そして、小さく畳まれた紙を僕の手のひらに押し付けたのです。
「これ、私の電話番号とLIMEのID! また、絶対に来てね!」
「えっ……僕に!? あ、ありがとう。ご馳走様!」
一瞬、時が止まりました。
周囲の仕事帰りのOLたちが「え、逆ナン?」「美男美女ねぇ、青春だわ……」とざわつく中、ヒサシ先輩だけがタカシの一人称「僕」に「吹き出しそう」な顔で僕を見ていました。
駅前の駐輪場。
「いいよ、俺がケツに乗ってやる。家まで帰れよ」
ヒサシ先輩の意外な提案に甘え、今度は僕がハンドルを握りました。
(なんだ。高校時代はムカつく先輩だと思ってたけど、飯は奢ってくれるし、実はいい人なのか……?)
ドウルン!!
ゼファーの重厚なエンジン音が夜の街に響きます。僕は無意識に、地元で走っていた時のような、鋭くも華麗なクラッチ操作でバイクを走らせました。
その様子を、中華屋の窓越しにエミさんが凝視していました。
「……あ、あれ、タカシくん? 本当に、あんなに凄いバイクに乗ってるんだ……」
サオリさんが言っていた「あいつはヤンキーだ」という言葉が、エミさんの脳内で現実味を帯びて再生されていました。




