第12話:放課後の密着練習と、不運な暴走
第12話:放課後の密着練習と、不運な暴走
いよいよ実技テスト当日。手順は頭に叩き込み、イメージトレーニングも完璧。
ところが、配布されたバディ表を見た瞬間、僕は自分の目を疑いました。
「……サオリさん?」
「……文句ある?」
バディは、まさかのサオリさん。僕の「太陽」であるエミさんは、リサと組んで楽しそうに練習を振り返っています。
(よりによって、どうしてサオリなんだ……!)
先にテストに挑んだエミさんとリサのペアは、まるで絵画のように美しく、卒なく合格を勝ち取っていました。
そして、いよいよ僕らの番です。
サオリさんの強張った緊張が、肌に伝わってきます。
まずは僕が看護師役。彼女を患者に見立て、臥床から端座位、そして車椅子へのトランスファーを披露しました。
かつての「元ヤン流」の勘の良さとボディメカニクスが噛み合い、動きは完璧。鬼軍曹も満足げに頷いています。
問題は、攻守交代した時でした。
サオリさんは155センチの小柄。対する僕は175センチ。大人と子供ほど体格差があります。
(サオリさん、無理しないでいいよ。僕がこっそりフォローするから……)
僕が小声で囁くと、サオリさんは顔を真っ赤にして「うるさい」と呟きました。
案の定、僕の巨体を起こそうとして、サオリさんの手がプルプルと震え始めます。
僕は目立たないように腹筋に力を入れ、彼女が引き寄せるタイミングに合わせて自らスッと起き上がりました。
トランスファーの時も、彼女が持ち上げやすいよう、足の力で踏ん張って体重を支えます。
「オッケー! サオリさん、上手だったわよ!」
鬼軍曹の拍手が響きます。息を切らすサオリさんは、自分の力ではなく、僕が全力でフォローしていたことに気づいたようでした。
顔を朱に染めたまま、彼女は僕を直視できません。
「……ねえ、ちょっと。実習室で待ってて」
試験終了後の帰り際、サオリさんに呼び止められました。エミさんは「バイトだからお先に!」と先に帰ってしまい、僕はサオリさんと二人きり。
「もう一度やらせて、トランスファー。納得いかない」
「なんだよ、熱心だな。どうしたんだ?」
「うっさい! いいからやらせなさいよ!」
(やらせろやらせろと……乙女の言う言葉じゃございませんよ)
再びベッドで練習開始。やはり体がうまく引き寄せられないサオリさんに、僕は指導役を買って出ました。
「もっと腰を落として。僕の体を、サオリさんの体にグッと引き寄せるんだ」
僕のアドバイス通り、彼女は覚悟を決めたように僕の肩を抱き込み、自分の胸元へ引き寄せました。
――ムニュッ。
……え?
あまりに勢いよく引き寄せすぎたせいで、僕の顔面はサオリさんの柔らかな胸元に完全埋没。
「ンー!!(窒息する!)」
「あ……ごめん!!」
サオリがパニックになって手を離した拍子に、僕の頭は「ドシン!」とベッドに叩きつけられました。
「いってぇ……。さあ、もう一回……って、あ……!」
事故とはいえ、あまりに至近距離で感じた感触に、僕の「健全な男子としての防衛本能」が勝手に作動してしまいました。
実習着のズボンが、ほんの少しだけ……不自然に盛り上がってしまったのです。
それを、サオリさんの鋭いジト目が捉えました。
「…………。不潔。もういい、帰る!!」
「待て、違うんだ! これは不可抗力……!」
サオリさんは怒髪天を突く勢いで実習室を飛び出していきました。
合格したはずの実技テスト。なのに、僕の尊厳とサオリさんとの関係は、これまでにない大爆発を起こして幕を閉じたのでした。




