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神は斬れるのかを確かめたいだけの第一王女、気づいたら世界を壊していた  作者: 玉響すばる


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19/20

幕間 婚約条件という防壁

 アルヴェイン王国において。


 第一王女セレスティア・アルヴェインに婚約者がいない理由は、極めて単純だった。


 ――条件が、満たせない。


 それだけの話である。


     *


「セレス」


 ある日のこと。


 王城の一室で、エレノア王妃が楽しげに声をかけた。


「そろそろ、婚約のお話も考えても良い頃ではないかしら?」


「婚約、ですか?」


 セレスティアは首をかしげる。


 あまり興味がなさそうな反応。


 だが、それ自体は問題ではない。


 問題は――その先だった。


「ええ」


 エレノアは微笑む。


「素敵なお相手がいらっしゃるかもしれないでしょう?」


「なるほど」


 セレスティアは、素直に頷いた。


 その時。


 部屋の隅で、静かに控えていたルクスが、わずかに視線を上げた。


(来たか)


 内心で、そう判断する。


 想定内。


 そして――


 対処すべき案件。


「姉上」


 自然な動作で一歩前に出る。


「はい?」


「婚約に際して、条件は必要かと」


「条件、ですか?」


「はい」


 ルクスは穏やかに微笑む。


 その表情には、一切の不自然さがない。


「姉上は王族であり、かつ――」


 一瞬だけ、言葉を選ぶ。


「特異な能力をお持ちです」


「そうでしょうか?」


 本気で不思議そうだった。


 ルクスは一切気にしない。


「ですので」


 静かに続ける。


「最低限、姉上より優れた方でなければ、不釣り合いかと」


 その言葉は、極めて自然だった。


 論理としても、正しい。


 誰も反論できない。


 ただし。


 その“優れている”の定義が、問題だった。


「なるほど」


 セレスティアは、素直に頷く。


「では」


 一拍。


「私より強いお方、ということですね」


 その場の空気が、止まった。


「……そうなります」


 ルクスは、迷いなく肯定した。


 その瞬間。


 すべてが決定した。


「分かりました」


 セレスティアは穏やかに微笑む。


「では、その条件でお願いいたします」


 あまりにも、あっさりと。


 そして。


 完全に。


 婚約条件が、固定された。


     *


「……お前は、何をしている」


 レオニード三世は、深く頭を抱えていた。


 目の前には、静かに佇む息子。


 ルクス・アルヴェイン。


「最適化です」


 即答だった。


 迷いも、躊躇もない。


「何のだ」


「姉上の環境です」


 その答えに、レオニードは言葉を失う。


 間違ってはいない。


 間違ってはいないが――


「“私より強い者”など、この世界に存在するのか」


「現時点では、確認されておりません」


 ルクスは淡々と答える。


「では、どうするつもりだ」


「確認が完了するまで、保留となります」


 完璧な論理だった。


 そして――


 完全な防壁だった。


「……」


 レオニードは、ゆっくりと顔を覆う。


 理解してしまったからだ。


 この条件が、何を意味するのか。


 ――実質的な、永久保留。


     *


「まあ!」


 エレノア王妃は、大きく笑った。


「それは素敵ね!」


 楽しそうに。


 本当に楽しそうに。


「自分より強い人を探すなんて、とても良いことだわ」


 完全に肯定だった。


 問題視する気配は一切ない。


「そうでしょうか」


 セレスティアは、穏やかに微笑む。


「はい」


 エレノアは頷く。


「分からないことは、確かめればいいのだから」


 その言葉に、セレスティアも頷く。


 価値観は、一貫している。


「では」


 セレスティアは静かに言う。


「そのようにいたします」


     *


 そして、現在。


「姉上」


「はい?」


「婚約に関する進展はございません」


 ルクスが静かに報告する。


「そうですか」


 セレスティアはあっさりと頷く。


「では、問題ありませんね」


「はい」


 即答だった。


 当然の結論。


 条件が満たされていない以上、進展はない。


 それだけの話。


(完璧だ)


 ルクスは内心で確信する。


 この条件がある限り。


 姉上が、誰かに“奪われる”ことはない。


 論理的に。


 完全に。


「では」


 セレスティアが立ち上がる。


「次の確認へ参りましょうか」


「はい」


 ルクスは深く一礼する。


 その動作は、いつも通り完璧で。


 そして――


 ほんのわずかに、満足げだった。


(これでいい)


 姉上は、自由に動く。


 自分は、それを支える。


 それだけでいい。


 それが最適だと、確信している。


 ――婚約者がいない理由は、単純だ。


 条件が、満たせない。


 ただ、それだけの話である。

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