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神は斬れるのかを確かめたいだけの第一王女、気づいたら世界を壊していた  作者: 玉響すばる


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18/20

幕間 セレスティア・アルヴェインの所感

 ルクスは、とてもよくできた子だと思う。


 ――いえ、“子”というのは少し失礼でしょうか。


 もう立派に、王族としての務めを果たしているのですから。


 それでも、私にとっては可愛い弟であることに変わりはない。


「姉上、こちらをご覧ください」


 そう言って差し出された資料には、びっしりと文字が並んでいた。


 海域に関する情報。


 神格存在の痕跡。


 航路、気象、信仰分布――


 どれも、私一人では調べきれないものばかり。


「ありがとうございます、ルクス」


 受け取って、軽く目を通す。


 必要な情報は、すでに整理されていた。


 無駄がない。


 とても読みやすい。


「お役に立てて何よりです」


 ルクスは静かに頭を下げる。


 その仕草は、どこまでも丁寧で。


 どこまでも正確で。


 そして――


 少しだけ、嬉しそうだった。


(ああ、本当に)


 可愛い。


 そう思う。


 感情として。


 自然に。


「とても助かっています」


 そう言うと、ルクスの表情がわずかに緩んだ。


 本当に、ほんの少しだけ。


 気づかない人もいるかもしれない程度の変化。


 でも、私は分かる。


 昔から、ずっと見てきたから。


「姉上のお役に立てるのであれば」


 ルクスは静かに言う。


「それ以上のことはございません」


 その言葉は、少しだけ大げさに聞こえる。


 けれど、きっと本心なのだろう。


 この子は、そういう子だから。


「無理はしていませんか?」


 なんとなく、そう尋ねる。


「いいえ」


 即答だった。


「最適な範囲で行動しております」


「そうですか」


 なら、問題はない。


 ルクスがそう言うのであれば、それが正しいのだろう。


「それに」


 ルクスは続ける。


「姉上が退屈されている状況は、望ましくありませんので」


 その一言に、少しだけ首をかしげる。


「退屈、ですか?」


「はい」


 ルクスは迷いなく頷いた。


「王都は、姉上にとって確認対象が少ない環境です」


 確かに。


 それは、そうかもしれない。


「……そうですね」


 少し考えて、頷く。


 言われてみれば、その通りだ。


「ですので」


 ルクスは静かに言う。


「環境の調整を行いました」


「調整、ですか?」


「はい」


 差し出されたのは、別の資料。


 航路図と、編成表。


「海域への移動手段、観測体制、支援要員の配置――すべて整えております」


 とても丁寧に。


 とても正確に。


 そして、とても自然に。


 “次の場所”が用意されていた。


「……まあ」


 思わず、声が漏れる。


「随分と、しっかり準備してくれたのですね」


「当然です」


 ルクスは静かに答える。


「姉上の行動を最適化するのが、私の役割ですので」


 その言葉に、少しだけ考える。


 役割、というほど大げさなものではないと思うのだけれど。


 でも。


「そうですか」


 微笑む。


「ありがとうございます」


 その一言で。


 ルクスの表情が、わずかに明るくなった。


 本当に、少しだけ。


(やはり)


 可愛い。


 そう思う。


 とても素直で。


 とてもよくできていて。


 そして。


 私を退屈させないように、色々と考えてくれている。


 そこまで気を遣わなくても大丈夫なのに、と思うけれど。


 でも。


「楽しみですね」


 そう言うと、ルクスは静かに頷いた。


「はい」


 その声には、迷いがない。


「必ず、姉上のご期待に沿えるようにいたします」


 期待、というほどのものはないのだけれど。


 ただ、確認したいだけ。


 それだけなのだけれど。


 でも。


 こうして準備してくれるのは、やはり嬉しい。


「では」


 資料を閉じる。


「行きましょうか」


「はい」


 ルクスが一礼する。


 その動作は、どこまでも美しく。


 どこまでも正確で。


 そして。


 どこまでも、可愛らしかった。


(本当に)


 よくできた弟だ。


 そう思いながら、私は立ち上がる。


 次の“確認”のために。


 ――海の神様へ。

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