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神は斬れるのかを確かめたいだけの第一王女、気づいたら世界を壊していた  作者: 玉響すばる


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第14話 母という原点

 王城の一角、陽のよく入る庭園。


 そこは、王城の中でも特に穏やかな空気が流れる場所だった。


 色とりどりの花々、整えられた噴水、静かな水音。


 そして――


「おかえりなさい、セレス」


 柔らかな声。


 振り返った先にいたのは、一人の女性。


 エレノア王妃。


 セレスティアの母である。


「ただいま戻りました、母上」


 セレスティアは自然な動作で一礼する。


 その仕草は、やはり完璧だった。


 だが。


 エレノアは、その形式よりも先に、一歩踏み出した。


「無事で何よりね」


 軽く抱きしめる。


 王族としてはやや崩れた距離感。


 だが、それがこの人の“自然”だった。


「はい」


 セレスティアも素直に応じる。


 拒むことも、戸惑うこともない。


「少し、外を見てきました」


「ええ、聞いているわ」


 エレノアは微笑む。


「山を斬ったり、神様に会いに行ったり」


 軽い口調。


 まるで、庭を散歩したかのように。


 その場にいたエルドが、静かに絶望した。


(この方が原因か……)


「はい」


 セレスティアは頷く。


「とても興味深いものでした」


「そう」


 エレノアは嬉しそうに目を細める。


「世界は広いでしょう?」


「はい」


 迷いのない返答。


「まだ確認していないものが、多くあります」


「良いことね」


 即答だった。


 否定も、制止もない。


 ただ、肯定。


「分からないことがあるなら、直接確かめればいいわ」


 その言葉は、あまりにも自然で。


 あまりにも――決定的だった。


 エルドは、思わず口を押さえた。


(それを教えたのですか……!?)


 リゼットは、わずかに納得したように頷く。


 すべての辻褄が合う。


「母上」


 セレスティアが、静かに問う。


「斬れないものは、どうすればよいのでしょう?」


 その問いは、純粋だった。


 疑問として。


 探求として。


「そうね」


 エレノアは少し考える。


 だが、その時間は短い。


「斬れるようにすればいいのではないかしら?」


 あまりにも軽く。


 あまりにも当然のように。


 答えが返される。


 沈黙。


 エルドは、完全に思考を停止した。


 リゼットは、静かに目を閉じた。


 そして。


 セレスティアは。


「なるほど」


 素直に頷いた。


 その理解は、完全だった。


「ありがとうございます」


 深く一礼する。


 その動作には、明確な“納得”があった。


「参考になりました」


「そう?」


 エレノアは楽しそうに微笑む。


「それは良かったわ」


 そのやり取りは、あまりにも穏やかで。


 あまりにも普通で。


 そして――


 あまりにも、危険だった。


「セレス」


「はい?」


「無理はしないこと」


 優しく言う。


 母としての言葉。


「はい」


 セレスティアは頷く。


 だが。


 その“無理”の基準が、誰とも共有されていない。


「あと」


 エレノアは少しだけ顔を近づける。


「楽しむことよ」


 その一言で。


 すべてが、決定された。


 セレスティアの行動原理が。


 完全に。


「はい」


 その返答は、穏やかで。


 美しくて。


 そして――


 絶対だった。


 エルドは、ゆっくりと空を仰いだ。


(これが、原点……)


 理解してしまった。


 なぜこの存在が、こうなったのか。


 なぜ止まらないのか。


 なぜ――止めてはいけないのか。


 すべては、ここから始まっている。


「では」


 セレスティアが、静かに言う。


「次は、何を確認しましょうか」


 その問いに。


 エレノアは、少しだけ考えてから。


「そうね」


 穏やかに微笑む。


「“運命”とか、どうかしら?」


 沈黙。


 エルドが、ゆっくりと崩れ落ちた。


 リゼットは、静かに頷いた。


 そして。


 セレスティアは。


「運命、ですか」


 その言葉を、ゆっくりと繰り返す。


 瞳に、わずかな興味が宿る。


「確かに」


 小さく頷く。


「まだ、確認していませんね」


 その瞬間。


 新たな“対象”が決まった。


 ――運命は、斬れるのか。


 世界はまだ、その答えを知らない。

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