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神は斬れるのかを確かめたいだけの第一王女、気づいたら世界を壊していた  作者: 玉響すばる


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第13話 斬れないという不自然

 王城の中庭は、静かだった。


 整えられた芝生と、規則正しく並ぶ石畳。


 風は穏やかで、どこまでも“正常”な空間。


 その中央に、セレスティアは立っていた。


「……なるほど」


 小さく呟く。


 手には剣。


 ただし、構えてはいない。


 軽く持っているだけ。


「お嬢様」


 少し離れた場所から、リゼットが声をかける。


「対象は?」


「はい」


 セレスティアは視線を上げた。


 空を見る。


「時間、でしょうか」


 沈黙。


 エルドが、ゆっくりと顔を上げた。


「……今、何と?」


「時間です」


 あまりにも自然に答える。


「先ほど、少し違和感がありましたので」


「違和感、で時間を斬ろうとしないでください」


 即座にツッコミが入る。


 だが。


「斬れないそうですので」


 セレスティアは、軽く首をかしげた。


「少し気になりまして」


 エルドは頭を抱えた。


(来ましたね……)


 この流れは、もう止まらない。


「お嬢様」


 リゼットが一歩前に出る。


「周囲への影響は?」


「最小限に抑えます」


「それが“最小”で済んだ例がありません」


「今回は丁寧に」


 いつものやり取り。


 そして、いつもの結論。


「……はあ」


 エルドはため息をついた。


「せめて、観測だけでもさせてください」


「はい、どうぞ」


 セレスティアは素直に頷く。


 その反応だけは、常に協力的だった。


「では」


 剣を、ゆっくりと構える。


 風が止まる。


 いや、止まったように感じる。


 違う。


 “意識”が集中している。


 その一点に。


「時間は」


 セレスティアが、小さく呟く。


「流れているもの、ですよね」


「はい」


 エルドが即座に答える。


「不可逆的に進行する、概念的な現象です」


「なるほど」


 セレスティアは頷く。


「では」


 一拍。


「斬れない理由は、どこにあるのでしょう?」


 その問いは、静かだった。


 だが。


 致命的だった。


「……理由?」


「はい」


 セレスティアは剣先をわずかに下げる。


「斬れないと決めつける方が、不自然ではありませんか?」


 エルドの思考が、一瞬止まる。


 リゼットも、わずかに目を細めた。


 それは。


 単なる疑問ではない。


 前提の否定。


「時間は“物”ではありません」


 エルドが言う。


「だから斬るという行為が――」


「では」


 セレスティアが、静かに遮る。


「“物でないものは斬れない”という前提が、間違っている可能性は?」


 沈黙。


 それは、反論ではない。


 思考の停止。


「……」


 エルドは、言葉を失った。


 論理としては、成立してしまう。


 成立してしまうが。


 受け入れてはいけない。


「斬れないものがあるのではなく」


 セレスティアは、ゆっくりと剣を持ち上げる。


「斬れていないだけです」


 その言葉は。


 静かで。


 穏やかで。


 そして――


 絶対だった。


「……」


 空気が、張り詰める。


 リゼットが一歩後ろに下がる。


 エルドは、無意識に距離を取った。


 理解している。


 ここから先は、“観測領域外”だと。


「では」


 セレスティアが、軽く息を整える。


「少しだけ」


 剣が、振られる。


 音はない。


 衝撃もない。


 ただ――


 “何か”が、ずれた。


「……?」


 エルドが目を見開く。


 違和感。


 ほんのわずかな、遅延。


 風が、遅れる。


 音が、ずれる。


「今のは……」


 リゼットが低く呟く。


「時間の流れが……」


「少しだけ」


 セレスティアは、剣を見つめる。


「引っかかりましたね」


 その表情には、明確な“手応え”があった。


「……成功、ですか?」


 エルドの声は、かすれていた。


「いいえ」


 セレスティアは首を横に振る。


「まだです」


 そして。


 再び、構える。


「もう少し、正確に」


「待ってください!」


 エルドが叫ぶ。


「それ以上は――」


「大丈夫ですよ」


 セレスティアは、優しく微笑む。


「今回は、分かりましたので」


 その言葉の意味を、理解した瞬間。


 エルドの背筋が凍る。


(“分かった”……?)


 つまり。


 次は――


「――」


 剣が、振られる。


 今度は、先ほどよりもわずかに鋭く。


 その瞬間。


 世界が、“一瞬遅れた”。


 すべてが。


 風も、音も、光も。


 ほんの一瞬だけ。


「……」


 完全な沈黙。


 そして。


「……斬れましたね」


 セレスティアは、穏やかに言った。


 その声だけが、正常に響いていた。


 エルドは、何も言えなかった。


 リゼットは、ただ静かに頷いた。


 そして。


 その場にいたすべてが、理解する。


 この瞬間。


 ひとつの“前提”が、崩れたことを。


 ――時間は、斬れる。


 ただし。


 それができる存在がいる場合に限る。

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