第12話 王城、再会
王都アルヴェイン。
城門をくぐった瞬間、空気が変わった。
整えられた石畳、規則正しく並ぶ建造物、行き交う人々の視線。
すべてが“秩序”の上に成り立っている。
「……やはり、整っていますね」
セレスティアが静かに呟く。
「はい」
ルクスが即座に応じる。
「王都は、父上の統治の象徴ですので」
「そうですか」
セレスティアは素直に頷く。
その反応は、まるで初めて訪れたかのようだった。
(……帰ってきた、という感覚が薄い)
エルドは内心で苦笑する。
この方にとっては、どこも同じなのだろう。
“確認する場所”でしかない。
やがて一行は王城へと到着した。
門が開き、無言のまま迎え入れられる。
通されたのは、謁見の間ではない。
奥の私室に近い部屋。
「……随分と、形式を省きましたね」
エルドが小さく呟く。
「はい」
ルクスは短く答える。
「今回は“王として”ではなく、“父として”の面談ですので」
その言葉に、わずかな緊張が走る。
扉が開く。
そこにいたのは――
「戻ったか」
レオニード三世。
王であり、父である男。
「はい、父上」
ルクスが一礼する。
セレスティアも、それに続いた。
「ただいま戻りました」
その所作は、やはり完璧だった。
どれほどのことをしてきた後でも、一切崩れない。
「……無事で何よりだ」
レオニードは短く言う。
その声には、わずかな安堵が混じっていた。
だが、それ以上の感情は表に出さない。
「報告は受けている」
一拍。
「北方の件、禁域の件……そして」
視線が、セレスティアに向けられる。
「“神”への干渉」
部屋の空気が、わずかに重くなる。
だが。
「はい」
セレスティアは、いつものように頷いた。
「確認できました」
あまりにも簡潔な報告。
だが、その内容は――
「……結果を聞こう」
レオニードが静かに促す。
「神様は、斬れます」
沈黙。
エルドは目を閉じた。
リゼットは動かない。
ルクスは、わずかに微笑んだ。
そして。
レオニードは。
「……そうか」
それだけを言った。
否定も、驚きもない。
ただ、受け入れる。
それが、この家族の“正常”だった。
「影響は」
短く問う。
「軽微です」
セレスティアは答える。
「少しだけ、切れただけですので」
「“少し”の基準が問題だ」
レオニードはため息をついた。
だが、その声はどこか疲れている。
怒りではない。
理解の上での、諦めに近いもの。
「……世界は保っているな」
「はい」
エルドが補足する。
「現時点では、均衡は維持されています」
「現時点では、か」
レオニードは低く呟く。
その言葉の重さを、全員が理解していた。
沈黙。
やがて。
「……よくやった」
レオニードが、ぽつりと呟いた。
その一言に。
エルドが顔を上げる。
(評価するのですか……!?)
「確認は必要だ」
レオニードは続ける。
「知らぬまま崩れるより、把握しておく方が良い」
合理的な判断。
それは、王として正しい。
だが。
「ただし」
視線が鋭くなる。
「今後は頻度を抑えろ」
「はい」
セレスティアは素直に頷く。
「気になることがあれば、ですが」
「……それを減らせ」
即座に返される。
「努力いたします」
その返答が、どこまで有効かは誰にも分からない。
だが。
それ以上は、求めない。
求めても意味がないと、全員が理解している。
「ルクス」
「は」
「対応は任せる」
「承知いたしました」
ルクスは深く一礼する。
その目には、明確な意思があった。
「姉上の行動は、私が管理いたします」
「管理できるのか?」
レオニードの問いは、鋭い。
だが。
「最適化は可能です」
ルクスは迷いなく答えた。
「妨げるのではなく、導く形で」
一瞬の沈黙。
そして。
「……任せる」
レオニードは頷いた。
それが、最善だと理解している。
「では」
セレスティアが、軽く手を合わせる。
「次はどこへ行きましょうか」
その一言で。
場の空気が、再び変わった。
「……次、か」
レオニードが低く呟く。
ルクスは、静かに微笑んだ。
「候補はございます」
その声は、あまりにも落ち着いていて。
あまりにも――危険だった。
「世界には、まだ“未確認”の領域が多く存在しますので」
エルドが頭を抱えた。
(増やす気ですか……)
リゼットは、わずかに口元を緩める。
そして。
セレスティアは。
「楽しみですね」
心から、そう言った。
その笑顔は、やはり美しく。
やはり無邪気で。
そして――
やはり、世界にとっては脅威だった。




