幕間三 五分以下の心配
幕間三 五分以下の心配
全く、あの娘ったら。
あれほど丁重に、と申し上げましたのに。
ぞんざいに扱って、自分の立場を分かっているのかしら。
わたくしは、九割五分以上の呆れと、五分以下の心配を込めて、ため息をつきました。
心配が五分以下なのは、薄情だからではありません。
あの娘が、そう簡単に消えてしまうほど弱い管理者ではないと知っているからです。
もっとも。
あのような扱いを受けて、神格をかなり削られたとなれば、少しは反省していただきたいところではありますけれど。
事の始まりは、もう随分と前のことです。
ある時、あるお方が、畑から大根でも採ってくるような気軽さで、邪神と邪竜の魂を狩っていらっしゃいました。
狩る、という言葉を使うのも少し違うかもしれません。
あれは、そうですね。
見つけた。
手を伸ばした。
持って帰ってきた。
その程度の手つきでした。
相手が邪神であろうと、邪竜であろうと、あのお方にとっては大根と大差なかったのでしょう。
わたくしは、その時点で既に帰りたかった。
しかし、帰れません。
わたくしは、これでも五つの世界を管理する管理者です。
目の前で、扱いを誤れば世界の一つや二つ簡単に傾きかねない魂が、畑の収穫物のように並べられているのです。
帰りたいから帰ります、とは言えません。
言えたら、どれほどよかったでしょう。
あのお方は、その場でそれらを加工なさいました。
加工。
ええ、加工です。
浄化でも、封印でも、裁定でもありません。
材料を見て、用途を決め、不要な部分を削ぎ、必要な形に整える。
料理人が野菜の皮を剥くように。
職人が木材を削るように。
そんな手つきで、邪神と邪竜の魂が、別の何かへ変えられていきました。
正気の沙汰ではありません。
正気の沙汰ではありませんが、仕上がりは見事でした。
そこがまた、腹立たしいところです。
「そのうち、頼み込んでくるポンコツ管理者がいる」
あのお方は、そうおっしゃいました。
その言い方。
その雑さ。
その確信。
どう考えても、わたくしの後輩のことでした。
「そいつに渡してやれ。転生先の両親に届くように取り計らえ」
わたくしは、しばらく黙っていました。
五つの世界を管理する管理者に向かって、配達係をしろと。
邪神と邪竜の魂を加工したものを、転生処理に紛れ込ませろと。
しかも、相手は自分の世界を持ったばかりの若い管理者。
手順を間違えれば、魂の定着、因子の発現、肉体形成、神格との接続、そのすべてに影響が出る。
ありえません。
ええ。
ありえませんとも。
まあ、引き受けるのですけれど。
断れるはずがありません。
あのお方の頼みは、頼みの形をした確定事項です。
それに、わたくしも分かっていました。
あの加工品は、危険で、無茶で、常識外れで、管理者の胃を痛める代物でした。
けれど、同時に。
ひどく丁寧に、誰かの未来を見て作られていた。
だから、わたくしは受け取りました。
受け取って、手順を整え、あの娘が泣きついてくる前に、必要な経路だけを開けておきました。
そして案の定、後輩は頼み込んできました。
「どうしても必要なのです」と。
「この世界を守るために」と。
「転生者の魂に、これを」と。
わたくしは、深く、深く、ため息をつきました。
そして、あらかじめ用意しておいた経路を使わせてあげたのです。
丁重に扱いなさい。
間違っても、ぞんざいに渡してはいけません。
相手は、ただの魂ではありません。
名前を持ち、縁を持ち、理に触れうる者です。
そう、何度も申し上げたはずでした。
それなのに。
あの娘ったら。
光護膜を貫通された上に、創造神ちゃんなどという名を付けられたようですね。
名前を付けられるというのは、神性存在にとって軽いことではありません。
まして、相手があれほど強く認識し、あれほど雑に呼び、あれほど当然のように魂へ刻み込むとなれば、なおさらです。
あの娘は、神力を糧にされたのでしょう。
神格も、かなり失っているように見えます。
全く。
あれほど申し上げましたのに。
丁重に、と。
わたくしは、もう一度ため息をつきました。
九割五分以上の呆れ。
五分以下の心配。
そして、ほんの少しだけ、明日は我が身という恐怖。
桑原桑原。
わたくしは、そう呟いてから、視線を手元へ落としました。
管理者にも、生活というものはあります。
世界を五つ管理していても、食事は必要です。
幸い、今日は大根が安い。
ふろふき大根にしましょうか。
白く、柔らかく煮て。
味噌を少し甘めにして。
あのお方が邪神と邪竜を扱った手つきのことは、できるだけ思い出さないようにして。
わたくしは台所へ向かいました。
あの娘が次に泣きついてくる時まで、せめて温かいものを食べておくべきでしょう。
管理者というものは、案外、体力勝負なのです。




