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哀れに思ったから全世界最強のチート能力を持った神が無双してみる  作者: トリ


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#3 冒険者としての、初戦。

俺はそのまま受付へ向かった。受付嬢は営業用の笑みを浮かべながら依頼書を受け取る。


『砂狼討伐ですね。パーティ人数を確認――』


そこで言葉が止まった。


『……お二人ですか?』


「ああ」


『申し訳ありません。この依頼は三人以上のパーティ限定となっております』


「三人?」


『砂狼は集団戦を行う魔物ですので。囮役、前衛、支援役の最低三名編成が義務付けられています』


なるほど。ちゃんとした理由はあるらしい。だがソロ活動する人がいないということなのか。


『どうします?』


アースがこちらを見る。俺は少し虚空を見つめて考え――すぐに視線をアースに戻した。


「別のにするか」


その瞬間だった。


『――なら、あたしが入る』


女の声。周囲の空気が少しだけ動く。振り返ると、一人の少女が壁にもたれかかっていた。

淡い水色の髪。鋭い金色の瞳。腰には細身の剣を下げている。年齢は俺たちと同じくらいだろう。だが、“場慣れ”していた。立ち方一つで分かる。こいつは実戦経験がある。

少女はゆっくりこちらへ歩いてくる。


『砂狼討伐でしょ?』


そう言いながら、俺の持つ依頼書を指差した。


『あんた達みたいな初心者二人だけで行くには危ないわよ』


「初心者じゃない」


『登録前なら初心者よ』


即答だった。隣でアースが吹き出しそうになっている。腹立つぜ、一応俺とお前は同じ立場だからな、ケッ。

少女は俺たちを上から下まで観察するように眺める。その視線が、一瞬だけ止まった。俺たちの魔力を見たのか?


……いや。


違うな。“違和感”を感じ取ったんだ。俺たちが異質だということに気づいた。

とはいっても、俺たちが身にまとっている衣服は冒険者らしくはあるものの結局は装備は短剣だけ。そこらの冒険者でも違和感を持つのは不思議ではないだろう。


『まあでも』


少女は小さく肩をすくめた。


『悪い感じはしないし』


「ナンパか?」


『違うわよ馬鹿』


即答。気も強いらしい。だがしかし、この少女はきっと将来美しくなる。強気の女性は聡明に見えるというし、これもまた良いのだろう。


『あたしはフレイヤ。Cランク冒険者』


そう言って、彼女は冒険者証を軽く振って見せた。

周囲が少しざわつく。

この年齢でCランクなら、かなり優秀なのだろう。


『ソロで受ける予定だったけど、人数制限で困ってるなら組んであげる』


『いいんですか?』


アースが聞く。フレイヤは少しだけ視線を逸らした。


『……新人が死ぬの、後味悪いし』


その言葉に、少しだけ空気が変わる。何かを思い出している顔だった。俺はなんとなく察する。

勇者アリスが関係しているのはないだろうか。


『ただし』


フレイヤが再びこちらを見る。


『足引っ張るなら置いてくから』


「それはこっちの台詞だ」


『……言うじゃない』


金色の瞳が細められる。一瞬だけ空気が張り詰めた。周囲の冒険者たちも、小さくこちらを見ている。新人同士の軽口――には見えなかったのだろう。だが次の瞬間、フレイヤはふっと肩の力を抜いた。


『まあいいわ。死にたくないなら、ちゃんとあたしの指示聞きなさい』


「考えとく」


『聞く気ゼロじゃない』


フレイヤの突っ込みにアースが苦笑する。


『すみません、こういう人なんです』


「どういう人だ」


『面倒くさがりなのに妙なところで負けず嫌いです』


「余計なこと言うな」


『事実でしょう』


フレイヤは呆れたようにため息を吐き、それから受付嬢へ向き直った。


『三人パーティで申請するわ』


『確認しました。では砂狼討伐依頼を受理します』


受付嬢が依頼書へ印を押す。その音を聞きながら、フレイヤがぽつりと呟いた。


『……勇者アリスも、最初はこんな依頼から始めたのかしらね』


空気が少しだけ静かになる。アースが反応しかけたが、俺は先に口を開いた。


「好きなのか、その勇者」


フレイヤは少し驚いた顔をした。そしてすぐに、真っ直ぐ前を向く。


『好きもなにも、……憧れよ。ただの』


その瞳には、強い光があった。


『世界が終わりかけてる中で、それでも一人で魔王に向かったんでしょ?そんなの、普通できない。だからあたしは――』


そこで一度言葉を切る。そして、小さく笑った。


『勇者になりたいのよ』


王都を出てから、体感一時間ほど。

街道を外れた先には、乾いた砂地が広がっていた。地面には草がまばらにしか生えておらず、ところどころ風によって削られた岩肌が露出している。さらに奥には、小規模な森林地帯まで見えていた。王都近辺とは思えないほど荒れた土地だ。


『この辺り一帯を“灰砂地帯”って呼ぶのよ。砂狼はここを縄張りにしてるわ。昼は岩陰に潜んで、夕方から群れで動く』


先頭を歩きながらフレイヤが説明する。


「砂漠の狼か」


『普通の狼よりかなり速いわよ。あと連携も取る』


フレイヤは淡々と言うが、その視線はずっと周囲を警戒していた。一歩進むごとに足跡を確認し、風向きを気にし、耳を澄ませている。

ただ強いだけじゃない。なるほど、“生き残り方”を知っているのだな。


『ヴィザルさんもちゃんと周囲見てください』


アースが後ろから小声で言う。


「見てる」


『絶対見てませんよね?』


「魔力反応は探ってる」


『それだけじゃ駄目です。索敵は視覚、聴覚、地形把握も――』


「お前、やけに詳しいな」


『創作知識です』


「信用ならねぇ……」


『でもあなたよりマシです』


ったく相変わらず失礼な相棒だ。

すると前を歩いていたフレイヤが呆れたように振り返る。


『あんた達ほんと変なコンビね』


『よく言われます』

「初めて言われた」


二人同時にフレイヤに返した。


『絶対嘘でしょ』


そんな会話をしていた時だった。フレイヤの足が止まる。空気が変わった。


『……いる』


小さな声。だが、その瞬間には既に彼女は剣へ手をかけていた。

俺も視線を向ける。

岩陰。そこに、赤い瞳が浮かんでいた。低い唸り声をあげ、砂色の毛並みをした通常の狼より一回り大きい身体。

そして――。

二体。

いや。


『囲まれてるわね』


フレイヤが小さく舌打ちした。周囲の岩陰から、次々と砂狼が姿を現す。


三。

五。

七。

思ったより多い。


『これだから群れ型は嫌なのよ……!』


フレイヤは即座に前へ出る。剣を抜く動作に迷いがない。


『アース!後衛!』


『は、はい!』


『ヴィザルは――』


「適当にやる」


『あんたが一番不安なんだけど!』


直後。

砂狼が地面を蹴った。

速い。人間なら反応できない速度だ。だが俺の視界には、はっきり見えていた。……なるほど。これがこの世界の魔物。

俺は右手を軽く前へ出す。頭の中で、魔力を組み上げる。空間を捻じ曲げ、対象を圧縮する。

理論は簡単。こんな感じか...?比べてしまえば複雑なほうだが、神界ならこんなもの無意識で終わる。

だが――。


「……っ?」


次の瞬間。体内の魔力が暴走した。


『ヴィザルさん!?』


アースの叫び。遅い。バキィッ!! と空間そのものが歪み、目の前の地面が爆発する。砂が吹き飛び、岩が砕け、突っ込んできた砂狼ごと地面が抉れた。

だが威力制御ができていない。衝撃波がそのまま俺自身を吹き飛ばした。


「うおっ!?」


『ちょっ、何してんの!?』


フレイヤの怒声。俺は地面を数回転がり、ようやく止まる。……痛い。何だこれ。神界ではあり得なかった感覚だ。


『だから魔力循環を安定させてから構築してくださいって言ったでしょう!?』


アースが半泣きで叫んでいる。知らん。難しいんだよ。

その間にも砂狼は動く。二体が側面からフレイヤへ飛びかかった。だが彼女は冷静だった。


『遅いっ!』


鋭い踏み込み。細剣が風を切り、一体の喉を正確に裂く。返す刃で二体目の脚を断つ。速い。しかも無駄がない。純粋な技術だけなら、今の俺より遥かに上だ。


『ヴィザル!ぼーっとしないで!』


『次来ます!!』


アースの声と同時に残った砂狼が一斉に飛び込んでくる。俺は再び魔力を練り上げ――。


その時だった。――ギャアアアアアッ!!遠くの森林地帯の方向から、悲鳴が響いた。空気が凍る。その場で最初に反応したのは、フレイヤだった。


『……っ!』


彼女は即座に顔を上げる。剣を構えたまま、森の方向を睨みつけた。


『今の悲鳴……!』


反応が早い。アースが数秒遅れて顔を上げる。俺も遅れて気づいた。

確かに、異常な魔力反応がある。だがフレイヤは、それより前に“危険”を察知していた。


実戦経験。命のやり取りを重ねてきた者だけが持つ感覚だった。フレイヤの表情が険しくなる。


『まずい……』


フレイヤはそう呟いた瞬間、残っていた砂狼を一閃で斬り捨てた。血飛沫が砂地へ散る。だが彼女はそれを確認することすらせず、すぐに森林の方向へ視線を向けた。


『この魔力……普通じゃない』


『強い魔物ですか?』


アースが険しい顔で聞く。フレイヤは短く頷いた。


『少なくとも砂狼なんかとは比べ物にならない』


その言葉と同時。再び悲鳴。今度はさらに近い。


『っ……!』


次の瞬間、フレイヤは地面を蹴っていた。速い。一切迷いのない加速。経験者だからこそ、“間に合わなくなる危険”を理解しているのだろう。


『ヴィザルさん! 行きますよ!』


「分かってる」


俺とアースも後を追う。乾いた砂地を駆け抜け、森林地帯へ入る。枝葉が視界を遮り、地面も一気に悪くなる。


だが。


『……え』


前を走っていたフレイヤが、一瞬だけ驚いた顔をした。普通なら追いつけないと思っていたのだろう。実際、アースも普通に並走している。


『アース、お前意外と速いな』


『神ですからね、一応』


『その割に戦闘は不安しかないがな』


『それはお互い様です!』


そんなやり取りをしながら、さらに森を抜ける。

そして。――見えた。

木々が倒され、地面が大きく抉れている。その中心。巨大な魔物が咆哮を上げていた。全長は三メートルを超えている。黒灰色の毛皮。異常に発達した前脚。口元からは鋭い牙が何本も覗いていた。熊――に近い。

だが明らかに別物だった。


『グレイガルム……!?』


フレイヤの顔色が変わる。


『B級魔物よ……なんでこんな場所に……!』


その周囲では、七人ほどの冒険者パーティが必死に応戦していた。だが既に崩壊しかけている。


二人。


倒れていた。動かない。血溜まり。助からない。残った冒険者たちも満身創痍だった。


『くそっ! 抑えろ!!』


『回復が足りねぇ!!』


『前衛下がれ、死ぬぞ!!』


混乱。恐怖。統率は崩れかけている。グレイガルムが腕を振るった瞬間、前衛の男がまとめて吹き飛ばされた。木へ激突する。嫌な音が響いた。


『まずい……!』


フレイヤが剣を抜く。だが同時に迷いも見えた。


B級。


今の自分たちで勝てる相手ではない。それでも。


『……放っておけない』


小さく呟く。そして次の瞬間には走り出していた。


「あいつ、突っ込んだぞ」


『僕らも行きますよ!』


言われなくても分かってる。俺は魔力を練り上げる。今度は暴発させない。さっきの感覚を思い出す。

流れ。循環。圧縮。魔力は多すぎる。なら出力を落とせばいい。


『ヴィザルさん!魔力を一点に固定して――』

「分かってる!」


右手を前へ突き出す。空間が軋む。だが今度は暴走しない。ギリギリ制御できている。


『っ……!』


放たれた衝撃がグレイガルムの身体をわずかに逸らした。

その隙。


『はぁっ!!』


フレイヤが一気に懐へ飛び込む。細剣が風を纏う。連撃を食らわせる。首筋、そして脚。急所だけを正確に狙っている。速い。だが浅い。硬い毛皮に阻まれて致命傷までは届かない。


『アース!』


『分かってます!』


アースが両手を前へ出す。同時に淡い光。次の瞬間、フレイヤの身体能力が一気に跳ね上がった。


『身体強化……!?』


他の冒険者が驚愕する。アースの支援魔法は異常なほど精密だった。魔力制御。それに関してだけなら、俺より遥かに上手い。


『ヴィザルさん! 今です!』


「タイミング指示すんな!」


言い返しながら、再び魔力を構築する。まだ下手だ。だが、少しだけ分かってきた。

この世界の魔法は、力じゃない。制御だ。

俺は魔力を極限まで絞り込む。空間一点に限定して圧縮。

そして――。


「潰れろ」


バキィッ!!空間が一点だけ歪む。グレイガルムの前脚が砕けた。


『グアアアアアアッ!!』


咆哮。巨体が崩れる。その瞬間。


『終わりよ!!』


フレイヤの細剣が閃いた。風を纏った一撃が、グレイガルムの喉を正確に貫く。

数秒。

巨体が揺れ――。轟音と共に倒れた。

静寂。

荒い呼吸だけが響いている。助かった冒険者たちが、その場へ崩れ落ちた。


『た、助かった……』


誰かが呆然と呟く。フレイヤは何も答えない。

ただ。倒れている二人へ歩み寄った。

血塗れの冒険者。既に息はない。フレイヤはその場で膝をつく。そして、小さく唇を噛んだ。


『……間に合わなかった』


悔しそうだった。強く拳を握り締めている。

もっと早ければ。もっと強ければ。そう考えている顔だった。だが。俺とアースは、特に何も言わなかった。死は珍しいものじゃない。世界が違っても、それは同じだ。助からない命など、いくらでもある。

神界では、もっと大量に見てきた。

だから。

俺は静かに周囲を見回しながら呟く。


「B級って、結構強いんだな」


『今そこでする感想じゃないですよ』


フレイヤもゆっくりこちらを振り返る。その顔には、少しだけ理解できないものを見るような色が浮かんでいた。


『……あんた達』


小さな声。


『冒険者初日で、こんなの見ても何も思わないの?』


視線が倒れた二人へ向けられる。普通なら、怖くなる。現実を知る。そして引退する者も少なくない。

フレイヤはそれを知っていた。だからこそ、理解できなかったのだろう。

この二人は、なぜ平然としているのか。


「思わない」


そう答えた。即答だった。

アースが少し驚いた表情をしている。だが俺は続けた。


「人が死ぬことは、別に珍しいことじゃない」


フレイヤの眉がわずかに動く。俺は倒れた冒険者たちを見ながら、淡々と言葉を続けた。


「毎秒、どこかで誰かが死ぬ。戦争。病気。事故。魔物。理由なんていくらでもある」


神界にいた頃を思い出す。魂の流れ。終わりのない循環。数え切れない命。


「数千万、数億の魂が流れていくことだってある」


何回あの作業を行ったことか、何回が死んだことか、何回魂に触れたことか。


「だから、死そのものに特別な感情はない」


それは事実だった。俺にとっては、死とは日常だ。世界の循環の一部。当たり前のもの。

だから――。


「……普通のことだ」


森に静かな風が吹く。誰もすぐには口を開かなかった。

すると。


『……僕は思いますよ』


アースがぽつりと言った。


その声は、いつもより少しだけ静かだった。


『何回見ても、慣れません』


アースは倒れた冒険者たちを見る。


『地球でも毎日たくさん人は死にます。でも……だからって、軽く見ていい理由にはならないでしょう』


「軽く見てるわけじゃない」


『そうでしょうね』


アースは苦笑した。


『ヴィザルさんは、そういうところ不器用なんです』


「なんだそれ」


『そのままです』


フレイヤはしばらく黙っていた。

そして。


『……変な奴ら』


小さくそう呟いた。だが最初の警戒感は、少しだけ薄れていた。理解はできない。

でも。悪い奴ではない。そんな風に思い始めているのかもしれない。


その後、負傷した冒険者たちを連れて一行は王都へ戻った。グレイガルム討伐の報告を受けたギルドは騒然となり、特にフレイヤはかなり驚かれていた。Cランク冒険者がB級魔物討伐に関与したのだから当然だろう。

ただ、フレイヤ本人は、あまり嬉しそうではなかった。


『……二人死なせた時点で、完全勝利じゃない』


受付嬢が気まずそうに黙り込む。冒険者とは、そういう職業なのだろう。その後。本来の依頼だった砂狼討伐も確認され、俺たちは報酬を受け取ることになった。

銀貨三枚。人生初収入らしい。


『これで宿代くらいは何とかなりますね』


アースが銀貨を見ながら言う。


「意外と簡単に稼げるんだな」


『今回はかなり異常事態でしたけどね!?』


すると。


ぐぅぅ~~……。

妙な音が響いた。一瞬、空気が止まる。


『……え?』


アースが目を丸くする。フレイヤもきょとんとしていた。そして俺はゆっくり自分の腹を見る。


「…………」


また鳴った。ぐぅぅぅ~~……。……なんだこれ。


『あ』


アースが何かに気づいた顔をする。


『そういえば僕ら、今ちゃんと肉体ありますもんね』


「肉体?」


『神界だと基本的にエネルギー体みたいなものだったので、空腹感とかありませんでしたし』


なるほど。つまりこれは――。


「腹減ってるのか、俺」


初めての感覚だった。妙に身体の奥が空っぽな感じがする。

フレイヤは数秒黙ったあと。ぶふっ、と吹き出した。


『なによそれ……っ、初めて聞いたんだけど!』


「笑うな」


『だってさっきまで達観したこと言ってた奴が、お腹鳴らしてるのよ!?』


『確かにちょっと面白いですね』


「お前まで笑うのかよ」

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