第5話 このおっさん好き
ヒモオの手を引っ張ってベッドルームに連れてきた。
思いっきり上を向いてるのに、ヒモオは私の方を見ない。唇が近付いて来ない。
「キスして欲しい」
「これもご依頼ですか?」
「……そうって、言ったら?」
「応じます」
ジャンプしてヒモオの首に絡みつく。
「依頼じゃない」
足でヒモオの体にしがみ付いてよじ登る。
「でもキスしていい?」
なにそっぽ向いて抵抗してんのさ。こいつ何気に意地悪。
「んー!」
もう首でいいや。むしゃぶりつく。
「あ、おい!やめろ!」
やっと反応があった。ちゅう、ちゅうと首筋に吸い付く。
「おい!こら!」
ヒモオが私の両脇を掴んで高い高いをして体を離された。
「っちょっと、いいとこだったのに!」
「おじさんをからかうのもいい加減にしてください」
「おっさんじゃないって言ったの自分じゃん!」
「なにがしたいんですか」
「セックス」
「へ?」
驚き過ぎでしょ。この流れ、どう考えてもそうだったじゃん?
「本気で言ってるんですか?」
「私はいつだって本気だってば」
ベッドに座ってヒモオに両手を広げる。
「こっちに来てよ」
ヒモオが困った顔で私に近付く。ぞくぞくするな。
「どうなっても知りませんよ」
「どうなるの?やってみようよ」
パジャマにしてるトレーナーとパンティを一緒に脱いでポイっと捨てる。脚を開いて後ろ向きになりお尻を突き出す。ほら、どうぞ。枕を顎の下に抱えて、ヒモオが挿入してくるのを待つ。
「ん?」
早く来て。ヒモオってば何してんの……?
「どうしたの?」
振り返ったら、ヒモオが真っ赤っ赤になってた。
「え?具合悪い?熱あんの?」
急いでヒモオのおでこに手を当てる。
「あっついじゃん!なんで言わなかったの?」
調子悪いのに、セックスをねだって申し訳なかったな。反省しながら下を履き直してキッチンに急ぐ。どこかに解熱剤があったはずだ。
「沙耶さん」
「あ、ヒモオは寝てていいよ。薬持って行く……」
後ろから抱きしめられた。あっつ!
「なんですかあれ?」
「あれ?」
「いつもあんな風に抱かれてるんですか?」
「抱かれてるって言うか……ほら、私胸ないし、抱き心地は良くないらしいんだよね。でも挿入しちゃえば一緒でしょ?」
「沙耶さん」
「ヒモオ……く、苦しい……」
「あ。すみません」
ヒモオのハグは温かい湯たんぽに押しつぶされるみたいな心地よい快感があった。
「ねえ。もう一回、お願い」
両手を開いてハグをねだる。
今度は黙ってお願いを聞いてくれたぁ~。ヒモオの背中をなでなでする。
「沙耶さん」
「なあに?」
ヒモオの胸でしゃべると、自分の声がよく聞こえない。
「僕には出来ません」
「なにが?」
「沙耶さんと、セックス出来ません」
「……そうか、残念」
ヒモオをハグから解放する。
「ふられちゃったかぁ」
大丈夫。私はまだ若いし、これからもチャンスはあるよ。
「ヒモオは悪くないから、気にしないでね。なんか、急に迫ってごめんね」
「いえ」
「気まずいかも知れないけど、もう一泊してくれない?」
「今夜ですか?」
「うん。アイツね、土曜の夜に必ず来るの。今日、追い払ってくれたら、依頼は終了するよ」
「分かりました」
コーヒーを入れてテーブルに運ぶ。
「ヒモオはここ出て行ったらどこ行くの?」
「行くとこなんてありません」
「仕事してないの?」
「辞めました」
「家は?」
「戻りません」
はっ!急に変な汗が出る。肝心な事を確認し忘れてた。同じミスを繰り返すなんて、馬鹿のする事なのに……どうしよう。手が震えてきた……でも、聞かなくちゃ……
「ヒモオ、もしかして、け、結婚、とかしてたりする?」
「してませんよ。結婚してるのに、借金作って女性の家に転がり込むなんて、そんな不誠実なことしませんよ」
「だ、だよね」
よかったぁ~。ヒモオについて知っていることは、独身・無職・36歳、身長185センチ、誠実。
「沙耶さん、今日は体動かしましょう」
「え、やだ」
「どうせ今日はやることないんでしょう?思ったんですけど、沙耶さんは痩せすぎです。それに運動不足だ。健康に悪いですよ」
確かに、おばあちゃんは『健康第一』っていつも言ってたけど……
「私、汗かくの好きじゃないんだもん」
「激しい運動が嫌いってことですか?」
「激しい運動は大っ嫌い。でも運動は全部嫌い」
「汗をかかなきゃいいんですか?」
「うーん。まあ……」
「無理」
「無理じゃありません」
「泳げない」
「泳がなくていいです」
ヒモオにプールに連れてこられた。
「昨日、買い物帰りに見かけたんです。地区センターのプールって、こんなに安いんですね」
まさかの入り口で、水着とタオルを買わされて、更衣室に投げ込まれた。
「もし先に帰ったら、今夜、一緒にいてあげませんから。僕、バックレますから」
「なにっ!」
人の弱みに漬け込んで、ヒモオってばやっぱり意地悪なところがある。
こんな……ぺちゃんこの胸が、そのままぺちゃんこに見えるスポーツタイプの水着なんて着たくないよ。太もももすっかすかで、小学生みたいな自分の体型が大嫌い。
肩を落として、室内シャワーを通り抜けたら、ヒモオが腕を組んで立っていた。
「やっぱり沙耶さんは華奢だな」
うっひょ~!ヒモオは筋肉がぱっつんぱっつんではないか!水滴が玉のように肌で弾けて、とてもおっさんとは思えない張りと弾力。触りたいなぁ。
「沙耶さん、なんか厭らしい事考えてませんか?」
「まさか、健全な女子なら誰でも考えることです」
「ははは。いいですよ。ほら」
そう言ってヒモオが組んでいた腕を解いて、胸筋を差し出してくる。
「え。触っていいの?」
「ちょっとだけですよ」
ペチペチと手の平でヒモオの乳首らへんを叩く。
「お、おおぉ!」
固くて柔らかい。ペチペチペチペチペチペチ
「はい。ここまで」
そう言って、ヒモオに手を捕まれてしまった。
「沙耶さん泳げないの?」
「うん。かなづち」
プールサイドに腰掛け、足だけ入れてバチャバチャする。
「歩くだけでいいから」
「やだ。足届かない」
「沙耶さん、身長は?」
「150センチ……くらい」
本当は148センチだけど。四捨五入。
「真ん中はちょっと深いけど、端なら平気です。僕に捕まってもいいから」
え。ほんと?ヒモオに捕まってもいいなら、足つかなくても全然大丈夫だけど。
プールなんて高校の授業以来じゃないかな。海なら遊びに行ったことあるけど。
「あ、意外と平気かも」
波とか無いし、ぴょんぴょん跳ねれば息もできる。
「顔つけてみる?」
「やだ。やめとく」
「無理にとは言いません」
ジャンプしながら25メートルを行ったり来たりした。
その場で跳ねてもなかなか前には進まないんだけど、ヒモオが手を引っ張ってくれて、少しずつ水の抵抗に抗いながら前進できた。




