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投資先は、訳ありな彼?  作者: あおあん


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第4話 男の人も年とか気にするんだね

「今夜の献立はなんですか?」

「カレーでいっか」

「それはそれは……手が込んでいそうですね」

「インド人が作ればそうなるだろうけど、日本人はルーを入れれば完成なの」


 市販のカレールーの箱を出す。私は辛いのが食べられないから、はちみつ入りの甘口。


「そんな便利なものがあるんですね」

「カレー食べたことないの?」

「もちろんありますけど、主にお店でしたから……」


 あ、複雑な家庭環境で育ったのかな。これ以上聞いたら悪い気がして遠慮した。


「ジャガイモは私が剥くから、二ンジンお願い。これ、ピーラー、使い方知ってる?」

「いえ……」

「こうやってシュッて、ほら」

「ほほーん」


 この人、ほんと、知らないだけで、やらせてみれば実は器用にこなせるタイプなのね。


「沙耶さんは偉いですね」

「は?」

「株取引をして生計を立ててるんですよね。こうして立派なマンションにお住まいですし」

「私が一から築いたわけじゃないよ。相続したの。この家とトレードのノウハウ」

「トレードのノウハウ?」

「おばあちゃんがトレーダーだったの。去年、死んじゃったんだけど、私、ずっと近くで見てたから。それに、この家とこの家にあるもの全部引き継げたから、おばあちゃんの日記とか過去のトレード履歴とかが残ってて、今、とても役立ってる」

「そうなんですね」


 ヒモオは上手に野菜を乱切りにした。


「やればできるじゃん」

「まあ、たぶん、沙耶さんより年上ですし」

「たぶんって何?当たり前でしょ。おっさんじゃん。ってかお父さんくらい歳上でしょ」

「え!そんなに?……え、沙耶さんいくつですか?」

「24だけど、午年、年女だよ」

「僕も午年の年男です」

「48か、やっぱお父さんじゃん」


 ヒモオが泣きそうな顔をしてしゃがみ込んだ。


「どうした?お腹痛い?」

「僕、36です」

「あ、そうなの?」

「謝ってください。48と36じゃ12も違うじゃないですか」

「だって。どっちもおっさんじゃん」


 口を大きく開けて、ヒモオが固まった。


「息しなよ。窒息するよ?」

「沙耶さん……ヒドイです」

「20代には30代も40代も変わらないんだよ」

「そうかも知れませんけど……僕はおじさんじゃありません」


 ヒモオがあんまりしょんぼりするから、可哀想になってきた。


「ごめんって。私、おっさん嫌いじゃないよ。ほら、不倫相手も、ね?おっさんだったでしょ?」

「おっさんが恋愛対象になるってことですか?」

「うーん。恋愛に歳とか関係ないでしょってこと」

「なるほど」


 ヒモオが何に納得したのかは知らんが、鍋に具材を入れ煮込み始める。


「今日は金曜日だから、お酒飲もうっと。ヒモオも飲む?」

「沙耶さんがいいなら。僕も飲みたい気分です」

「老けてるからって拗ねないでよ」

「ふふふ老けてる……?!」

「もう、ウケる」

「ちっとも笑えません!」


 赤ワインのコルクをヒモオに抜いてもらった。


「お酒好きなんですか?」

「うん。でも、平日は飲まない」

「トレードがあるからですか」

「それもある」


 好きだけど、すぐに酔っちゃうんだよ。一口飲んだだけで、こうやって頭がクルクルしてきて、記憶がもやっと不明瞭になってくる。こういうのが嫌いじゃないけど、やっぱ一人では怖いよね。


「沙耶さん、沙耶さん?」


 ヒモオの声が聞こえるけど、眠くて答えるのが面倒くさい。


「沙耶さん、カレー出来そうですよ」


 箱の裏を見ながら、ヒモオがルーを入れたみたい。カレーの匂いが部屋に充満してきた。


「沙耶さん、食べます?」

「いや。いいや。もう寝る」

「え?」


 体の力が一気に抜けて、少しも動きたくない。

「ん」両手を広げてヒモオに抱っこのお願い。


「沙耶さん、それはちょっと」

「力仕事……」


 少し間があって、私の体がふわっと浮いた。お姫様みたいな抱っこじゃなくて、高い高いみたいなだっこ。なんでもいいや。


「沙耶さん、ベッドルーム開けますよ」

「あい」


 ヒモオは私を肩に担いでドアを開けた。

 私のお尻がヒモオの顔のすぐ隣にある。

 おなら出ちゃったら、どうなるんだろう……ふふふ……ウケる……


「なに、笑ってるんですか?」

「だって……ヒモオでっか!巨人族みたい」

「はいはい」


 ベッドに寝転がしてもらって、布団を掛けてもらった。


「待って」


 ヒモオが行っちゃう。


「ここにいて」

「それはできません」

「命令です。隣でボディーガードをしなさい」

「敵はいません」

「寂しい。孤独が大敵なの」

「沙耶さん……」

「お願い。一人になりたくない」


 ヒモオはゆっくりとベッドに入ってきて、添い寝をしてくれた。ヒモオは背も大きいけど、胸板も厚くてふっくらとしている。顔を擦りつけたら、腕をくるっと頭に回してくれた。






「お腹が空いたなぁ」


 大きく伸びをして、カーテンを開ける。

 白湯を入れて飲みながら、マーケット情報を確認する。


「あ、そう言えばカレーだったんだ」


 トレーダーは土・日・祝日は休みだ。だから今日はパソコンの前に座らなくていい。散歩にもいかない。


「ヒモオ、一人で食べたのかな」


 昨日食べ損ねたカレーの鍋を温める。起こして一緒に食べた方がいいかな。寝かせてあげた方がいいのかな。


 いろいろ考えたけど、結局一人で大盛カレーをかっ食らう。


「旨いじゃん!」


 ヒモオの料理の腕は確実に上がっているな。ふむふむ。


「おはようございます」

「あ、おはよ」


 買ってあげたスエットは昼間の制服になったみたいだ。来たときの半袖短パンがパジャマに格下げになったみたいで、ヒモオはその格好で出てきた。


「一晩寝かせたカレーはマジで旨いよ。ヒモオも食べなよ」

「はい」


 ん?機嫌悪いのか?二日酔いか?


「沙耶さん、昨日のこと覚えてますか?」

「覚えてるよ」

「あんなこと、男性に頼んじゃだめですよ」

「あんなこと?」

「危険です。こんなおっさんだって、男なんですよ」

「知ってる。男だからおっさんなんだし」


 酔っぱらったけどさ。そんなに怒ることないじゃん。


「男の人をベッドに誘うなんてよくありません」

「なんで?」

「なんでって……襲われたらどうするんですか?」

「襲ってくれてよかったのに。そう思える人じゃなきゃ誘わないし」

「な……!」


 ヒモオってばうぶなのか?


「言ったけど、私、不倫してたんだよ?処女じゃあるまいし、男の人を家に上げることの意味くらい理解してるよ」

「襲われても文句は言わないんですか?」

「時と場合に寄るよ」


 ヒモオは私がおっさんを金で買ったって思ってるかもしれないけど、これは浪費じゃない。投資だよ。投資にリスクは付きものなんだよ。リスクを承知でリスク以上のリターンを狙いに行く。投資の本質だよ。


「理解できません」

「考え方は人それぞれだもんね」


 食べ終わったカレー皿をキッチンに持って行く。


「僕を試したんですか?」

「違うよ。そんなことしない」

「おっさんをからかって楽しいですか?」

「からかってなんかない。本気だよ」




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