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投資先は、訳ありな彼?  作者: あおあん


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第16話 株主総会

 いつになく綺麗なよそ行きの格好をする。


「ちょっとは大人に見えるかな」


 パステルピンクのシャツにタイトスカートのスーツ。就活性に見えないように明るい色にしたけど……ま、似合っては無いか。


「おばあちゃん、馬子にも衣裳かな?」


 正直、不安でならない。昔、おばあちゃんは株主提案権の行使をしないって言ってた。


『その会社が気に入らないなら、株を持たなきゃいいのよ。応援したい会社の株しか買わないんだから、応援出来なくなったら売ってしまいなさい。会社を変えようなんて考えるのは時間の無駄よ』


 ちゃんと覚えてる。だけど、その教えを私は破った。


 4月、私は広尾フロンティアに株主提案を送った。


 それはフェアトレードを実施しないのであれば、現経営陣の体勢の見直しを要求するもので、今の代表取締役である、ヒモオのお父さんにフェアトレードを復活して欲しいという願いだった。あまり詳しいことは知らないけど、議案は過半数の賛成で可決されるはず。


「駄目で元々だよね」


 6月のどんよりとした天気のなか、私は折りたたみ傘を鞄に入れて株主総会に出席した。






 会場は大きな駅直結のホールみたいなところで、意外とラフな格好をしたオジサンたちがいっぱいいる。


 緊張しながら、後ろの方の端っこの席に座った。


 司会の女性が社長を紹介し、ヒモオのお父さんの演説が始まった。

 顔はあまり似てないけど、大きな体格と姿勢の良さがヒモオと重なる。


「まずは、決算報告を行わせて頂きます。その後、中長期経営計画のご説明に移らせて頂き、最後に株主提案が議題に上がっていますので、それについて当社の見解をお話します。えー、それでは早速、本年度はベトナムを始め主要な仕入先との取引を見直したことにより、収支が大幅に改善されております。従いまして、株主の皆様にはここ数年に比べより多くの還元が出来ましたことを嬉しく思います」


 丁寧だけど温かみを感じない。穏やかな表情なのに冷たい雰囲気を伴った中年男性に、ぶるっと震えた。この人に意見するなんて無謀だったかもしれない。


「当社は過去5年に渡り、フェアトレードを計画的に進めて参りました。しかしながら、昨今の物価高や人件費の高騰で想定以上の費用が計上されたことは、日頃から当社がホームページで発信しているIR情報でご承知いただいている事と存じます。その影響で、株主様へはご迷惑をおかけしておりますが還元率は低下の一途を辿り、昨年度の配当金が著しく低かったことはここで申し上げるまでもありません。当社と致しましては、信頼を置いて下さっている株主様に顔向けできないとの思いから、若干ではございますが、今年度は仕入れ価格を調整させて頂く流れへと経営の舵を切りました。無論、現地の取引に無理難題を申し上げたつもりはなく、他者との比較においても決して遜色のない程度でございます」


 それっぽく聞こえる社長の説明に、ヒモオがどうしてベトナムの取引契約を破談にして回ったのかが分からなくなってくる。二人の主張が噛み合っていないんじゃないかな……と、思っていたら、一番前の席の男性が手を挙げた。


「ヒモオ!」


 思わず声が出てしまい。慌てて口を押さえた。


「恐れ入ります。ご意見、ご質問に関しましては後ほどお時間を設けますので、今は発言をお控えください」


 司会の女性に言われ、椅子から腰を浮かせたヒモオが着席した。


「当社は非営利団体ではございません。利益を得て、それを世の中に還元する。そのサイクルを図れない経営方針は持続可能ではありません」


 どこからともなく拍手が沸き起こった。フェアトレードの精神より、配当金の方が嬉しい株主はいっぱいいるみたいだった。


「当社の中長期計画は適切な利益を得ながら成長を続ける事を大前提としております。採算度返しのプロジェクトで会社の存立が脅かされていいはずがありません。つきましては、本議案にあります株主提案『フェアトレードの復活』に関しまして、当社経営陣は『反対』の立場を取らせて頂きたいと思います。なにも、新興国から搾取をしようと申しているのではありません。あくまで、持続可能な経営計画の中で、お支払いできる妥当な契約金での取引を仕入先に要求していくものとご理解ください」


 拍手喝采だった。胃が縮みあがってくる。

 社長が壇上に立ったまま、司会の人に頷いた。


「それでは、本ご提案を頂きました株主様より一言、皆様にメッセージをお願いしたいと思います」


 入り口で打ち合わせをした黒いスーツの男性が、私にマイクを持って来る。断わることも出来たらしいけど、提案しっ放しってのもどうかな……って軽く考えていた。なんて言ったらいいんだろう。


「あ、えっと……」

「お名前は名乗らなくて結構ですよ」


 司会の人が微笑んでくれて、少し落ち着いた。


「り、利益が無くなるほどの価格でなくて良いと思うんです、けど、やっぱり、一度掲げたフェアトレードを取り下げるって言うのは、会社のイメージがよくないんじゃないかなって。それに安定した取引先があるから農家さん達は安心して生産が出来ると思うので、契約金を急に下げるとかは困るんじゃないかなって……物価が上がってるのはどこの国も同じなわけだし……」


 尻すぼみに声が小さくなって、言いたいことが尽きてしまった。


「以上でよろしいでしょうか?」

「……はい」


 マイクを黒服に返す。


「他にもご意見を賜りたいと思いますが……はい。では、最前列の男性」


 手を挙げたヒモオがさされた。


「今、代表取締役からご説明ただいた内容には具体的な数字が出てきませんでしたので、社長のおっしゃる『若干の調整』『妥当な契約』という金額がどのようなものかお話させてください」

「黙れ!社外秘だ!」


 社長が鬼の形相で怒鳴った。


「いいえ。全て決算書から読み取れる、公になっている数字です」


 ヒモオはここ5年間の支払額の推移と今年度に入って減額された価格をパーセントを使いながら分かり易く話してくれた。会場中で「そんなに」とか「やり過ぎじゃないか」と言った小さな非難の声が囁かれた。


「以上です。皆様のご判断の材料となれば幸いです」


 ヒモオがマイクを手放した。


「私もいいですか?」


 中央付近にいた女性が手を挙げた。

「王麗子じゃないか?」そんな声が聞こえてきた。インサイダー取引の疑惑で事情聴取を受けた彼女は潔白が証明されたと、先日のニュースで読んだ。


「あらやだ。ちょっとした有名人にでもなった気分だわ。私も今日は一株主として総会に参加させて頂いています。輸入販売を行う総合商社にとって、仕入先様との関係は何よりも重要視すべき事です。良いものを仕入れて、相当の価格で販売する。それが出来るのは仕入先様との信頼関係があってこその事です。株主配当を優先させるあまり、過度なコスト削減をする会社には投資する価値を見い出せませんわ。申し上げたいことは以上です」


 麗子さんはそう言って座った。なんだかかっこいい。


「虎太郎君も麗子ちゃんも立派に育ったな」


 隣に座っていたおじいさんが呟いた。


「他にご意見がなければ、決議に移らせていただきたいと思います。只今より、皆様のお手元にございますタブレットより、『賛成』『反対』の投票をお願い申し上げます。これより、本日より以前に回答を頂いております分と、インターネット配信でご覧になっている株主様の投票、会場にお越しいただいている方々の投票を合わせて集計を行います。開票結果の発表は40分後を予定しておりますので、投票後は皆様しばらくごゆっくりとお過ごしくださいませ」




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