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AI作家  作者: 社畜太郎
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第五話

『日向海は、AIを使いました』


遺書の冒頭。


その一文が、世間を再び騒がせた。


やはり。


そう思った者もいた。


しかし。


その後に続く文章によって。


誰もが言葉を失った。


日向海。


本名、山田健次郎。


彼は世間から見れば、孤独な人だった。


六十代。


元地方公務員。


離婚経験あり。


身寄りもなく、一人暮らし。


しかし。


本当は違った。


彼には、娘がいた。


ただ。


山田健次郎自身、その存在を知らなかった。


若い頃。


彼は過ちを犯した。


不倫。


そして、妻との婚約関係は長く続かなかった。


別れた妻が妊娠していたこと。


その子どもが生まれていたこと。


彼は知らなかった。


離婚後。


元妻は一人で子どもを育てていた。


シングルマザーとして。


朝から晩まで働き続けた。


そして。


限界を迎えた。


過労で倒れた元妻。


その時、初めて山田健次郎は知った。


自分には。


娘がいる。


彼は娘を引き取った。


しかし。


すでに時間は戻らなかった。


幼い頃から経済的に苦しい環境。


周囲との違い。


その影響は、娘に残っていた。


学校ではいじめを受けた。


それでも。


娘には一つだけ、支えがあった。


アイドル。


画面の中で笑う存在。


どんな時でも前を向く存在。


娘は言った。


「私も、誰かを元気にできる人になりたい」


そして。


一冊のノートを書き始めた。


そこに書かれていたのは。


一人の女子高校生の物語。


どれだけ傷ついても。


どれだけ否定されても。


最後にはステージに立つ少女。


それは。


娘自身だった。


自分がこうなりたい。


こうありたい。


そんな願いを込めた。


私小説だった。


しかし。


現実は。


物語のようにはいかなかった。


娘は高校生の時。


難病を患った。


夢の途中だった。


アイドルになることも。


誰かを照らす存在になることも。


叶わないまま。


娘は亡くなった。


山田健次郎は。


そこで完全に壊れた。


それからの人生は。


仕事だけだった。


考えないため。


思い出さないため。


ただ働いた。


そして。


定年退職の日。


時間だけが残った。


何十年ぶりかに。


娘の荷物を整理した。


その時。


見つけた。


途中で終わった原稿。


主人公はまだ。


夢の途中だった。


最後のページには。


こう書かれていた。


『いつか、大きなステージに立つ』


山田健次郎は。


その文字を見て。


初めて泣いた。


「……そうか」


娘は。


死ぬ直前まで。


続きを書いていた。


終わらせたくなかった。


病気で終わる人生ではなく。


夢を叶える人生を。


父親として。


最後まで見せてやりたかった。


だから。


続きを書いた。


娘が話していた未来。


娘が好きだったアイドル。


娘が憧れていた存在。


それらを参考に。


山田健次郎は物語の最後を書いた。


ただ。


一つ問題があった。


娘が書いた文章。


その若い感性。


その言葉遣い。


その空気。


自分には再現できなかった。


そこで。


AIを使った。


娘が残した文章。


そして。


自分が書いた続きを読み込ませ。


「この少女が書くなら」


「この時代の少女なら」


そういう形になるよう。


文章表現を補正させた。


物語の心臓は。


自分が書いた。


しかし。


表現の一部には。


AIの力を借りた。


それが。


『可愛すぎるの、何が悪い?』


だった。


そして。


遺書の最後。


一番下に。


小さな文字があった。


『本当の主人公の名前は、柏木那奈子ではありません』


鵜飼は息を止めた。


『私の娘。山田奈々未です』


その一文で。


すべてが繋がった。


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